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サンウルブズと日本代表。「もう少し、話し合いません?」の件。【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
サンウルブズと日本代表でキャプテンを務めた堀江。(写真:アフロスポーツ)

強豪国のクラブが集うスーパーラグビーに日本から初参戦したサンウルブズが、現地時間7月15日、南アフリカはダーバンのキングス・パーク・スタジアムでリーグ戦最終節に臨んだ。

パエア・ミフィポセチがランまたランで大男を引きずり、2トライを挙げる。コアなファンにおなじみのタフガイ、エドワード・カークも、自陣の相手ボールの密集へ幾度も手をかけた。

プレーオフ進出を目指すシャークスに追いすがったが、結局、29―40と惜敗した。日本代表の強化を下支えするプラットフォームとして期待されたチームは、歴史的な最終成績を1勝13敗1分けとした。

星取表に現れぬ成果と課題が、明らかに示された。

成果…ハイレベルな実戦への耐性

遡って2015年、4年に1度あるワールドカップのイングランド大会があった。

エディー・ジョーンズ前ヘッドコーチ下の日本代表は、過去優勝2回の南アフリカ代表などから歴史的な3勝を挙げた。

両手を胸元で合わせるキッキングフォームなどで話題を集めた五郎丸歩が中心となり、未曽有のラグビーブームを引き起こした。

そして、前体制時代から発足が決まっていたサンウルブズは、次なる2019年の日本大会に向けた強化ツールのひとつだった。イングランド組では、海外へ渡った五郎丸らを除く10名が参加した。

トゥシ・ピシ。2010年から日本のサントリーでプレーしてきたサモア代表のスタンドオフは、サンウルブズ入り前に2つのチームでスーパーラグビーを経験している。そのうえで「トップリーグの決勝より1段階上のレベルの試合が毎週、ある。それがスーパーラグビーです」と断じていた。

サンウルブズが加盟した南アフリカカンファレンズ1では、おもに正面衝突などの力業を好む大型チームが並んでいた。ランナーが腰高に当たったら大男たちに掴み上げられ、そのランナーへの援護が1歩でも遅れたらボールに絡みつかれる…。用意した攻撃戦術を遂行するのには、国内で戦う際よりも高い集中力と強度が求められた。

6月、巨躯揃いのナショナルチームとテストマッチ(国際間の真剣勝負)があった。招集された日本代表には、堀江翔太キャプテンらサンウルブズ勢に海外の他クラブでプレーしたイングランド勢などが加わっていた。

現地時間11日、バンクーバーはB.C.プレイススタジアムでカナダ代表と対戦した際は、レッドカードのため数的不利な状況に陥るも26―22で勝利。初戦の約1週間前からばたばたと準備を始めた格好だが、ぶつかり合いで吹き飛ばされるシーンは皆無だった。後半終了間際、自陣ゴール前で相手が猛攻を仕掛ける。ジャパンは、耐え抜いた。

続く18日、25日には愛知・豊田スタジアムと東京・味の素スタジアムでスコットランド代表と対戦。ジャパンにとってはイングランド大会で唯一勝てなかった欧州6強の一角を向こうに、13―26、16-21と屈したが、カナダ代表戦以後の合流組が重なったなかで接戦を演じていた。

国際経験で変わりつつある選手には、最終節でも先発した笹倉康誉が挙げられる。

身長186センチ、体重92キロの体躯を誇る27歳で、トップリーグ3連覇を果たしたパナソニックで正フルバックを務めるなど国内での実績は十分。それでも初めて日本代表のジャージィを着たのは、先の6月になってからだった。ウイングを任されるサンウルブズで、国際基準とされる資質を改めて体得しつつある。

マーク・ハメットヘッドコーチからは、常に線の細さを指摘された。もっともゲームのメンバーから外れれば、ウェイトトレーニングに注力して「6~7キロくらい」の増量に成功。序盤こそ手を焼いていた1対1の局面で、踏ん張りを利かせられるようになったのだ。

