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サントリー沢木敬介監督が語る「非公開」「制限」「想定内」の意味とは?【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
この歓喜の瞬間の裏にも、「制限」があった?(写真:FAR EAST PRESS/アフロ)

 日本最高峰のトップリーグで昨季王者となったサントリーの沢木敬介監督が、10月11日、就任2年目にして初の非公開練習をおこなった(東京・サントリー府中グラウンド)。

 チームは15日にトヨタ自動車、21日に一昨季まで3連覇を果たしたパナソニックといった強豪クラブと対戦(場所はそれぞれ京都・西京極総合運動公園、埼玉・熊谷陸上競技場)。関係者によれば翌週も一部非公開練習を実施する予定で、緊張感の醸成などの目論見があるようだ。

 この日のトレーニングとスタッフミーティングを終えた後、沢木監督本人が単独取材に応じた。話題は今度のトヨタ自動車戦のみならず、これまでの戦いのレビューや選手採用、さらには移籍1年目も公式戦に出られない田村煕の成長ぶりについても及んだ。

 以下、単独取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――きょうは、就任後初の非公開練習でした。

「ちょっと雰囲気を変えようかなと。緊張感、じゃないですけど。深い意味はないです」

――「雰囲気を変えよう」と思ったのは、次以降の相手が上位争いに関係しそうな強豪クラブだからですか。

「それはあんまり関係なくて。(この先が)前半戦、残り2試合だから。それに向けてという感じです。あと2週間、集中力を高める意味でやっているだけです」

――確かにこの2戦を終えると、ウィンドウマンス(11月に定められた代表活動期間)に突入。トップリーグは一時中断します。実は、この週から初めて採り入れる動きなどがあって、それを見て欲しくないのではないかと勝手に想像していたのですが…。

「それもあります。準備の段階でそういったことも。ただ、メンタルの切り替えのためというのが大きいです。別に、僕は非公開とかをあまりしないタイプですから」

――改めて、次戦でのポイントを教えてください。

「トヨタ自動車はフォワードの強いパックを使った、南アフリカのジェイクのラグビーをやると思うんですよ。僕らはそれに付き合わずにボールを動かし、スペースを攻める。それだけです。ただ、それをするための準備はいろいろとあります」

――両軍の戦法や選手の顔ぶれを踏まえると、サントリーはセットプレーの数を減らしてボールが動き回る時間を長くしたいのでは。

「そうした方がいいのであればそうします。どちらのゲーム状況でもできるようなトレーニングをしてきているので、ゲーム状況で判断していこうと思います」

――キーマンはスタンドオフのライオネル・クロニエ、ナンバーエイトのジュアン・スミスといった新外国人選手でしょうか。

「僕らはインターナショナルスタンダードでやっているので、ビッグネームには逆に燃えてくるんじゃないですか。トヨタ自動車には夏合宿での練習試合で負けていますからね。メンバーがどうとかは関係なく、チームで、負けていますから。同じチームには2回負けないです。はい」

――遡って、9月23日のクボタとの第5節(熊谷)では、54―17で勝利も課題を残していました。ダブルタックルで肉弾戦からの球出しを遅らせられるなか、攻めても点を取れない時間があったような。

「あの時は、ポゼッションを確保しろというお題を出していました。周りが見えていてキックを蹴りたい状況でも、『蹴るな』と。蹴るシチュエーションを僕が制限していたんです」

 目の前にスペースがあればボール保持者がそのまま走り、真横にスペースがあればそちらへパス、前方の奥側にスペースがあればそちらへキック…。そんな論法に沿って考えれば、クボタ戦時のサントリーは、前方の奥側にスペースがあると判断してもキックをしない時があった、ということとなる。

――プレーの「制限」。もしや、後半ロスタイムにヤマハから27-24で逆転勝利をもぎ取った第3節(9月2日、東京・秩父宮ラグビー場)の時もありましたか。

「ヤマハ戦も、キックに対しての決まりはつけていました。蹴るんだったらこの状況で蹴れ、と。何がプラスになって残るかを色々と試してやっているので。その方が、逆に、見えてくるんですよ」

