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パナソニックへの次なる刺客はライオン? 急上昇中のNTTコムが挑む。【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
抜群のチームマンで鳴らすブリッツ(中央)。(写真:築田 純/アフロスポーツ)

 どこまでもナチュラルに映る陣地獲得とカウンターアタックのシステムを涵養させているパナソニックは開幕5連勝中。特に前節では、元南アフリカ代表ヘッドコーチのジェイク・ホワイト監督擁するトヨタ自動車を43―16と大差で飲み込んだ。

 わずかなスペースをトライチャンスに変える山田章仁、爆発的なスピードを誇る福岡堅樹といった両ウイングがフィニッシャー、チャンスメーカーとして躍動。インサイドセンターには一連のプレーに何度も顔を出せる新人の松田力也が屹立。さらに司令塔に座るのは、種類豊富なキックと好判断で魅す元オーストラリア代表のベリック・バーンズだ。

 10月1日には、宮城・ひとめぼれスタジアムでNTTコムと激突する。かつてオーストラリア代表を率いたロビー・ディーンズ監督は、自軍の蹴り合いからの怒涛の攻めについてこう話している。

「キックの場面でいかに攻めるかは、いまのラグビーで大事な部分であり、我々のチームにはキックレシーブから攻めるスキルフルな選手たちがいると思っています。彼らがしっかりといいプレーができるような練習をしている、ということです。その意味では、ストラクチャーのあるところからアンストラクチャーにどう切り替えていくかを考えていかなくてはならない。もうひとつ違う言い方をすれば、いかに自然にプレーできるかを考えていくのです」

 一昨季まで3連覇中だった猛者たちを切り崩すには、問答無用の個の強さが求められそうだ。事実、フィジカリティを長所とするトヨタ自動車が競っていた時は、組織的に陣地を奪ったのちの局地戦が光っていた。豪華バックス陣に快適さを与えないためには、彼らに球が回る前のフォワード同士の局面で何らかの亀裂を入れるのが得策ではある。

 遡れば2006年度の大学選手権。有力なバックスラインを揃えて優勝候補とされた早稲田大学を倒した関東学院大学は、空中戦とキックと肉弾戦だけで試合を完結させていた。当時の春口廣監督は言った。

「だって、フォワードへのプレッシャーが矢富(勇穀、スクラムハーフ、現ヤマハ)へのプレッシャーになって、矢富へのプレッシャーが曽我部(佳憲、スタンドオフ、元サントリーおよびヤマハ)のプレッシャーに、そして曽我部へのプレッシャーが五郎丸(歩、フルバック、現ヤマハ)へのプレッシャーになる。ラグビーって、そういうもんでしょ」

 計画的な新人採用とロブ・ペニーヘッドコーチが唱えるワイドアタックがシンクロするNTTコムにあっては、そのぶつかり合いにおけるハードワーカーがいる。スーパーラグビーのサンウルブズでも活躍する、ヴィリー・ブリッツだ。

 当日ロックとして先発するブリッツは、鋭い出足でのキックチェイスやタックルを連発する。強いパーマのかかった金髪を振り乱す姿で、母国南アフリカでも「ライオン」との愛称で親しまれた。

「チームのためにベストを。痛みを感じたとしても、それをプラスの力に変えるマインドセットで」

 攻めては動き回って自軍ボールを保護し、もし相手に球が渡ったら地上戦で粘るオープンサイドフランカーの金正奎とともに防御網を埋めたい。もちろん日本代表のナンバーエイトであるアマナキ・レレイ・マフィにも、タックルと突進で持ち前の身体能力を爆発させて欲しいところだろう。

 パナソニックきっての肉弾戦マスターであるデービッド・ポーコックはベンチスタート。向こうの切り札を引っ張り出してもなお、観るものの胸打つハードワークを繰り広げられるか。

<第5節私的ベストフィフティーン>

1=左プロップ

滝澤直(NEC)…サニックスとのスクラムでは対面に惜しかった印象。勝ち越しトライに繋がった場面を含め、好ランを連発。向こうの球出しを遅らせる防御も光った。

2=フッカー

日野剛志(ヤマハ)…キヤノンのスクラムをドミネート。ランナーとしては防御の分厚い局面への突進を重ねる。

3=右プロップ

ヴァル アサエリ愛(パナソニック)…持ち前の突進力でトライを挙げるのみならず、後半初頭に自陣ゴール前でジャッカル。

4=ロック

ヴィンピー・ファンデルヴァルト(NTTドコモ)…近鉄のトンプソン ルークとの衝突合戦に競り勝つなど、突進役として再三光る。リアン・フィルヨーンが先制ペナルティーゴールを決める前の攻撃では、一連の流れで2度の大きな突破。

5=ロック

真壁伸弥(サントリー)…大量得点を挙げるも実は攻めあぐねていたチームにあって、防御網をかち割るダイレクトプレーを連発。

6=ブラインドサイドフランカー

デービッド・ポーコック(パナソニック)…オープンサイドフランカーとして先発。前半23分ごろの自陣22メートルエリアでのジャッカル、ハーフタイム直前のカウンターラックへのチャレンジなどで、トヨタ自動車と競っている時間帯に相手の攻めを断つ。

7=オープンサイドフランカー

武者大輔(リコー)…10点リードも防戦一方だった後半初頭は、タックルとその後の起立を連続。最後は鋭いタックルで落球を誘った。

8=ナンバーエイト

ヘル ウヴェ(ヤマハ)…ブラインドサイドフランカーとして先発。攻めてはオープンサイドフランカーの西内勇人とともに防御の壁を破り続ける。

9=スクラムハーフ

日和佐篤(サントリー)…好サポートでトライを量産し、ダイレクトプレーを主体としながらテンポアップを目指す。

10=スタンドオフ

ベリック・バーンズ(パナソニック)…圧力下でドロップゴールを成功させ、味方が大きく抜け出した次の局面で相手防御の裏へキック。落ち着き。

11=ウイング

ゲラード・ファンデンヒーファー(ヤマハ)…スピードを活かしたトライと安定した補給からのロングキック。

12=インサイドセンター

ヴィリアミ・タヒトゥア(ヤマハ)…力強い突進で防御網にひずみを作る。

13=アウトサイドセンター 

濱野大輔(リコー)…インサイドセンターとして先発。一連の流れで何度も顔を出す運動量と判断は攻守で発揮された。

14=ウイング

山田章仁(パナソニック)…序盤は蹴りこまれるエリアへ先回りしてピンチを未然に防ぐ。攻めては弾んだボールを仲間にして3トライ。ややエラーもあったが、接戦を快勝劇に昇華してヒーローに。

15=フルバック

松島幸太朗(サントリー)…流れを変えるカウンターアタックの際は防御をかわすロールというランニングスキルが光った。防御を鋭角に切り裂くランコースを常に模索。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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