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大量失点に「意識の問題」。サンウルブズ・田中史朗は常に「貪欲さ」訴える。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
真骨頂は攻めを引っ張る際の判断力(写真はシャークス戦)。(写真:Haruhiko Otsuka/アフロ)

5月27日、東京・秩父宮ラグビー場。国際リーグのスーパーラグビーの第14節があった。

サンウルブズの立川理道ゲームキャプテンが「あそこが綾」と振り返ったのは、後半1分の失点場面だった。

互いに様子を探り合うキックの蹴り合いから、一転、対するチーターズのウイング、セルジール・ピーターセンがラン。チェイスライン(キックの弾道を追う防御網)の先陣を切るフルバックの松島幸太朗がタックルを外されると、その後の出来事はあっという間だった。

松島の左に立つナンバーエイトのラーボニ・ウォーレンボスアヤコが吸い寄せられると、その背後に球が通る。

パスはリズムよくつながり、スタンドオフのダニエル・マレーがしなやかに駆ける。両ウイングの江見翔太、中鶴隆彰によるロータックルを抜き去る。周囲のスペースを埋めていたスクラムハーフの田中史朗、プロップの稲垣啓太の間を通過する。トライ。

ハーフタイムを終えて仕切り直しを図ったところで、サンウルブズは0-19と点差を広げられた。

「ディフェンスからのコミュニケーションが取れず、数的優位が作れずに…。キックがどれだけよくなくても、チェイスがちゃんとしていれば相手を止めることは可能。個人の判断、横とのコミュニケーション、もし(人数が)足りなければ、僕、バックスリーがどうしたらいいかの声を出したり…と。声をかけていた場面でも、疲れてできていなかった部分も見えていました」

この場面をかく振り返るのは、スクラムハーフの田中である。前年度まで4季ニュージーランドのハイランダーズでプレーしてきた32歳で、日本から参戦2年目のサンウルブズにあっては国際舞台の厳しさを知るキャリア組の1人だ。

チーターズとの第14節は、7―47と大敗。相手に3勝目を与え、通算戦績を1勝11敗とした。中断期間前最後の試合をホームで落としたこの日、田中は「貪欲さ」の必要性を訴えた。

以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――プレーしていて、勝てる感触はありましたか。

「そうですね。前半、始めにやった時は、いままでやった南アフリカのチームと比べるとミスも多かったですし。ただ、それ以上にこちらのミスやペナルティーも出たし、レフリーともかみ合わない部分もあって、こちらの弱いところが出たなという印象です」

――ミスの原因は。

「焦ってしまったのか…。何もないところでノックオンをしたり、ボールをポロポロッとしたり。それを繋げれば大チャンスというところで…」

――お互いにミスも多かったが。

「それでも向こうはうまいことボールを繋いでいけていましたけど、こっちもミス、ペナルティーで終わったり」

――ゲームプランは全うできたのか(戦前は、キックなどで大きな相手選手を背走させる計画を立案)。

「形的にはできていましたけど、キックへのプレッシャーは全然かけられなくて。相手は疲れていて、こっちがキックを蹴った時に相手のバックスリー(後衛の捕球役)が孤立していたこともあったんですけど、相手を倒しきれずに…。(本来は)ここで(接点を)越え切ってターンオーバー…というものを目指してきたんですけど、(実際は)相手が時間を使ってフォワードが帰ってくるのを待って、こちらはチャンスにできず…。こちらの意識の問題です」

――試合中に何かを変えようとしたことは。

「変えよう、ということはないです。やってきたことをやり続けよう、と。小さいこと、マイクロスキルのことはフィロ(・ティアティアヘッドコーチ)からも言われていたので意識をしよう、と。あとは相手も疲れてきているので、しっかりと前を見て働こうとも言っていたんですが、そんなに響いていなかったように感じました」

――前半終了間際の失点。密集戦近辺をじりじりと突破され、最後は防御の人数が揃う前にパスをつながれたように映りましたが。

「(それまでの過程で)ラックサイドに人がいずに、僕が入る場面があって。僕が入ってしまうとオフロードで繋がれてしまう。それで(相手を)引き倒すということをしていたんですけど、そこでフォワードが寄って来なくて、ゲインされて、ゲインされて…」

スクラムハーフは防御網前衛よりやや後ろに立つのが一般的。田中は急場の判断で密集戦に加わったが、その前後でかすかなひずみが生じていた。チーターズのナンバーエイト、ニール・ヨダーンに左タッチライン際のゴールラインを割られた時、相手の攻撃ラインに対応していたサンウルブズの防御は江見翔太のみ。その時、複数のフォワードの選手が接点の近くに滞留していた。

「フォワードが寄って来たところで、バックスにミスマッチが起きる…と。1人ひとりの責任、仕事が全うできていなかったかな、と思います」

――選手によって意識の差はあるのか。

「練習中はいい意識を持ってできていましたし…。疲れていた、と言っても、遠征にいろいろ行っている相手の方が疲れていたと思います。勝ちへの貪欲さが足りなかったのかな、と。オールブラックス(ニュージーランド代表)なら誰が出ても変わらない。そういうチームを目指さないといけない。最高のパフォーマンスが常にできるような状態に…。僕自身に対しても、それは言えます」

――連携を高める難しさは。

「あるかもしれないですけど、その人、その人を理解することが大事。誰がどうであれその人を知っていければ、しっかりしたプレーができるはずです。1人ひとり、いいところもあるので、お互いを知っていければ、一体化に繋がると思います」

リーグ戦はこれから約1か月間の中断期間に突入。6月は各国代表が試合をする「ウインドウマンス」に入る。日本代表は国内でルーマニア代表、アイルランド代表と3つのテストマッチをおこなう。選出の期待される田中は、改めて「小さいこと」に意識を注ぐ。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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