――蹴るなと言われた方が、蹴るスペースが見える…。これは覗くなと言われた方が覗きたくなるのと同じで、人間の心理としてわかる気がします。

「この間のサニックス戦(10月7日、45―0で勝利)だけですよ。戦い方の制限しなかったのは。ただその試合では、スペースは見られていたけど、そこにスキルが追い付いていない感じ。簡単なミスもあった。トヨタ自動車戦、パナソニック戦は、いままでやってきたことをどれだけできるかといういいテストになると思いますね」

 クボタ戦時の課題は、一部の選手も問題視していた。ただ指揮官は、「そこについての戦術とかの整理は、しないようにしています。まだ。いいんじゃないですか、選手が色々と考えていて」。一戦必勝を誓いながらも、中長期的な視座でチームを見つめているようだ。

――それはそうと、沢木監督は記者会見などで、活躍した選手へのコメントを求められると決まって「想定内」と仰います。これは、その選手への大きな期待の裏返しと見てよいのでしょうか。

「それぐらいやれなきゃ、採らないです。僕は。ベテランといまいる若手に関しては、(選手やコーチとして)昔から見ていたり、リクルートに関わっている選手」

――そのお話を伺う限り、採用担当の大久保尚哉さんとも連携を図っているようですね。

「サントリーのラグビーができる人間を採ろうという話をしているので。U20でコーチングをして、才能あるんだろうなと思うから採っただけです(沢木監督は、2013、14年度の20歳以下日本代表でヘッドコーチを務めていた)。来年入る選手までは、僕がU20で関わっている(当時の大学1年生)。まぁ、楽しみにしていてください」

――社会人2年目ながら今季移籍加入した田村煕選手も、充実しているようです。

「調子、いいですよ。ちゃんと、書いてくださいよ。すべてにおいてよくなっていますよ。ラグビーって、正解はないんです。ただ、そこで早い判断ができて、しっかりしたビジョンで見れていて、それにスキルが伴っているかが大事。煕は、そのレベルが上がっている。一番、変わっているのはコミュニケーション能力。周りを使うコミュニケーションが取れてきた」

――攻撃が目まぐるしく動くなか、周りの選手に立ち位置や動きを伝える余裕が出てきたということでしょうか。

「そうそう。もともとビジョンがあって、スキル、能力はある選手。ただ、以前は少し雑だった。それが、いまは精度も高まってきている」

――とはいえトップリーグの移籍規定上、移籍元からリリースレターを受け取っていないため今季は公式戦に出られません。

「あいつの人生を、1年間、そういう状況に追い込んでいくというのは…。ワールドカップをやろうとしている国でラグビーをしている人のなかからそういう判断が出るのは、残念です(2019年にワールドカップ日本大会が開催される)。サントリーなら、絶対にやらない。会社的にも、そういう教えは一切なされていないので。ちょっと前まで日本経済新聞で連載されていた『琥珀(こはく)の夢――小説、鳥井信治郎と末裔(まつえい)』(伊集院静氏著)というサントリーの物語を読んでもらってもわかりますけど」

 果敢なチャレンジと開放感をモットーとするサントリーで選手、社員、指導者としてキャリアを積んできた沢木監督。田村の件も、移籍のやりとりそのものには触れず選手の成長促進に関する私見、愛するクラブの態度についてのみ言及する。いずれにせよ、正直かつ具体的な「ビジョン」を示す。

――改めて。向こう2戦は、2017年度前半戦の集大成になる。そんな印象ですね。

「トヨタ自動車にはしっかりとした形のラグビーをして、パナソニックに対しては色んな意味で新しいチャレンジをやろうとしている。色んなところで、見えると思います。楽しみにしといてください」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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