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オーストラリア代表に30-63と大敗。日本代表、当事者はどう見る?【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
写真中央がリーチ。スクラムは時間を追うごとに改善された。(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 30―63で敗戦も、国内でのラグビーのテストマッチ(国際真剣勝負)最多となる「43621人」は概ね穏やかだった。メインスタンド中段の記者席からは、目立ったブーイングなどは聞こえない。

 2017年11月4日、世界ランク11位の日本代表が同3位のオーストラリアに大敗。導入2週目の防御戦術こそ機能も、序盤の反則などで過剰なチャンスを与えた格好だ。

 試合後、敗れたジェイミー・ジョセフヘッドコーチとリーチ マイケルキャプテンが会見。会場などの都合で質問回数が限られたなか、終了間際にはリーチが自らマイクを取った。

 ニュージーランド出身のジョセフは、ハイランダーズの指揮官として2015年のスーパーラグビー(国際リーグ)制覇も着任2年目となる日本代表では受難。2017年6月には、主力を欠くアイルランド代表に2連敗した。

 同じくニュージーランド出身も日本国籍を持つリーチは、歴史的3勝を挙げたワールドカップイングランド大会で主将。一時は代表を辞退も、この6月から復帰。秋からキャプテンに返り咲いていた。

 日本代表は、ワールドカップ自国開催大会を2年後に控える。

 以下、公式会見中の一問一答(編集箇所あり)。

ジョセフ

「今回の試合では前後半で内容が異なった。前半は規律を守れず、スクラムも劣勢に。自分たちのゲームができず、苦しいスタートとなりました。後半もかなりリードされたが、相手にプレッシャーをかけることでどんな試合の組み立てができるかという力量を見せられました。

 ターンオーバー(接点などでの攻守逆転)が多かった。両チームともです。いずれもコンタクトでボールを失う機会が多く、お互い3分の1のボールを失ったと思います。我々の苦戦は、体格の大きな選手をディフェンスで止めるということ。相手には大きな選手が揃い、オフロードパスを繋がれ、勢いを与えた。これがティア1に対しての、我々の課題になると思います。そして、今回、43000人の観客が入った。ワールドカップがどういう雰囲気で行われるかを国民が味わえた。チームにとっても嬉しいこと。ホームでこのような観客動員数でできたのはよかったと思います。でも、トップチームとやる試合がいかにタフか、再認識させられました」

リーチ

「きょうは43000人という多くの人が見に来てくれて、感謝しています。ジャパンはまだ成長段階です。今日の試合のキーワードは1個しかない。勢い。それを、どうコントロールするか。それが、今後の課題になると思います。自分たちのレベルがわかりました。前回のアイルランド代表戦の時も同じこと言ったと思うけど、新しいチームでこのゲームを経験できて、ワールドカップへかなりいい準備ができたと思います。

(集合から)この2週間でディフェンスの練習をたくさんしてきて、少しずつよくなったけど、1対1のタックルが、ワールドカップでベスト8になるレベルじゃない。あとはディシプリンがまだ足りない。いい部分もたくさんありましたけど、この試合はすごく残念。これをベースにしてチームを強くしていきたいです。今後もよろしくお願いします」

――先発ロックとしてデビューした姫野和樹選手について。

ジョセフ

「彼は非常にハードワークしてくれた。リアルロックではないが、強いキャリアーで、ワークレートが高い。我々はロックに一定の仕事を求めるが、それをカバーしてくれた。若いが、ティア1の国を相手によく頑張ってくれた。前半のミス(突進と同時に落球が重なった)は、強豪国のもたらすプレッシャーによるものだったと思いますが、最後にトライを取れたことは彼にとっていい経験になったと思います」

――前半で大差をつけられた。こうならないためには何が必要か。

ジョセフ

「まず、すでに申した通り、あれだけのペナルティーをすると苦しくなる。体格差があるなか、窮地に追い込まれた。今後、取り組むべきは規律だと思います。アイルランド代表戦、皆さまはご記憶にないかもしれませんが、私は明確に覚えています。前半シンビンがあり、その間に失点しました。選手たちは規律を侵すとどうなるか、教訓として捉えないといけない。プレッシャー下、無理に何かをしなくてはいけないと空回りして、その状況に陥ると思うのだろうが、そこはぐっとこらえて、チームを信頼し合って自分の仕事に集中しなければならない。

