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あの日の同点ゴールと同じ…。大西将太郎は、引退してもラグビーが好き。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
前列中央が大西。ラストゲームを終えて笑顔。(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

日本代表として33キャップ(国際間の真剣勝負への出場数)を獲得し、国内最高峰のトップリーグでは通算143試合に出場した豊田自動織機の大西将太郎が、2月13日、愛知・豊田スタジアムで現役生活最後の試合に臨んだ。

この日はトップリーグ選抜の一員として、『FOR ALL チャリティーマッチ2016』に参加。世界最高クラスのリーグ戦であるスーパーラグビーに日本から参戦するサンウルブズとのゲームで後半18分から途中出場。24-52で敗れたが、右隅からのコンバージョンゴール成功でスタンドを沸かせた。

ワールド、ヤマハ、近鉄、豊田自動織機でスタンドオフやセンターを務めてきた37歳。選手兼任・プレイング・バックスアシスタントコーチとして選手登録した今季、出場機会は引退表明後のサントリー戦(1月23日の9位決定戦。大阪・近鉄花園ラグビー場で後半10分から出場も、14―78で敗戦)のみに止まっていた。

日本代表としては2007年のワールドカップフランス大会に出場。予選リーグ最終戦のカナダ代表戦では、試合終了間際にやはり右隅からのコンバージョンを決め、スコアを12―12の引き分けに持ち込んだ。1995年の南アフリカ大会から続いていた日本代表のワールドカップの連敗をストップさせ、ファンの喝さいを浴びた。

フランス大会後に開幕した2007年度のトップリーグでは、得点王とベストキッカー、ベストフィフティーンにも輝いた。献身的なタックルでも知られ、戦い続けられる理由を「ラグビーが好きだから」と即答したことがある。海外ラグビーへの造詣も深く、具体的な現地報道や選手名を挙げながらの解説は関係者の間でも有名である。

試合後は引退パーティーに出席後、東京のスタジオへ出向いてwowowのラグビー欧州6か国対抗の解説(ウェールズ対スコットランド、プリンシパリティ・スタジアム)をおこなった。

――試合を終えて、いかがでしょうか。

「きょうで終わる人、これからサンウルブズや代表を目指す人…。色々なモチベーションや感情が入り混じった試合でした。僕らはできる準備をして、サンウルブズを送り出すことはできた。

非常に、寂しいです。このメンバーでスーパーラグビーに行きたいくらいです。皆、いいメンバーで、すぐにチームになれたし。4日間、過ごして、最後にラグビーの良さを味わわせてもらいました」

――(当方質問)後半32分のコンバージョンゴールは、あのカナダ戦の1本と同じような角度からでした。

「その前に小川(高廣、スクラムハーフ、東芝)が難しいのを決めていた(後半18分に左隅から成功させた)。ここ(後半32分)でもぱっと見たら、小川が蹴ろうとしていた。後悔したくなかったので『次、俺、いい? 最後、蹴らせてくれへん?』と(一同、笑い)。『いいっす、いいっす。すいませんでした』『じゃ、蹴らせてもらいますわ』と言って。ちょうどあの位置だったので、懐かしい気持ちで…。カナダ代表戦の時と同じくらい緊張しましたけど、(キックの)軌道もあの時と同じような感じで行ってくれたので…楽しかったです。はい」

――交代出場までの気持ちはいかがでしたか。

「もう、コーチ目線で観てしまいますよね。今年1年、そうだったので。早く入りたい気持ちもありましたけど、『まだ早いかなぁ』とも思いながら。廣瀬(俊朗キャプテン、スタンドオフ、東芝)と(試合に関する情報を)シェアしながら。20分ちょっとだけど、楽しかったです」

――グラウンドに出たら。

「(大量リードされていて)アタックするしかなかった。取りそうで取れないところもありましたけど、用意したシェイプ(陣形)はできたと思います。だからこそ…もう1試合、スーパーラグビーの2軍みたいなところとやらせてくれませんかね。このチーム、キャラクターも凄く良くて…。でも、何人かはサンウルブズや代表に入っていくとは思うので、それに期待して、もしそのメンバーが活躍したら、『一緒にプレーをした』と自慢したいと思います」

