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教職課程との狭間で。東海大学キャプテンの野口竜司、日本代表への思いを改めて。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
競技理解度の高さに定評がある。(写真:アフロスポーツ)

 今春の4~6月におこなわれたラグビー日本代表のテストマッチ7試合全てに先発した野口竜司は現在、東海大学のキャプテンとして加盟する関東大学リーグ戦1部に出場中。10月下旬から約5週間ある日本代表ツアーでも招集が期待されるなか、揺れる胸中を明かした。

 昨春に代表デビューした野口は、昨秋着任のジェイミー・ジョセフヘッドコーチに落ち着いたプレーぶりを買われ、ベストメンバーの揃った今年6月のツアーでも全3試合でフルバックとして先発。身長177センチ、体重86キロと決して大柄ではないものの、判断力やランニング時のボディバランスで魅した。

 10月8日、東京・秩父宮ラグビー場。8月下旬から約3週間、教育実習のためチームを離れていた野口は、合流後2戦目として関東学院大学戦に先発。69―7で勝利したこの日は、本職でグラウンド最後尾のフルバックではなくタッチライン際のウイングでプレー。木村季由監督はこの時期、今後野口が離脱した場合の代役フルバック候補を試験的に起用しているのだと話した。

 この日の試合後、本人は代表活動を通して今後の進路を決めた経緯、さらには学業とツアー帯同との兼ね合いへの思いを明かした。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――教育実習について。

「9月に3週間ぐらい、東海大仰星高校(母校)に行きました。(指導者としては)自分が学んできたことを教えられたらいいと思います。大学にいても『もっとこうしたらいい』と感じる部分もあるので、それを引退した時に教えられるような立場になれたら。高校生の元気の良さは刺激になりました。また、自分の話し方、伝え方はまだまだだと感じました」

――今年は長らく、代表活動などでチームを離れました。

「もともと今季の僕らは、引っ張っていくようなリーダーシップを持つ人間のいる学年ではなかった。その意味では、僕がいないなかで色々な選手がリーダーシップを取るようになったと話を聞いています。僕が抜けたことでいい部分もあったりするのかな、と思います」

――卒業後はプロ選手になります。日本代表で一緒になった選手から影響を受け、進路を決めたようですね。

「自分が持っていない考えを言ってくれる選手がいると、『そんな考えがあるんだ』という新しい感覚にもなれました。代表へ行ってよかったと思えました。(進路先は)自分をレベルアップできる環境だと感じました。代表に呼んでもらうことでもっと上を目指したいと思ったなか、どこが一番成長できる環境かを考えました」

 ここで注目されるのは、野口の今秋のツアーへの合流可否だ。今度は世界選抜戦、オーストラリア代表戦、トンガ代表戦、フランス代表戦が予定されていて、東海大学側の主張によれば日本協会は野口に「5週間」のプロテクトを要請している様子だ。

 とはいえ野口は、目下、教員免許取得のための教職課程を履行中。東海大学の教職課程では、11月に出席必須の授業が重なっているという。通常の学部の授業と異なり、体育学部教授でもある木村監督の調整が及びづらい。

 大学ラグビー部の関係者によれば「(教職課程の授業出席免除は)オリンピックに出る選手でもよほどのことがないと…と言われているもの。今回、(通常は春先に組まれる)野口の教育実習のタイミングをずらしたのもかなり異例だった」とのことだ。

――もし今回、5週間のフル帯同を義務付けられたら。

 野口本人はこう言葉を絞るのみだ。

「学校との兼ね合いもあって、目の前のチャンスを手放したくないという気持ちもあり…。そこは、何とも言えないです」

 2015年まで4年間続いたエディー・ジョーンズ前ヘッドコーチ体制下も、当時大学生だった福岡堅樹、藤田慶和(ともに現パナソニック)が秋のツアーに帯同していたが、11月中旬には帰国が許されていた。ジョーンズ前ヘッドコーチは常に選手やスタッフへ献身を求めてきたが、選手の日程調整について表立った問題は起きなかった。

 一方で2011年まで5年間続いたジョン・カーワン元ヘッドコーチ時代、東海大学のリーチ マイケル(現東芝)の秋の代表活動に関するトラブルが勃発している。木村監督は大学関係者を交え、事前に当時の太田治ゼネラルマネージャーと諸事を調整。ところがリーチを先発させる予定だったリーグ戦の試合の前日、テストマッチのリザーブにリーチの名があった。

 東海大学は木村監督が常に「チャンスがあれば行かせる」と話すなど、代表活動に協力的。ただしその時々の代表指揮官と自軍との間を取り持つ日本協会のマネジメントには、時折、疑問符を浮かべている。選手選考そのものは代表ヘッドコーチの専権事項。しかし、現場の要望とやむを得ぬ事案との折衝をすべき担当者は、他にいるはずだ。

 野口の向上心が最も前向きな形で生かされることを、誰もが望んでいる。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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