 もうひとつ忘れてはいけないのは、オーストラリア代表は直前までラグビーチャンピオンシップでニュージーランド代表や南アフリカ代表などと戦っている。一方、日本代表は(国内の)トップリーグ期間中で、それはアマチュアのレベルで、日本代表は集合間もなく、ここまでできた。課題は残りますが、その点も認識しておかないといけない」

リーチ

「アイルランド代表との2戦目ときょうのオーストラリア代表戦、アティチュードは問題ないと思います。勝ちに行くメンタリティ持って、試合への準備も全力を尽くしてきました。

 あとは、なぜこの結果になってしまったかということですが…。試合中のマネジメント、判断を考えないといけない。トップ4とやる時は、ディシプリンがだめだと何もできないです。もうちょっと試合中の判断の(質を上げて)プレーしないといけない。試合のマネジメントをちゃんとしないと、こういう流れになってしまう。

 もうひとつ。いまはトップリーグがあって、自分たちがやりたいラグビーとフィジカリティがマッチしていない。自分たちはもっとハイテンポでやりたいのに、体力的に、厳しい。もう少し強化の時間があったら、もっと自分たちのラグビーができる。メンタル面は、チームのなかで、スタッフを含めて同じ方を向いていると思います」

 敗因や今後の指針などに話題が及びそうなところ、「次が最後の質問」とされた。どう展開するか…。

――いままではウイングのトライも多かったが、きょうはモールなどでのトライもあった。

 指揮官は少し、笑う。

ジョセフ

「多面性にこだわっています。バックスでのスピードにこだわってきましたが、きょうはそこでは不利でした。相手も速く、体格は大きかったです。ただ、きょうはグラウンドの真ん中にスペースがあって、モールも機能した。途中出場のシオネ・テアウパもインパクトを与えました。選手には、フリーライセンスで判断してアタックしろと伝えています。判断を誤ってランすべきところでキックしたり、キックすべきところでランしたりということはありますが、すべては判断です。スペースへアタックするということです。

 ワールドカップに向け、どういう準備をするか。もう少し勝てそうな国とやった方がいいのではないかという意見があるかもしれないが、自分はそんなことはないと思います。強豪とやって準備したい。ファン、メディアの方も忍耐力を持ってサポートしてほしいと思います」

 離席を促されるなか、リーチが「ちょっと、ラスト…」とマイクを持つ。笑顔を作り、報道陣への謝辞とファンへのメッセージをまとめあげる。

「日本代表のテストマッチは、きょうが今年最後です。いままでサポートしてくれて感謝しています。きょう多くのファンが集まったのは、皆さんのおかげです。たくさんテレビに出してくれて、マガジンにも書いてくれて。感謝しています。2019年、本当に成功したいので、ラグビーだけじゃなく、日本の良さをたくさんアピールして、皆で頑張っていきましょう。今年、今日は、ありがとうございました」

 イングランド大会で存在感を示した日本代表だが、以後は新たなチャレンジの結果としての回り道を強いられている。

 国際リーグのスーパーラグビーへ日本のサンウルブズが参戦。海外勢とのぶつかり合いに慣れた一方で、長期的かつ個別の計画がものを言うフィジカリティ、フィットネスの強化は後手に回った。それが、昨秋のジョセフ就任後の苦戦の遠因となったか。

 ラグビー大国ニュージーランド出身のジョセフが、代表選手の肉体強化のために国内リーグの編成にコミットしたいと考えるのは自然かもしれなかった。もっとも、選手の生活を支える国内トップリーグの存在感は大きく、前指揮官のエディー・ジョーンズ(現イングランド代表監督)も、現状を踏まえて「(鍛える時間がないという)言い訳はできない」という旨の発言をしたことがある。もちろんトップリーグに代表を支える意向は強く、2018年度は当初の予定よりも大幅な短縮がなされる。

 この流れとは別に、今度の試合に向けては怪我人などが重なり23名中5名が初陣だった。

 戦前からタフな状況下にあったことを鑑みると、今度の試合へのおもな見立ては「悪条件のもとよく頑張った」か「条件を揃えるところからが勝負だろう」の2種類に分かれるか。ジョセフの見解は前者に近く、リーチはその両方の視座を踏まえて未来を語っている印象か。

 日本代表はこの先、トンガ代表、フランス代表とテストマッチをおこなう。今回は、リーチら成功体験のある主軸のグラウンド内外での献身が期待される。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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