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報道陣一桁でもトヨタ自動車は「ジェイクウェイ」。会見ではいつも名調子【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
右はフランス大会を制した時のホワイト。左のジュアン・スミスも現在トヨタ自動車に。(写真:ロイター/アフロ)

 10月7日、雨に見舞われた岩手県盛岡市のいわぎんスタジアムで、国内最高峰トップリーグの第7節があった。

 関東や関西での試合と違って、会見場に集まる記者は数える程度だ。そんな時でも、トヨタ自動車のジェイク・ホワイトは変わらない。

 具体的かつシャープな言葉選びでゲームを振り返り、質問に答える延長線上で次戦以降のレフリーへのアピールを添える。2007年に南アフリカ代表を率いてワールドカップフランス大会を制したこの人、現職でも選手が「わくわくするような」(フッカーでキャプテン経験者の上野隆太)ミーティングを繰り返すそうだ。

参考資料

 名将ジェイク・ホワイト、トヨタ自動車で新人をキャプテンにしたわけは?【ラグビー旬な一問一答】

こちらでも判定に不服? トヨタ自動車のジェイク・ホワイト監督が苦言。【ラグビー旬な一問一答】

 リコーとの中位陣争いを12―6で制した後、新人の姫野和樹キャプテンと談話を残す。名だたる起業家や支持率の高い政治家の演説と、どこか似た文体のような。

 

 以下、会見中の一問一答の一部(編集箇所あり)。

ホワイト

「苦戦すると思っていました。それには色んな理由があります。ひとつは天気。そしてもうひとつは、両軍の置かれた状況です。どちらも、各カンファレンスで3位。この日はどちらにとってもマストウィンといった形でした。

 トヨタ自動車は0―6で負けている状況からポイントを与えず、12-6にして勝ちました。誇りに思います。トヨタ自動車の昔のOBと話をしていると、『ようやく昔のトヨタ自動車が戻ってきた』と言ってもらえるようになりました。トヨタ自動車は、昔、こういうプレーをしていました。どんどん相手の首を絞める、ずっとファイトを続けられるチームでした。それによって成功をもたらす。

 観ていて美しい試合ではなかったですが、ああいうプレーで勝てたことを嬉しく思います。これがトヨタウェイです。ありがとう」

姫野

「ジェイクの言ったようにタフなゲーム。雨もありましたし、ミスも多くあるだろうなと思っていました。前半はセットプレーでミスが起きて、ペナルティーから失点してしまった。でも、そこで焦らずにやるべきことをしっかりやろうと話し、できたことは収穫になります。ここ数試合、ディフェンスで課題があった。それで選手たちは『今度はディフェンスをしっかりさせよう』と話して試合に臨んで、トライを許さなかった。これを継続することが本当の強さに繋がります。次のサントリー戦は本当に大事な試合。ディフェンスからいい流れを作れればと思います」

――前節までの2試合で、パナソニック、クボタから40失点以上を喫していました。防御をどうリカバーしたのでしょうか。

ホワイト

「公平に申し上げて、パナソニックは1試合あたり45点ほど点を奪うチーム。パナソニック戦に関しては、相手の抱える選手のクオリティーを考えると難しい試合になると思っていました。

 クボタ戦では、前半に40点を取った時点で自意識過剰になってしまいました。リラックスしてしまったところがあったと思います。我々は常に、会社のキーワードでもある『カイゼン』という言葉を使います。今週に関しては『ディフェンスを整備しよう』と話しました。そしてきょう、リコーの持つバックスの能力を考えますと、トライを取られなかったことは嬉しいことです」

――防御面での「カイゼン」。具体的に何をインストールしましたか。

ホワイト

「緊迫感、緊急性です。選手は、どこでどうプレッシャーを与えるべきかがわかり始めています。きょうは相手のロビー・ロビンソン(ニュージーランド出身のスタンドオフ)へよくプレッシャーをかけていました。彼は去年までトヨタ自動車にいたことから、どうプレッシャーをかけるべきかがわかっていたかもしれません。彼にプレッシャーをかければ、そのプレッシャーがチームに伝染すると思っていました」