――きょうのトップリーグ選抜で、期待できる選手はいますか。

「小瀧(尚弘、ロック、東芝)とか谷田部(洸太郎、ロック、パナソニック)とか、いいんじゃないですか。ショーケー(金正奎、フランカー、NTTコム)も、日本人バックローのためにやると言っていた。きょうはショーケー、安藤泰洋(トヨタ自動車、フランカー)、土佐(誠、ナンバーエイト、NEC)…。どうでしたか? よかったんじゃないですか。人間的にもいい奴らだし、ハングリーだし、本気で勝つつもりだったし。2019年(ワールドカップ日本大会)に向けて、激しい競争が始まるんじゃないですか」

――サンウルブズの展望をお願いします。

「ほかのスーパーラグビーのプレシーズンマッチを観ていますけど…。現状では(価値を重ねるのは)厳しいと思う。準備は遅れていますし。ただ、急ピッチで進めている。できる限りの、やることはやったといえる準備をやっていただければ。1回勝つことが凄く難しい戦いが始まるとは思うんですけど、我慢して、信じて戦えば1勝はできる。

プレーオフへ行ってフミやリーチのチーム(日本代表のスクラムハーフ田中史朗やフランカー・リーチ マイケルが所属するハイランダーズやチーフス。いずれもニュージーランドカンファレンス)と戦えるのが一番いいんでしょうけど、それはまだまだ。最初の年なので。ファンの方は、今年は気持ちを据えて応援しましょう、という感じで。出来具合とか、そこでのラグビーを勉強して、玄人になっていきましょう」

――改めて、スーパーラグビーの魅力は。

「魅せるところ。スピード、パワー、フィジカル…。国によってもラグビーは違うのですが、同じ国でもチームによって異なるラグビーのスタイルがある。国とチームのカラーを出しつつ、個人個人は『代表に入りたい』という気持ちを持ってプレーする。本当のプロフェッショナルが観られると思うし、日本人も、観る人、やる人がそこへ追いついていかないと。日本協会さんが、この試合をショーとしてどこまでオーガナイズできるかも楽しみにしています。スーパーラグビーって、観に行ったらすごく楽しいですから。

今年のニュージーランドカンファレンスでは、JK(ジョン・カーワン前ヘッドコーチ)がいなくなったブルーズ、楽しみです。タナ・ウマガ(新ヘッドコーチ)を皆がリスペクトしています。オーストラリアカンファレンスでは、ブランビーズが強い。南アフリカは、シャークスかな」

――日本代表の五郎丸歩選手がレッズ入りしましたが。

「レッズは厳しいシーズンになるでしょうけど、ゴローはプレータイムが増えれば良さが出る。頑張って欲しいですね。リーチも、そろそろ(チーフスへ)行くのかな。ヤンブー(今季からチーフス入りするプロップの山下裕史)も応援したいです」

――イングランドのプレミアシップでは、ニューカッスル・ファルコンズ8のプロップ畠山健介選手もデビュー戦を飾りました。

「そろそろナキ(アマナキ・レレイ・マフィ、ナンバーエイト、バース)も出ますよね。で、その相手のウスター・ウォーリアーズに、ヤマハのポトヒエッター(デヴォルト、フランカー)。日本で対戦して、海外へ出て行って対戦…。新しい時代ですね。日本もそれに乗って、という形。それが国の力に変わると思います」

――(当方質問)昨年はブルーズへコーチ留学。今年も海外へ行く予定はありますか。

「行けたら…とは思いますが、まずは沖縄(14日以降のサンウルブズのキャンプ地)へ行きます。キッキングコーチが素晴らしい。僕と同級生の田邉(淳)。彼に教えてもらったら、僕ももっと上手くなると思います。…サンウルブズには、これからの選手もいっぱいいます。同じ織機の山下(一、フルバック)も、きょうはいっぱいミスをしましたけど、それが治ればよくなる。…そういう風に観てしまうんです。1年間、一緒にやってきたので」

――(当方質問)今季は、思うように試合に出られませんでした。

「出たかったです。いつでも出られるように準備はしていたつもりです。142試合ほとんどゲームに出続けた人間としては、本当に難しかった。しかも、出ないことに慣れてきてしまった自分がいたので、苦しかったですし…。世代交代の一言で出られないというのも…。一方、皆さんから『まだまだできるでしょう』と言っていただける…。葛藤、ですね。

最後の試合(サントリー戦)がそうでしたけど、チャンスがきたら見返してやろうと思っていて。きょうも同じです。でも、悔いはないです。やり切りました。こんないい環境でできましたし、僕のラグビー人生は幸せでした」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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