他にも長時間移動への対応力アップなど、個々の成長事例は数多く挙がった。サンウルブズがいくつかの大敗を喫したことで「いますぐ撤退して日本代表の強化に注力を」といった意見も出たようだが、それは現実に即してはいまい。

「ずっとスーパーラグビーで身体を当てていたので、スコットランド代表戦でもこちらがびっくりするようなプレッシャーを感じずにいられた」とは、38歳とチーム最年長のロック、大野均の弁である。

成果…対外的なプロモーション機会の増加

「どこにもないマルチカルチャーのチームができるんじゃないかな、と。サンウルブズでやってみたいという外国人選手が増え、海外へ行っている日本代表の選手がサンウルブズでやっとけばよかったと感じる…。3~5年経った頃、そうなるようにしていきたい」

田邉淳。このクラブのアシスタントコーチとして日本人初のスーパーラグビーコーチとなった38歳は、開幕時にこう展望していた。

チームは消滅の危機があった昨年8月、急ピッチで選手をかき集めていた。その事情もあり、多国籍軍の風情を醸していた。ふたを開けてみれば、カークらチームマンの献身でクラブの格は保たれた。世界中の隠れた才能や各国のエージェントに、サンウルブズという選択肢を提出するには至っただろう。

加えて、これまで日の目を浴びなかった有力日本人選手の、世界での立ち位置も明示された。

2015年まで日本代表経験ゼロだったフランカーの安藤泰洋は、開幕直前に追加招集されたサンウルブズでも自軍の助っ人や相手チームの外国人に引け目を感じなかったという。その心は…。

「トップリーグでぶつかる外国人選手のレベルが高いので」

トヨタ自動車の一員としてプレーする日本のトップリーグには、同じフランカーに大物がたくさんいた。オーストラリア代表111キャップ(テストマッチ出場数)のジョージ・スミス、ニュージーランド代表69キャップのジェローム・カイノなど、強豪国のキャリア組とのつば競り合いを通し、スーパーラグビー級のたくましさを身に付けたのだ。安藤はそう再認識した。

実際に出番を得れば、接点で相手ボールに絡むジャッカルやタックラーの盲点を突くランなど、得意技を披露。「どんな状態でもチームの規律を守れるところをアピールしたい」との心は、概ね貫けた。

不安視された2月26日の開幕節では、相手のライオンズがミスを連発したこともあり13―26と応戦。長期の南アフリカ遠征を終えたばかりだった4月23日の第9節では、アルゼンチン代表主体のジャガーズに36-28で勝った。

ホームの東京・秩父宮ラグビー場で成果を挙げてゆくなか、狼のかぶりものやスクラムの際の狼の遠吠えなど、ファンの間で応援グッズや応援方法が定着した。

日本にとってのスーパーラグビーのシーズンは、前年度までは社会人以上のカテゴリーで公式戦がなかった時期。サンウルブズがあることで新たなタレントが世間に提出され、日本ラグビー界の話題が継続的に発信されやすくもなった。

課題…クラブの体制強化

廣瀬俊朗。日本代表の合宿中だった昨春から昨夏にかけ、サンウルブズ発足の危機に直面。当時の苦労から設立を決めた日本ラグビー選手会で代表理事を務めるいま、現場の声に触れては危惧を覚えた。

以下、5月31日時点での証言。

「次の2017年の契約は、もう始まっていなくてはいけない。ただ、皆に聞いてみるとまだそこまで進んでいない…というのが現状でした。いい選手は他のチームと契約するので、それは早く進めて欲しいとは、(運営側に)言いました」

事実、6月中旬の段階で来季以降の契約に関して話を聞いた選手は2名とされた。田村誠ゼネラルマネージャー(GM)によれば、チーム編成を「ジェイミーの意向を聞きながら進めたい」と考えていたからのようだ。

「ジェイミー」とは、今秋から日本代表のヘッドコーチとなるジェーミー・ジョセフのこと。今季のスーパーラグビーでプレーオフ争いのただ中にいたハイランダーズで指揮を執っていた新たなボスとは、なかなか意見交換がしづらかったらしい。

