Yahoo!ニュース

サンウルブズ復帰の田中史朗が練習を止めたのは、ある種のチャレンジだった。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
日本代表としてはワールドカップに2大会連続出場中。(写真:田村翔/アフロスポーツ)

早速、存在感を発揮した。

4月3日、東京・辰巳の森海浜公園ラグビー練習場。国際リーグのスーパーラグビーへ日本から挑むサンウルブズが、組織防御の練習をしていた時だ。

蹴った球を追いながらの確認するセッションのさなか、復帰初日の田中史朗が声を張り上げたのである。

概ね、こんな内容だった。

「これ、最初はまず幅を取って、それから上がっていくという練習やから。××に行っている選手が相手を止めると信じて、幅を取って…」

ここでの「××」では、チーム内のみに通じる用語を話していた。

キックを捕った相手を追いかける快速選手の後ろで、大型選手が等間隔に並ぶ。そんなシステムを運用するなか、田中は後ろ側の大型選手(おもにフォワード陣)の網が不揃いだと感じたのだろう。敵のランナーを仕留めるのは前方の仲間(「××」)に任せ、まずはライン形成に集中すべきだと説いた。

田中がアドバイスを発して数本ほど繰り返してゆくと、次第に意図通りのプレーが重なってゆく。田中自身も「ナイスコミュニケーション!」と手を叩く。

日本人で初めてスーパーラグビーに挑み、5シーズン目を迎える32歳。発足2年目の若きチームで有形、無形の財産を残そうとしている。

声の意図を聞けば、そのやりとりに、実はもうひとつの「チャレンジ」が隠されていることもわかる。

以下、練習後の共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――キックチェイスの練習中のアドバイス、振り返っていただけますでしょうか。

「僕らバックスは(同じ練習を)朝にやっていた。午後、フォワードも入ってする時、まずは(気を付けるべきポイントを)何も言わないままやってみようとしました。(各人の意識や理解度が高いため)言えば、できるので」

――なるほど。あえてシステムの意図を共有しないまま連携を確認するという、チャレンジをしていたのですね。

「そうですね。本当はもっと速くフォワードの方から声が出て欲しいとこともありましたけど、言えば、できる。そこは、初めの頃と変わってきた点だと思います」

チームは日本代表との連関性強化には手ごたえを示しながら、ここまで開幕5連敗中。第6節をバイウィーク(各チームへランダムに割り当てられる試合のない週)とし、4月8日、東京・秩父宮ラグビー場での第7節で初白星を狙う。相手は南アフリカのブルズだ。

日本代表のジェイミー・ジョセフヘッドコーチの意向もあり、日本代表経験のある主力の多くが休暇を取得。最前線で若手選手が経験値を積み上げる一方、田中も第2節を最後に約3週間のオフを得た。家族でゆったりとした時間を過ごした。

代表参加、国内のパナソニックでの活動、さらにはニュージーランドの地域代表選手権への参戦を皮切りとした過去5年間の海外挑戦と過密日程を乗り越えてきた。「しゃあないですね、プロなんで」。今回は、かなり久しぶりにまとまった休みを取った。

4月3日、カムバック。心身を回復させ、大一番を見据える。

――休息を振り返って。

「フィットネス(の練習)はしていましたが、気持ち的にはリフレッシュできました。ずっと5年間、シーズン中という形だった。(今回は)シーズン中ではありましたけど、リフレッシュができました」

――離れていたサンウルブズはどうご覧になりますか。

「いい形でトライを取れていますし、レベルアップはできている。そこへもっともっと――試合に出られるのかはわからないですけど――自分の経験を伝えて、よりいいチームを作りたいと思います」

――内容面で充実したゲームを勝ち切るのには、どんなプラスアルファが必要ですか。

「コミュニケーションの部分ですかね。特にディフェンスで、疲れた時に相手の強みへはまっているところもある。疲れたなかでもコミュニケーションを取って穴を埋め、相手の強みにはまらないようにできれば。本当に、ぎりぎりの戦いで負けているというところなので。…中からも、外からも声を出していきたい」

身長166センチ、体重75キロと小柄も、スクラムハーフとして大男たちの盲点を突く判断力で魅してきた。日ごろから重視する試合中の「コミュニケーション」を、勝負のポイントに挙げた。

何のためにラグビーをするのか。「子どもたちのために」。2008年の問答である。この日の全体練習後も、見学に訪れた少年たちとパス交換をしていた。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

すぐ人に話したくなるラグビー余話

税込550円/月初月無料投稿頻度:週1回程度(不定期)

有力選手やコーチのエピソードから、知る人ぞ知るあの人のインタビューまで。「ラグビーが好きでよかった」と思える話を伝えます。仕事や学業に置き換えられる話もある、かもしれません。もちろん、いわゆる「書くべきこと」からも逃げません。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

向風見也の最近の記事