Yahoo!ニュース

「駆け引きが楽しい」東海大仰星高校、全国高校ラグビー大会優勝インタビュー【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
湯浅監督は、15日には東芝の練習場に訪れた。(写真:アフロ)

大阪は花園ラグビー場での全国高校ラグビー大会を制したのは、春の選抜大会、夏の7人制大会でも優勝した東海大仰星高校だった。3冠を達成した湯浅大智監督は1月11日、共同会見に応じ、「子どもたちの人間的成長に繋がった。嬉しいの一言です」と熱く語っている。

現役時代は同校のキャプテンとして1999年度の全国大会で優勝。前監督で現東海大学テクニカルアドバイザーの土井崇司氏の要望を受け、2004年から9年間、コーチを務めてきた。2季前の選抜大会の直後から指揮を執り始め、そのシーズンの冬の全国大会で王座に就いていた。

「うちでは使えるグラウンドは全体のうち半分だけで、そこも中等部と一緒に使っているのですが…。逆に試されているなぁと思いますし、楽しくてしょうがないです。考えるのが」と、コーチングのとりことなっている。

土井には「技術指導も、精神面の指導もうまい。ラグビー、スポーツ、体育を教えるのに最も必要な熱をもっているし、頭も使える。これからの日本を代表するラグビーの指導者になる」と称えられている。

以下、会見時の一問一答の一部。

――勝利の要因は。

「60分間、ラグビーをするということだったと思います。攻撃、守備、キッキング。フィールド上で起こるすべての事象に真摯に向き合ったことが全てだと思います」

――すべての事象で、上回った、ということですか。

「上回ったのかどうかはビデオで見直さないとわかりませんが、彼らがグラウンドの隅々まで目配せして、普段からやってきたことを表現してくれたとは思います」

――序盤。フォワードがトライを取った。監督の指示ですか。

「僕自身、今回の指示に関しては、ディフェンス(の組織)についてしかしていません。フォーカスしていません。こう攻めよう、と型にはめると彼らの力を半減させる。色んなことが起こるので、そこに対応する、と。彼らが色々なことを感じて、表現できるかどうかにかかっていると思いました。(フォワードかバックスの)どちらか、ではなく、あれもこれもラグビー。彼らが感じて、やったのだと思います」

――守備の指示について。

「桐蔭学園さんが強みにしているものがありました。それに力をかけるというより、それ以外のところに力をかける考え方を言葉にして、明確に『○人目はこうする』というものを伝えました。『○人目がどうするか』、『それによって相手がどうなるのか』。中3日ありましたので、大分、そのあたりの話はできたかなと思います。桐蔭学園とは2年前に戦っている。その時のシステムにプラスアルファをしないといけなかった。もともと持っておられる強みから考えられる攻撃と、その裏の裏くらいまで見通して、この形で出れば相手は嫌がるのでは、という仕掛けをしたつもりです」

――(当方質問)相手には強いフォワードのランナーがいました。

「まぁ、彼らには白い(桐蔭学園高校の)ジャージィを見えたら(タックルに)行け、とも言っています。シンプルなのですが。それに、一点を見ると他が見られなくなる。絶対はないと思います。ただ、彼らが(準備した守備戦術を)絶対と思ってやってくれたのがよかったです」

――試合中、守備網の出方を変えていました。

「使い分けないといけない。駆け引きをしないといけないレベルの相手、試合です。単純に『これ』だけでは勝ち切れない。グラウンドに立っている人数もその時々で違うので、その時に合った『これ』を出していかないといけない。『これ』を出すスピードが速い方が、きょうは勝つと思っていました。1対1でやり合うのは、このレベルに来れば当然。選手には、(接点を援護する)2人目、3人目の質が高い方が勝つとも言っていました。前半はその2、3人目のところで後手を踏んでいた。ハーフタイム、『その辺の質を上げないと後半はもっと厳しい』と話させてもらいました。先に仕掛けた。相手がやってくること(攻撃に対して)というより、その場に合わせて先に仕掛けた。それが大きなポイントかなと思います」

