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サンウルブズ三上正貴が見た、堀江翔太の情報処理能力とは。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
南アフリカ代表とのスクラム。前列左の三上が右隣りの堀江と相手をにらむ。(写真:アフロ)

世界最高クラスのリーグ戦であるスーパーラグビーに今季から参戦する日本のサンウルブズにあって、キャプテンを務めるのは堀江翔太である。プレーが失敗に終わった時は、常に「個人のミスか、組織のミスかを見分けなければいけない」との視点で状況を整理。その後の悪い流れを最小限に止められる。

その凄みを大舞台で目の当たりにした1人が、同じサンウルブズの三上正貴だ。国内では東芝に所属する身長178センチ、体重115キロの27歳。最前列の左プロップというポジションを務め、巨躯同士がぶつかり合うスクラムでは、推定78センチという太ももで後方からの押し込みを相手に伝える。青森県出身で、朴徳とした語り口にユーモアをにじませる。

三上が挙げた堀江のエピソードは、日本代表が歴史的3勝を挙げた昨秋のワールドカップイングランド大会でのもの。当時のエディー・ジョーンズヘッドコーチのもと2人が揃ってプレーしたジャパンは、9月19日に過去優勝2回の南アフリカ代表から大会24年ぶりの白星を奪っている。

単独取材に応じたのは帰国後の11月中旬。大会前後の述懐を通し、万事における準備の大切さも示している。

以下、一問一答(一部)。

――イングランド大会開催年は、4月から8月にかけて宮崎で長期合宿が組まれていました。特に試合のなかった6月は過酷を極めたと聞きます。

「1日あたり3、4部の練習で詰め込まれて、先が全然、見えなくて。皆がきついと言っているのは、気持ちのところを指しているんだと思います。エディーさんからやリーダー陣から『これはワールドカップに勝つためだ』と言われ、何とか気持ちを上げて、という感じでしたね。

練習中は常に緊張感があって、こちらも勝手にスイッチが入る。ただ、グラウンドでエディーさんにがーっと言われて、それをオフの時間まで引きずって、寝れなかったりもしました。身体は疲れているのですけど、ただ横になって休んでいるだけ。次の日に5時から練習があるのに、2時まで寝られなかったり。どうやって気持ちを切り替えようかと色々とやってたんですけど、同期を誘ってお茶をするくらいしかできない。休みの日は、外へ出て閉ざされた空間から出るようにはしました。ただ、若手やスタンドオフの選手(司令塔)には、僕より追いつめられている選手もいました。『帰れ』とか。そういう人たちは、精神的に僕なんかよりもきつかったと思います」

――その時期は、必要でしたか。

「精神的に追い込むにはもっと別なやり方もあったと思いますけど、それ自体は必要だったと思います。エディーさんは世界を知っていて、精神的に緩い選手のことも、世界の基準で観ていた」

――必要な時期と言えば、7月から8月にかけてのパシフィック・ネーションズカップ。1勝3敗と負け越したものの、ワールドカップへの布石を打った。

「試合の結果はいいものではなかったけど、その時に皆がすごく考えるようになった。その意味では、あそこでうまくいかなかったことがよかった。あの時は、エディーさんもワールドカップに向けてサインプレーも隠して戦っていた。100パーセント勝ちに行く感じではなかった。バックスもサインプレーが合っていない人もいて、ミスが起きたのはそういうところからでした。少しは『これで大丈夫?』とは思うんですけど、エディーさんは『大丈夫』と言って、その『大丈夫』な理由も言っていた。選手は納得していました」

――布石と言えば、5月から8月にかけ、リー・ジョーンズディフェンスコーチの提唱する守備システムに副キャプテンだった堀江が手を加えていました。

「ディフェンスのプランはリーさんが提示するんですけど、そのほかの細かいこと、例えばディフェンスの前への出方やスペーシング(選手同士の間隔)については堀江さんが話していました。リーともミーティングしてたとは思いますけど、選手は堀江さんの指導を受けている感じ。グラウンド上ではほとんど、堀江コーチみたいな。

南アフリカ代表戦で例を挙げると、スクラムハーフのフーリー・デュプレアへはラックサイド(密集脇)の選手が抜かれることを気にせずとにかくプレッシャーをかける。その背後をブラインド(プレッシャーをかける選手の逆側の防御)がカバーする…みたいなプランは、リーさんが話していた。ただ、その時の細かいスペーシング(選手同士の間隔)とかは堀江さんが話していました」