ジャパンとサンウルブズをリンクさせるべき。そんな方針順守への生真面目さが生んだ、組閣の遅れがある。ある主力格は「サンウルブズやほかのチームを含め、いろいろとオファーはあります。いまはすべてをフラットに考えています」とのことだ。

体制作りが遅れたら、そのままチーム作りの遅れが導かれる。それは1年目の歩みからも明らかだ。

今季限りで去るマーク・ハメットヘッドコーチも、初来日とあって序盤は「最初は選手に何を期待すべきかがわからなかった」。やや保守的なメンバーリングを重ねる。

途中離脱者が続出したウイングでは、センターのパエア・ミフィポセチが起用された。本人は長所の突進力を示す反面、タッチラン際での空中戦に不慣れな感を覗かせた。それでもハメットヘッドコーチのなかで、ミフィポセチはウイングだった。

結局、怪我人だらけで迎えた最後のシャークス戦では本職のセンターとして躍動。試合後に「センターはウイングと違い、ボールをたくさんもらえるので楽しい」と談話を残したという。

プロスポーツチームのボスは、職務能力と選手への眼力が問われるべきだ。もっとも今回のサンウルブズでは、そのボスにボスとしての評価を下せるだけの条件が揃っていない。それもあって、関係者間からは「こんな状態で引き受けてくれただけでも…」のハメット評が重なる。結果責任は問われづらい。

シーズンイン前に遡れば、今季のサンウルブズが初顔合わせをしたのは開幕4週間前。ハメットのように初めて日本へ来た選手も少なくなかっただけに、直前合宿での議題は戦術略の共有だった。

反面、個々の競技力を支える身体作りや、攻防の起点となるセットプレーの強化はやや後回しにされた。目に見える場所で選手に走り込みのメニューが渡されたのは、シーズン中盤戦頃だった。

グラウンド外の組閣については、田邉アシスタントコーチがこう提言する。

「そもそもこのチームに必要なスタッフが誰なのか、です。どの役職が必要で、それに適した人は誰なのか。それをはっきりさせないと」

終盤戦に怪我人が続出した以上は、個々の体調を管理しつつ身体を強くするストレングス&コンディショニング部門のスタッフ増強は急務。特に、怪我を回復させるトレーナーの人員確保はマスト。今年度の開幕前を思い出し、堀江キャプテンはこう言っていたものだ。

「最初はトレーナーが1人しかいなくて、そのトレーナーが大変やな、とは思いましたね。いつからか2人になってましたけど」

プレーの起点となるスクラムやラインアウトの専門コーチも、欠かせないだろう。

イングランド大会のジャパンは、当該領域で9割超の成功率をキープ。当時のメンバーも少なくないはずのサンウルブズは、スクラムこそ92.0パーセントだったものの、ラインアウトでは全チーム中最下位の76.8パーセントとした。

数字の背後にある選手の手応えについては、スクラムでは「プレッシャーを受けている」とシーズン序盤の堀江キャプテンが語っていた。

新しいスタッフを揃える際、問題になるのは「資金」だと田邉コーチは読む。日本ラグビー界の具体的な懐事情に詳しくないとしながら、「もし足りないのなら、集めよう、という話です」と断じた。

確かなビジョナリーによる航路図が早めに示されれば、今年のうちに一部選手と指導陣同士でショートミーティングやプレシーズンキャンプなども行える。1年目のチームが開幕前に慌てておこなっていたタスクを、より余裕を持ってこなせるかもしれない。

課題…日本代表との連関性強化

6月のテストマッチ期間中、レベルズから参戦して活躍したフルバックの松島幸太朗が「五郎丸代役」といった文言でYahoo! ニュースのトップページで取り上げられた。

同じフルバックでもプレースタイルに大きな違いがあり、そもそもスポーツチームのレギュラーの決定方法は、世襲制でも、年功序列でもない。そのため、ラグビー関係者は一様に激怒した。

