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日本代表&サンウルブズ田邉淳アシスタントコーチ、「いま」と「来季」の話。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
このスタンドをどう埋めたのか、というお話。(写真:アフロスポーツ)

国際リーグであるスーパーラグビーに日本から初参戦しているサンウルブズは、7月2日、東京・秩父宮ラグビー場での第15節で、一昨季王者のワラターズと対戦。12―57で大敗した。チームは2月からの13戦で、1勝11敗1引き分け。この日のうちに南アフリカへ飛び、残りの2試合に備える。

来季以降の課題も含めて興味深い談話を残したのは、田邉淳アシスタントコーチ。ワラターズ戦後の取材エリアに現れ、「(現場と運営側が)ちょくちょく、話し合うべき」と話した。

現役時代は元日本代表のフルバックで、2009年度はベストキッカー賞と得点王に輝く名キッカーだった。15歳の頃から9年間、単身でニュージーランドへ留学していたバイリンガルで、引退後はパナソニックのコーチとして国内最高峰トップリーグの3連覇を果たした。

今季はサンウルブズ入りし、スーパーラグビー史上初の日本人コーチとしてマーク・ハメットヘッドコーチを側面支援した。6月には日本代表へも入閣。サンウルブズの主力選手らとともに、スコットランド代表などと戦っている。

他の日本人指導者から「今後のキャスティングボードの中心となるだろう」と見られるこの人の話は、勝負論に止まらない。2019年のワールドカップ自国大会を見据え、日本ラグビー界がどう進むべきかのヒントも示されている。

以下、試合後の田邉コーチの一問一答(編集箇所あり。全て当方質問)。

――きょうは、後半に大量失点を喫しました。ハーフタイムにはどんな指示を(※)。

「今週のフォーカスポイントとして挙げていたこと、前半に起っていたことを話しました。ただ、後半、ワラターズはフォワード同士での小さなパスを使ってきた。それに、こちらのディフェンスが対応できなかったですね。それに、モールも意外でした(複数人が塊となり、押し込むプレー。この試合を通じて相手の得点源になった)。ここ数試合、ワラターズはほとんどモールをしていなかったんです。それに対して、我々が上手く対応できなかった。(相手のモールに)中途半端に入る奴、中途半端に入らない奴がいたりして。そういう場がちょくちょくあって、ここからバックスに展開されて…という場面もあった」

――準備ができていなかったのか。

「日本代表の活動が終わって、半分(サンウルブズに入っていない選手)がごっそり抜けました。その抜けたところに外国人選手が入ってきます(日本代表入りできないサンウルブズのメンバー)。彼らの多くはその間、どれだけラグビーをしていたか。ゼロです。練習はしていたと思いますけど、1人でやるのと皆でやるのとでは違いますよね。

他のチームは、6月もデベロップ(練習生に相当するメンバー)を何人か入れて、試合をしているんです(現在首位のチーフスは代表に呼ばれなかった選手だけでウェールズ代表などと対外試合をおこなっている)。そういうシステムがないと…。その辺の層の厚さが、(他チームとサンウルブズの)違いですね。

サンウルブズにも当初、40名近いスコットがいました。ただ、いまは2ケタ近い怪我人がいる。では、もう(登録上限とされている)40数名ではダメなんじゃないですか、と、協会側は考えて欲しい(サンウルブズは一般社団法人ジャパンエスアールが統括。同法人設立に携わったのは公益財団法人日本ラグビー協会)。そのスコッドのなかに大学生をどれくらい入れるかまで、徹底して考えて、セレクションをして欲しい」

――怪我人が増えた理由は。

「スーパーラグビーの試合の強度は、トップリーグ(国内)の2倍は間違いなくある。相手の体重が違いますから。ここでやり続けるのは、トップリーグの試合を120分やるのと一緒です」

――そういう場でプレーできたことの意味はあった、とは捉えられませんか。

「それはあります。先週までの代表期間でも、サンウルブズの選手とそうでない選手の間に差はありました。スピード、フィジカルで」

――マネジメント面に話に戻します。昨秋のワールドカップで3勝を挙げたチームでは、GPSなどを駆使して選手の走行距離を管理していました。田邉さんも、「あのGPSはどこへ行ったのか」と考えておられるようですが(※)。

「結局、そこの話へも行ってないんです。あったところで、(サンウルブズには)それを管理するスタッフがいないので。そもそもこのチームに必要なスタッフが誰なのか、です。どの役職が必要で、それに適した人は誰なのか。それをはっきりさせないと。いまはお互いが『ここはどうなっているの?』と伺わないといけない状態です(別の場所では「泥船をどう豪華客船にするかは僕らの手腕にかかっている」と話すなど、現場でさじを投げている様子はない)。

まぁ、スーパーラグビーができたばかりの頃のニュージーランドもそうでした。そういうプロセスは、どこにでもある。いまでこそオールブラックス(ニュージーランド代表)というブランドがあって、そこにスポンサーがついている。

日本代表とサンウルブズでも、人が動くのには色んな要素が必要になる。ここで一番大きな問題は、資金の問題だと僕は思います。誰が何に使ったなんて、そんな話はどうでもいい。もし足りないのなら、集めようという話です。

先週の約34000人(日本代表とスコットランド代表が試合をした6月25日の東京・味の素スタジアムの観客数)は、誰が呼んだのか。(ワールドカップなどで)成果を挙げた選手、というのが一番、大きい…。

とにかく、(協会サイドと現場が)ちょくちょく話し合うことが必要です。例えば、僕らのコーチ陣のレビューに参加する人がいてもいい。どんどん、プラス思考なことを発表していかないと」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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