――ワールドカップに向けて、ご自身はどのあたりで手応えを掴みましたか。

「僕のなかでは、ワールドカップ前最後にあったジョージア代表戦ではスクラムは安定してきたと感じました(9月5日、グロスターで13―10と勝利。前年の直接対決で苦しんだスクラムを互角に持ち込んだ)。それまでも、本番でやるべきことを勉強して話し合って…という準備はしてきた。準備してきたことを出す自信はありました。ただ、南アフリカ代表にどこまで通用するかは全然わからなかったです。『いままでやってきたことを出し切る』にフォーカスしてきました」

――ジョージア代表戦では、三上選手はフル出場。スクラムではどんな手応えがありましたか。

「組み方を変えたのがしっかりはまって、フォワード8人がまとまって押しやすくなりました。ヨーロッパの3番(右プロップ)は内に組んでくる(正面よりやや中央方向へ頭をねじ込む。通常は反則)。(8月に日本で2度対戦した)ウルグアイ代表の3番も内に組んできていたので、2番(最前列中央で組むフッカー)の堀江さんと色々と考えました。

結局、前3人の方を平行に並べて、しっかりとヒットするようにしました。そこでしっかり組み込んで、相手の内に組むような揺さぶりをさせる暇を与えない。3番は僕と組むしかない状態にさせる…と」

――くしくも、南アフリカ代表プロップのヤニー・デュプレッシー選手も「内に組む」傾向がありました。

「ワールドカップ前、エディーさんとの個人ミーティング結構あったんです。『南アフリカの3番知ってるか』『知ってます』『あいつはスクラムの時、自分がレフリーであるかのように喋ってくるし、暴力的につかんできたりもする。そこで受けないようにしよう』と。そういうアドバイスは、他の皆にもあったんじゃないですかね。エディーさんは南アフリカを知っているので(2007年のフランス大会では同国代表のアドバイザーとして優勝を経験)」

――先に知っておいて得する情報ですね。

「そうですね。そういうのはテレビで観ていてもわからないですから」

――似たようなことを、ジョーンズさんは記者会見の場でも言っていました。実際、ヤニー・デュプレッシー選手の口元はいかがでしたか。

「おとなしい印象はありましたね。終始」

――…当日、三上選手は先発します。南アフリカ代表のファーストスクラムはいかがでしたか。

「ロック(スクラムの2列目の選手)の足が滑っていました。また、ハタケさん(畠山健介、日本代表の右プロップ)がいつもより下がり気味なんです。それで、そんなに圧力を感じたわけではないのに、スクラムがぐっと下がっちゃっいました。ハタケさんは直前に脳震盪っぽい形になってしまった影響から下がってしまったのだと思います。次からは『(前列の肩の位置を)フラットにしよう』と声を掛け合いました。トンプソン ルーク(日本代表のロック)からも『下、滑っちゃってごめん』と」

――結果、組むごとに修正を施してゆきます。それでも前半はやや、気圧されたところも。

「いま思うと、後ろ(ロックの足元)が滑っていたと感じました。後ろが滑ると、(支え合う者同士の力学上)どうしても体重の重いほうが前に出てしまう。でも、こっちは8人がまとまっていたので、『その地点』から先は押されない。もちろん、相手の前列は強かったですけど」

――スクラム以外の場面についても。1点リードして迎えた後半3分、ロックのルードベイク・デヤーヘル選手に逆転トライを決められます。直後のゴールキックも決まり、13―19とされます。これは、三上選手のタックルエラーがきっかけに映りますが…。

「映像では僕が真正面からやられているみたいですが、あそこでは大野(均、ロック)さんと並んでいて、その間を抜かれたんです。もちろん、僕は僕のタックルがだめだと思っていたんですけど、そこへ堀江さんが来て『キンちゃん(大野の愛称)、出すぎ』と。実際、隣の大野さんと2人でタックルに行くと思っていたところ、大野さんが別の選手にチェイスをしていた。大野さんからも『ごめん、前に出すぎた』とフォローしてもらって。堀江さん、僕、大野さんの間では、そういう話になりました」

――その場で何が起きていたかが本質的に理解できる選手がいると、非常に助かりますね。

「そうですね。試合中に『僕のタックルミスでやられた』と思い続けたら、その後のプレーできなくなっちゃうので…あの…『キンちゃんのせいにしよう』と切り替えられましたね! ちなみにチーム全体がその場に集まって円陣を組めば、点を取られたことではなくて、これからどうするかについて話し合いました。その後のキックオフでは、味方が真ん中あたりにちょこんと蹴って、僕がタックルに行くプレーでした」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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