とはいえ、今度のスコットランド代表戦の存在を知らないメディア関係者も少なくなかった日本にあっては、「五郎丸代役」という文言の方がむしろ自然かもしれなかった。

ワールドカップ以前から横たわったままのコアユーザーとライトユーザーの認識のねじれという問題は、国内における競技文化の定着によってこそ解消される。

もっとも熱しやすく冷めやすいとも言われる日本人がひとつの競技を文化として楽しむには、その競技を取り巻くストーリーの簡潔さなど、求められるものは少なくない。

「マイナースポーツ最大のメジャースポーツ」という立ち位置を飛び越える第一歩として、国の頂点にあるサンウルブズと日本代表がわかりやすく一体となるのがベターだ。頂点が複数もある構造は、ライトユーザーにとっては明らかにとっつきにくい。

来季のスコッドには日本代表およびその候補生、国際経験豊富な海外の大物を加えたいというサンウルブズの田村GMは、現在、薫田真広・男子15人制代表ディレクター・オブ・ラグビーと密に連携を取るよう意識している。日本協会が指し示す日本代表の選手育成計画と、サンウルブズが考える組閣計画をすり合わせるためだ。

ふたつの組織の連携は、現場の選手も望んでいよう。

サンウルブズの終盤3試合を左ひじの故障で抜けた堀江キャプテンは、ワールドカップの時からほぼ試合に出ずっぱりだった日々を回顧。「個人個人の試合数と試合時間は、調整しながらやっていった方がいい」とし、こう続けた。

「日本代表を上に置くのであれば、サンウルブズの試合(選手ごとの出場時間など)は調整しなければならないでしょうし、その辺は日本協会が力を持ってやっていった方がいいですね」

日本代表陣営のマネジメントに対し、戸惑いを隠さぬ選手は多い。

具体的な事件はこれか。サンウルブズの控えだった面子が若手中心の日本代表となり、4月30日にアジア五カ国対抗初戦に出場。翌5月1日、試合会場があった神奈川県から東京の宿舎に帰っている途中、それら選手をサンウルブズに戻すよう指令が下ったのだ。

<参考記事:移動に合同練習…。ゴールデンウィークのサンウルブズ&日本代表【ラグビー雑記帳】

さらに、1日にサンウルブズの拠点に戻った8選手のうち6選手は、2日の午前練習を終えると日本代表へ戻るよう通達を受けた。お互いのチーム事情と両者間のミスコミュニケーションが招いた事態。田村GMは「(後ろ向きな)記事が出たけど、現場の状況はどんどん変わりますから…」と前置きをしながら、「確かにあってはならないこと。一番負担がかかるのは選手」と認めた。

スコットランド代表が来日していた6月下旬、日本協会首脳と多くの日本代表選手らが話し合いの場を設けた。内容は堀江キャプテンいわく、「日本協会、しっかりしてよ、という話です。ざっくり言えば」。その場ではさほど発展的なやりとりはなかったようだが、同種の機会が月に1度程度は与えられるようになったという。

――第一歩、ですね。

堀江キャプテンは「そうっすね」と小さく返した。

サンウルブズが抱えるであろう「資金」や人材確保の問題も、日本協会の支援で最小限に止められよう。

再度、振り返れば、98ものテストマッチに出てきた38歳の大野は、ことで6月のスコットランド代表戦での手応えを「ずっとスーパーラグビーで身体を当てていたので、びっくりするようなプレッシャーは感じずに…」と明かしている。支援そのものが代表チームの強化、ひいては国内人気の維持に繋がることは間違いない。

今季サンウルブズのスポットコーチを務めた箕内拓郎は、2003年、07年のワールドカップでキャプテンを務めた元日本代表のレジェンドだ。いわゆるジャージィ組の背広組への懐疑の念には理解を示し、かつ、現役を離れたため両者を一定の距離感で見つめている。

――この手の問題、どうご覧になりますか。

「それについてコメントする立場にはないですけど…」

言葉を選びつつ、未来をよくする鍵を明示した。

「まずはコミュニケーションを取って、信頼関係を築くこと。対立はしない。選手の気持ちもわからないではないですが、お互い、言い分はあるかもしれないので」

現状では民主国家である日本のラグビー界が、代表強化と競技文化の醸成に力を合わせられるか。資質が問われている。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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