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日本選手権決勝へ。パナソニック笹倉康誉は、出場停止期間に何を掴んだか。【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
ウイングやセンター、スタンドオフでもプレー可能。(写真:アフロスポーツ)

この国のラグビーシーズンを締めくくる日本選手権の決勝戦が、1月29日、東京は秩父宮ラグビー場でおこなわれる。国内最高峰のトップリーグで今季15戦全勝優勝を決めたサントリーと、前年度まで同3連覇を果たしていたパナソニックがぶつかる。

日本ラグビー協会のホームページで発表された、両チーム合計46名の出場メンバー。その背景には、28通りの物語、決意がある。例えば、パナソニックの「15」、笹倉康誉の場合は…。

リベンジができる

「今年はトップリーグ(の優勝)を獲れなかった。日本選手権でしっかりとタイトルを…」

24日、群馬県太田市のクラブハウス。決戦への意気込みを問われた笹倉は、静かにこう応じた。

身長186センチ、体重92キロの28歳。日本代表3キャップ(国際真剣勝負への出場数)を誇る。最後尾のフルバックというポジションに入り、相手が蹴った球の確保、後方からの攻撃参加で持ち前のスキルとフィジカリティを活かす。

対するサントリーでは、スクラムハーフの流大キャプテンとスタンドオフの小野晃征が常にスペースのありかをチェック。折をみて鋭いキックを放つ。笹倉は、ボールを手にする前の目配りや周りへの声掛けでも重責を担いそうだ。

サントリーにはリーグ戦で15―45と敗れている。

「1度、負けた相手とできるのは、リベンジという意味ではいいと思います」

出場停止処分への思いは

2年目からレギュラー格も、今季、行き止まりを経験した。それは2016年12月4日、ホームの太田市運動公園陸上競技場における第10節でのことだ。

空中のボールを捕るべくジャンプした、後半4分。

スパイクの裏側が、競り合う相手の側に向く。

相手は芝に倒れ、笹倉は「危険なプレー」をしたと見なされた。

一発退場となった。

間もなく、3試合の出場停止処分を受けた。

故意の反則ではなかった。出場停止という処分には、同情的な意見もあったろう。それでも当の本人は、言い訳無用といった風情でこう振り返るのだった。

「僕も相手に怪我をさせてしまったので、出た結果は受け止めて反省をしていました。ただ…」

「ナイツメンバー」の献身

戦列を離れた笹倉が見たのは、当たり前が当たり前でないという真実だった。

「その3週間で、毎試合、出ることの大切さがわかりました。メンバー外の選手がチームをどう支えているかがわかった」

シーズン中のラグビーのクラブでは、どうしても「主力組」と「控え組」では時間の過ごし方に違いが出る。選手間でのコンビネーションを深めながら次の試合への対策を準備する「主力組」に対し、「控え組」は「主力組」の準備をサポートする。

規定により試合に出られない間は、笹倉も「ナイツメンバー」と呼ばれる「控え組」と多くの時間を共有。献身を惜しまぬ「ナイツメンバー」から、大いに刺激を受けたのだ。

「やっぱり、皆、試合に出たいじゃないですか。それでも、頑張っていて試合に出られない選手はたくさんいる。自分もうかうかしていられないというか、もう1回がんばらなきゃいけないことが改めてわかりました」

実戦練習を向けては、「ナイツメンバー」同士の打ち合わせというものが存在する。「主力組」のために、次の対戦相手のプレースタイルをおこなうための時間だ。

いまの「ナイツメンバー」の対話は、笹倉が新人時代にしていたそれよりはるかに進化していた。

「まるっきり、そのチームになろうとしているんです。そういうことは1年目の時もあったんですけど、いまほど込み入ったことはしていなかった。今年はもっと細かく、相手チームのサインプレー(を分析したもの)をしていました」

だからこそ、笹倉は言う。

「よかった」

ライバルに負傷を負わせてしまったことへの罪の意識はある。試合に出られなかったことも残念に思っている。

ただ、図らずも黒子役に回ったことで、表舞台に立つモチベーションがより高まったのも確かだ。その意味では、出場停止期間は「よかった」のだ。

「僕らの知らないところでこういう努力をしているんだというのがわかったし、チームがひとつになっている感じも伝わった。一緒のチームの、裏方のようなところを見られた。その意味ではよかったな、と思います。いまは、ここでタイトルを獲ることしか考えていないです」

シーズン終了後は、国際リーグのスーパーラグビーへ挑む。日本代表と連携するサンウルブズに2季連続で加入するのだ。しかし、いまは国内の戦いのみを見据える。パナソニックの青いジャージィを着られる、その喜びをかみしめる。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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