サンウルブズ、山田章仁&真壁伸弥の追加招集が日本人じゃない…って、違うから!【ラグビー雑記帳】

サンウルブズの売りは「ミックスカルチャー」である。(写真:Haruhiko Otsuka/アフロ)

国際リーグのスーパーラグビーへ日本から初参戦するサンウルブズは、試合のなかった第2節を挟んで開幕6連敗中だ。

2月27日、東京・秩父宮ラグビー場でのライオンズ戦を13―26としてから、ずっと接戦を重ねていた。海外のオファーを断ったフッカーの堀江翔太キャプテンが軸となり、最良の突貫工事でチームの戦術理解度を底上げしたからだ。もっとも開幕から約4週間前の初顔合わせは、他の老舗より約2か月は遅い。海外事情に詳しい元日本代表の大西将太郎氏がかねてから言うように、前提条件そのものが厳しい。

「1回勝つことが凄く難しい戦い。今年は気持ちを据えて応援しましょう。チームのでき具合がどうかなどを勉強して、玄人になっていきましょう」

追加招集が外国人?

この国の観戦者の多くは、昨秋のワールドカップで歴史的な3勝を挙げた日本代表に強い思い入れを抱いている。いまは愛のある試合解説で人気の大西氏が「玄人に…」と伝えるなかでも、善戦に納得するファンは徐々に減りつつある。応援というより、意見具申が目立っている。

その流れが明らかになったのは、4月10日のニュースとその反応だ。

南アフリカ遠征中のチームは、ウイングの山田章仁、ロックの真壁伸弥が負傷離脱を発表。3日にはプロップの稲垣啓太がチームを離れており、ワールドカップ組のメンバーが3人続けて帰国したこととなる。日本との時差が7時間もあり治安も不安定な異国での遠征は、心身への無形のプレッシャーがかかる。それを再確認させられた。

一部が異を唱えたのは、山田と真壁の代役に関してである。今回は遠征先にロックのファアティンガ・レマルとウイングのジョン・スチュワートが追加招集されたが、なぜ日本人を入れないのだという意見が発生していた。

確かにサンウルブズと運営団体のジャパン・エスアールは、日本代表の強化を目指して作られた組織だ。海外からのオファーもあった堀江や山田も、「日本のラグビー人気の灯を消さないため」とサインしている。なかなか白星が奪えない現状では、「故障者の代役に将来のジャパン候補を」という声が出てもおかしくはない。

もっとも、誤解を恐れずに言えば、「いやいや、そこじゃないから」である。

日本代表とサンウルブズの連関性強化を訴えるなら、もっと別な議題がある。

欠員補充は指揮官の仕事

今回、追加招集を受けた2人は、環太平洋をルーツに持つ大型選手だ。

日本のサニックスにも在籍するロックのレマルは26歳で、サモア代表として15キャップ(国際間の真剣勝負への出場数)を誇る。かたや28歳のウイング、スチュアートは、出身地のフィジーで7人制代表への選出経験を持つ。

日本代表入りするには、基本的には国内居住3年以上の他国代表未経験者という条件をクリアしなければならない。他国代表経験者の場合は、日本国籍を取って7人制のワールドシリーズに4大会以上出場する必要がある。その意味ではレマルもスチュアートも、現段階では日本代表でプレーする見込みは低そうだ。

かたやファンが招集を待望していそうな選手は、ロックでは昨季のトップリーグ(国内最高峰リーグ)で最優秀新人賞に輝いた小瀧尚弘、大学選手権6連覇中の帝京大学で副キャプテンを務める飯野晃司、ウイングではイングランド組の藤田慶和に福岡堅樹、昨季のトップリーグでトライ王となったサントリーの江見翔太、スポーツ総合誌でも取り上げられた大東文化大学のホセア・サウマキといったところか。いずれも将来の日本代表入りが期待されるタレントとして、大いに注目されている。

しかし、物事は希望的観測だけでは進まない。まず、基本的なことから言えば、サンウルブズは日本代表ではない。いちクラブである。サンウルブズ入りを果たしていない上記のメンバーをリストアップするには、改めて各選手の所属先やマネージャーなどと調整を図り、プロ契約を交わす必要がある。1シーズンで契約できる選手の上限は40とされており、現在のサンウルブズには故障者を含め39名が在籍。今回も、現時点で遠征に加わっていないサンウルブズ勢からの招集が自然だ。

