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ジョセフの日本代表で、フルバックはどう動く? 21歳・野口竜司が明かす実感。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
「半身をずらす」瞬間。(写真:FAR EAST PRESS/アフロ)

ラグビーのフルバックとは、防御網の最後の砦としてグラウンド最後尾に構えるポジション。おもに後列両端のウイングと連携を図り、相手のキックを処理して再びの陣地獲得を目指す。攻めては後列からの飛び出しでスペースを切り裂き、チャンスを作る。2015年のワールドカップイングランド大会時の日本代表では、五郎丸歩がその座を務めた。

6月10日、熊本・えがお健康スタジアム。あの時から体制が刷新された日本代表が、ルーマニア代表戦に挑んだ。昨秋着任のジェイミー・ジョセフヘッドコーチにとっては9試合目テストマッチ(国際真剣勝負)である。

この日、フルバックを務めたのは、東海大学4年の野口竜司。今回のメンバー中、唯一の大学生選手である。身長177センチ、体重86キロと決して大柄ではないが、相手に掴まれながらも前に出るランにボディーバランスのよさをにじませる。

今季は若手中心で戦ったアジア・ラグビーチャンピオンシップを全4試合先発で終え、ジョセフヘッドコーチの信頼を獲得。海外勢らベストメンバーで臨んだ今回のルーマニア代表戦でも、スターターの座を勝ち取った。

33-21で制するプロセスでは、現体制下の戦術への適応力をにじませた。ジョセフヘッドコーチはトニー・ブラウンアタックコーチとの二人三脚で、キックを織り交ぜた素早い攻撃を標榜する。

頻繁な攻守の入れ替わりへ適応するスタイルを貫くなか、フルバックの位置では何が求められるか。ルーマニア代表選後の野口の談話には、その答えが示されていた。

以下、共同取材時の一問一答の一部(質問は概ね当方。編集箇所あり)。

――まずは今回の対戦で感じたことを伺います。相手のディフェンス、どう見えましたか。

「引いて守っていたので、どんどん自分がキャリーして前に出られる感じました。そのなかで、自分で持ってゆくオプションか、パスのオプションかを考えながらやった。その部分はクリアにできたと思います。ただ、ボールを動かしたい時に自分がどこまで仕掛けるか、というのがもっと重要になると思います」

――チームが「ボールを動かしたい時」に「自分がどこまで仕掛けるか」。どういう感覚かを教えていただけますか。

「どういう位置取りをしてどうボール(味方のパスなど)に入っていくか。僕は速くもないので、どこに対して仕掛けて、そうすればどこにスペースができるのかを考えながらやりたいです」

チームの戦術を踏まえたうえで、相手の死角を効果的にえぐる位置取りやパスのもらい方を突き詰めたいようだ。自分のランによってどのエリアにスペースが生まれるかも、動きながらイメージしたいという。身体能力のみに頼らぬ戦いざまは、大学ラグビーシーンでも目立っていた。

――ヨーロッパ勢にタックルされても、倒れずに前に出られたのは収穫ではないですか。

「(相手から見て)半身をずらして当たった分、前に出れている。ただ、あれが真正面になった時にはどうなるかはまだわからない。チャレンジしていくなか、ベストなプレーを選んでいきたいです」

――後半初頭、守りでも光りました。人数の揃わない左サイドを大きく突破されたところをカバーし、22メートル線エリアでタックル。すぐに起き上がって接点に参加しましたが…。

「止められたのはよかった。ただ、あそこでは(起き上がってから)そのままボールを獲りに行ってもよかったかな、と反省しています。『フィジカルが上回られているから無理かな』と自分で勝手な判断をして、蹴ってしまった(接点に加わる際に球が足に当たった)。ボールを奪ってからのターンオーバーアタックでもよかった」

後方に攻撃用の人員が揃っていたとあって、チームの看板たる素早い連動攻撃を繰り出したかった、という意味だろう。

イングランド大会時のキャプテンだったリーチ マイケルは、いまの戦い方について「カオスを作る」と表現したことがある。ボールを縦、横に動かし、両軍入り乱れたような「カオス」の状態から、ひとつの組織として正しい判断を下すイメージか。目まぐるしい展開のもとでも視野を保ちたいとする野口の言葉も、それと符合する。

――山田章仁選手の先制トライなどに繋がった、攻守逆転時のライン参加について伺います。味方が相手のボールを奪った直後、最後尾の立ち位置から一気に駆け上がり、その勢いでボールを受け取りながら右隣にいたアウトサイドセンターのティモシー・ラファエレ選手へパスを回します。ついさっきまで防御に入っていたところ、攻めに転ずるや相手防御を引き付けながらのパスに成功した格好です。

「きょうはターンオーバーボールをもらう機会は少なかったですが、(いまの)代表に呼ばれるにあたってそこ(攻守逆転後の飛び出し)がすごく重要になっている。そのため、大学でやっている時よりも反応が速くなっているかと感じます。ただ、そう反応したなかで(次にボールがどこへ動くかなどの)予測が実際と逆になってしまったりもした。そこは修正していきたいと思っています」

チームは17日、静岡・エコパスタジアムでアイルランド代表と対戦。2019年のワールドカップ日本大会で予選同組となる相手とのゲームで、野口は2試合連続での先発を狙う。隣のウイングでワールドカップの山田が故障離脱したとあって、21歳に課される期待は大きい。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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