――9―6のスコアで迎えた後半22分頃、自陣ゴール前右まで攻め込まれて反則を犯します。ここで相手は、スクラムを選択。このタイミングでホワイト監督は、最前列のメンバーを入れ替えます。特に右プロップに入ったのは、南アフリカ出身のルアン・スミス。交代の背景を聞かせてください。

ホワイト

「自陣5メートルスクラムだったからです。レフリーは(先発右プロップの)浅堀航平に対して『集中しろ』と言っていたようです。ここで時間が来たなと思って代えました」

――トヨタ自動車はこの1本を押し返し、リコーの反則を誘います。采配は的中しました。

「ここで、試合の流れが変わりました。リコーはペナルティーゴールで3点を取るチャンスがあるなか、スクラムを選んだ。そのスクラムから、トヨタ自動車がペナルティーを奪って、その先でもペナルティーキックをもらった…。正しい時にスクラムを組むのが重要だとわかりました。

 今後も我々は、あのような位置でのスクラムでペナルティーを犯さないようにしたいです。というのも、ペナルティーによってレフリーに『トヨタ自動車はスクラムを組めない』というイメージを与えてしまうからです。先週のクボタ戦、その前のパナソニック戦では、トヨタ自動車がスクラムで相手のペナルティーを奪いました。トヨタ自動車は、変わってきています。ですので…(質問者の目を見て)ご協力ください」

――スクラムの件、ブラインドサイドフランカーに入っていた姫野選手にも伺います。

姫野

「浅堀選手が(塊の)内側に入っていると、レフリーに言われていました。自分から押しに行って押されてしまうより、まずは安定させるように意識しました。修正しきれない部分があったのですが、ルー(スミス)が入ってスクラムの方向性が変わった。ここは浅堀選手にも吸収してもらって、どんどん成長していきたいです」

――大型選手の揃うフォワード陣にあって、オープンサイドフランカーの位置で身長178センチの吉田光治郎元キャプテンが今季初先発しました。

ホワイト

「彼はチームにエネルギーを与えてくれます。開幕前の練習試合で怪我をしてしまったのですが、それがなかったら今季のゲームタイムはもっとあったと思います。

 今週は、光治郎が必要でした。きょうはスーパーラグビーで笛を吹いているレフリーが担当されると聞いていました。光治郎、泰洋(ベンチスタートのオープンサイドフランカー、安藤泰洋)、姫野のような選手がブレイクダウン(肉弾戦)でいいプレーをすれば、レフリーはいい評価をすると思いました。

 光治郎は、トヨタ自動車でやるべきことを体現してくれます。というのも、チームは競争力のある選手で揃えたい。光治郎がまずいプレーをしたら泰洋に追い抜かれ、泰洋がまずいプレーをしたらタウファ・オリヴェ(この日先発したナンバーエイト)に追い抜かれる。光治郎がこういう大変な試合でいいプレーをしたことは、彼にとってもいいことだと思っています」

 吉田が得意なプレーのひとつに、ジャッカルがある。肉弾戦で相手の持つ球へ絡む動きだ。このジャッカルは、遂行した際の身体の角度や膝の位置によっては「倒れこんでいる」「横入りをしている」などと見なされ、相手にペナルティーキックを与える場合もある。ホワイトの言う「いいプレーをすれば、レフリーはいい評価をすると思いました」は、この日に限っては正当なファイトで笛が吹かれることはないだろう、という意味で読むべきか。

 出席者が唯一、言葉を詰まらせたのは、会見の最後のひとこまだった。

 ホワイト監督が話した通り、この試合は海外から招いたニック・ブライアントが担当していた。それを踏まえ、司会を務める県協会職員が姫野に「日本のレフリーとの違いはあったか」と質問。かねて日本のレフリングが批判の的となった経緯もあり、姫野は質問者の意図とは無関係に「難しいですね」と困り顔になった。

 終始、弁の立ったホワイトも小声で何やらつぶやくなか、姫野が何とか答えをひねり出す。

「(日本のレフリーが知っている)リコーの伝統、トヨタ自動車の伝統を一切、知らない。そのために先入観なく、フェアに吹いてもらっているなと思いました」

 ここまで言い切った若きリーダーの隣で、ホワイトは小さく笑った。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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