サンウルブズには、ロックの宇佐美和彦やウイングをこなす山下一などの日本人がいる。ただ、欠員補充は「日本代表との連関性を深めたい」と言うジャパン・エスアールではなく、ジャパン・エスアールが雇ったヘッドコーチの仕事だ。今回初来日のマーク・ハメットヘッドコーチは、かねて「日本代表との連携は必要。ただ、我々にもしなくてはならないことがある」と発言している。結果で責任を問われるプロ指導者が、自分の好きなようにチームを率いたいと唱えるのは当然のことだ。

国内の実戦練習では、宇佐美も山下もレマルもスチュアートも控え組に回ることが多い。その4人のなかで、ハメットが自らの責任でチョイスしたのがレマルとスチュアートだった、ということに過ぎない。

日本代表とのリンクは現場の仕事ではない

サンウルブズはプロクラブのひとつとして、勝利のために最善の手を打ち続けるほかない。

ナショナリズムに近い感情で集まる日本代表とて、真に注目を集めたのはイングランドで過去優勝2回の南アフリカ代表に勝ってからなのだ。世界最高クラスの舞台を戦うプライドを損なわないためにも、堀江キャプテンの「勝ちを目指していきたい」との思いは必要不可欠である。

日本代表との連関性は、むしろグラウンド外の人々が考えることだ。

2014年に発足が決定したサンウルブズは、昨夏まで契約選手が集まらず、名称決定を前に消滅の危機に瀕していた。その背景には、手続きのトラブルがあった。

まずはスーパーラグビーを運営するSANZARは、ジャパン・エスアール側に「日本代表育成のために枠を与えたわけではない。外国人を集めて勝負できるチームを」と要求。日本代表勢にも、ある程度のキャップ数が求められたという。

さらに当時は、ディレクター・オブ・ラグビーに日本代表ヘッドコーチだったエディー・ジョーンズが着任していた。元オーストラリア代表監督で世界に顔が利くため適任かもしれなかったが、結果的にはその人事が災いしたか。

ジャパン・エスアールが代表勢に諸事の説明をしたのは、イングランド大会直前の宮崎合宿の最中だった。1日3部練習は当たり前の苛烈な鍛錬の時期に、アスリートが本番を終えてからの人生を考えるのは難しかった。示された条件も、1度でもプロ契約を交わしたことのある選手なら首を傾げる内容だったとされている。何より、ジョーンズがクラブに関わること自体へのアレルギーもあった。当時のボスは、しばし選手に「いますぐ帰れ!」と怒鳴るなどしていた。奮起を促すため、時には嫌われ役に徹していたのである。

結局はサンウルブズ入りを決めたあるイングランド組のメンバーは、合宿中のジャパン・エスアールとのやり取りについてこう話していた。

「スケジュールを見せてもらったら、『ヘッドスタート(当時の日本代表でおこなわれていた朝5時からの練習の名前)』と書いてある。それで、ヘッドコーチは誰だと聞いても『決まってない』と。当時はどちらかといえば、エディーがメンバーを選んでいたようでした。そこで行かないということは、エディーを拒否している形になる。でも、ワールドカップのヘッドコーチはエディー。メンバー入りに影響するのではと思わないことはない。あのやり方はちょっと…」

結局、ジョーンズヘッドコーチのイングランド大会限りでの辞任が発表された8月下旬、東京へ訪れた代表組が揃って契約を締結した。突進力で貢献したプロップの稲垣も、昨季所属したレベルズからの契約延長のオファーを断った。堀江の熱意にほだされたからでもある。山田はサインを書いた後もフランスのプロクラブへの挑戦を検討していたが、結局は国内人気の継続を志してオレンジのジャージィをまとった。

一方、藤田と福岡は2016年のオリンピックリオデジャネイロ大会に向け、7人制に専念するとして辞退。大学生選手へのオファーは、授業や学校が負担する奨学金との兼ね合いから最小限に止まった。

最初のスコッドが発表された12月以降、スクラムハーフの茂野海人らが追加招集された。ハメットヘッドコーチ曰く「いまは(日本の)選手を吟味している段階」という首脳陣が、ポジションごとに必要な人員をリクエストしたためだ。

さらにジャパン・エスアールは2月、有田隆平の怪我を受けてフッカーの追加加入選手を探索。イングランド組で東芝の湯原祐希に声をかけた。しかし、当の本人は断りを入れた。2019年のワールドカップ日本大会を見据えるチームに32歳の自分が入るのは本意でない、との理由からだ。東芝では湯原の控えながら有望株とされるフッカーの森太志がサンウルブズに入れたのは、計画というより運命によってだった。

そう。各領域の思惑の不一致から、今季のチーム編成に芯を通すことは不可能に近かった。

「頭を下げたら」

2016年のサンウルブズが勝利を目指す一方、2017年のサンウルブズの編成はもう、始まっている。始まっているべきだ。

有力選手の契約問題に詳しい関係者によれば、今季のサンウルブズの主力格へは海外から来季以降のオファーが届いている。選手たちはゼロからチームを作る体験にやりがいを覚えている一方、練習時間変更の情報も選手に行き渡らないなど、スタッフ不足に起因する問題にストレスを抱えている。ジャパン・エスアールとしては限られた状況にあっては最大級の職務をこなしているが、それがプレーヤーサイドに通じるには時間が必要かもしれない。ともかく、プロクラブとして主力選手の流出を防ぐには、予算確保を含めた相応の準備が求められる。

今秋から日本代表のヘッドコーチとなるジェイミー・ジョセフは、日本のメディアの取材を通じて「海外でプレーする代表格の選手はサンウルブズでプレーすべき」との意見を発信。国内居住選手を軸に代表チームを作るニュージーランド出身の指導者としては、ごく当然な発想かもしれない。各所でおおらかさと人望の厚さで鳴らすジョセフの意見とあって、声をかけられて意気に感じる選手も生まれるかもしれない。

そんなジョセフの思いを、日本協会が書面上で後押しするのでは、との観方もある。ただし、多国籍の選手の力を借りて「日本らしさ」を創出するのが日本代表の文化である(ジョーンズが提唱した「ハードワーク」という姿勢は日本独自のものだが、「ジャパンウェイ」と銘打ち遂行した「アタックシェイプ」は海外から導入した戦術である)。例えば、「サンウルブズに入らなければ日本代表選出はなし」などのルールが正式に策定されれば、現代表からクレームが出るのは必至だろう。国民的な人気を獲得したイングランド組には海外志向の強い選手も多く、望まれない代表引退者が続出する恐れもある。

日本人スーパーラグビープレーヤー第1号となった田中史朗は、ニュージーランド人の気迫と意欲に感化されて代表のカンフル剤となり、時に刺激的なアドバイスを発信。キャプテンだったリーチ マイケルは、昨季チーフス入りしたことで田中の話す内容を咀嚼し、皆にかみ砕いて伝えらるようになった。そしてイングランド大会時、リーチは「選手が主体的なった」と喜んでいた。

「文句があるならジャパンを辞退しろ」と仰る方がいたら、考えて欲しい。田中も、リーチも、おそらく五郎丸歩も、日本代表でプレーしてきたのは、あくまで日本のファンと日本代表というチームのためだ。

この国がラグビーブームに沸く昨秋、「前売り券完売」と発表されていたトップリーグの公式戦のスタンドに空席が目立ったことがあった。歩留まり率の読み間違えから起こった「事件」である。

その折、クリアな解決策を示したのが、元日本代表でNPO法人ワイルドナイツ・スポーツプロモーション理事の三宅敬さんだ。激しいぶつかり合いが重なるため助け合いが必須な競技特性を踏まえ、こう即答したものだ。

「もっと周りに頭を下げたらいいと思います。こういうことができないから、力を貸してくれ。そう頭を下げたら、ラグビー関係者は何かしら手伝ってくれますよ」

現役時代はパナソニックで堀江、田中らとチームメイトだった人の発言である。よりよきサンウルブズのチーム編成にも通じる見識だった。大物を雇い続ける年俸がないのなら、スポンサーを集めたり金銭には収まらぬ魅力を発信したり。日本の若手を揃えることを対外的に認めさせるために、国際ラグビー界に顔の聞く人物と水面下で連携を図ったり。代表強化に直結し、かつ各国クラブからの勝利を目指す集団を作るには、万人の意見の総和を見るのがベストかもしれない。ちなみに、堀江キャプテンが掲げるサンウルブズのチーム文化は、「お互いが意見を言い合える雰囲気」だ。