――就任した2季前の優勝と今回の優勝に違いはありますか。

「2年前は監督として1年間指揮を執ってきていた。ただ今回は今年の子を1年生の頃から(監督として)見ていて、3年間かけてのプランニングができていた。3年間かけて、これ、それ、あれと順を追って準備していた。もちろん3年計画というわけではなく、1年ずつ見直していきながらなのですが」

――苦しんでいるなかだったようですが、前半を19-17とリードしました。

「コンタクトでは、彼らは『思ったより来る(相手の圧力が強い)』と実感したようですが、その後、ギアチェンジできた。ハードワークの力を、判断をすることに充てるのか、やり合うこと(接点)に充てるのか。そのあたりも上手くいきました。もともと考えてラグビーをするのが仰星の文化ですが、今季は特に考えて取り組む、と言ってきました。普段の生活からそれを意識した。1番から25番まで、その能力の高い選手が揃った。身体は小さい。どうすれば上回れるかを考える。ひとつつの出来事に『なぜ?』『これでいいのか』と追及する。それらが、彼らの力を伸ばした要因だと思います」

――(当方質問)瞬時、瞬時で、自分たちのするプレーを共通理解しながら戦っていた印象です。

「基本的な大枠をこちらも示しながら、(最上級生に関しては)3年間かけてやってきた。そのなかで1年ずつ、マイナーチェンジやバージョンアップをしていきました。それに今年1年間を通してのレギュラー争い、怪我人もいるなかでのメンバー編成、1人の選手に色々なポジションでプレーさせるような工夫もしてきていました。ですから、誰がどのポジションに入ってもやれる自信はありました。(その結果)考えていたことが形になったのだと思います」

――フランカーの眞野泰地キャプテンについて。

「素晴らしすぎて何も言うことはない。凄い。もし、サイズが理由で何かに選ばれないのだとしたら、それは僕のやっていることが間違っているのかと思ってしまうくらいです。身長171センチであれだけのパフォーマンスをやり続けられる。チームを引っ張りながら、プレーをしながら考え続けられる…すごいと思います」

――試合前の空気はいつもと違いましたか。

「逆に、いつも通りでよかったと思っています。いつも通りに皆に感謝をして、気配り、目配り、心配りをして、全員で戦う。それが普段着なので。いつもこういうことをできているのが凄いなと思いまして、指導者として初めて、ウォーミングアップを観て涙が出てきました。彼らは、それだけのものを発していたのだと思います」

――今季のメンバーは「スター選手不在」と謳われてきました。「今年は厳しい」といった感情はありませんでしたか。

「僕は高校で体育の授業を持っています。そこで彼らを観た限り、『面白い』と思っていました。バルセロナのカンテラみたいな考え方で、あの手この手で様子を見ながら、子どもの気質、経験値を観る。その子たちの良さを組み合わせていきます。中学時代の実績から『今年はダメだなぁ』などと思うことはないです。『目配り、ないなぁ』と思うことはありますが」

――湯浅監督は、分析力の高さで評価を得ています。

「いや、あまりそれは思ったことはないです。ラグビーの指導者をする以上、それは絶対にやらないといけない。ただ、(自軍の試合映像などを)観て、大枠のなかで『この練習をすればハマるかも』と考えるのは、できる方かなと思います。コーチ時代を含め、『ここはこうしておけば…』という後悔も『これをやるだけでこんなに伸びるのか』という経験もしています。それらを活かし、全体を見ながらコーチに『ここを観てくれるか』ということを伝えていく…。いままでの経験が、活かせていると思います」

――優勝回数が土井前監督と並びました。

「巡り合わせの話。強くなってから就任していて、それまでの土台は土井先生が作られた。まぁ、コーチ時代から、土井先生のチームと対戦できたら面白いだろうな、とは思っています。『こうやって来るんだろうな』と想像しながら。最近は指導者になった卒業生も増えてきています。今回の大阪決勝で戦った大阪産業大学付属高校の金谷(広樹)コーチも、そうです。『仰星はこう攻めてくると思っているだろうから、こっちへ行こう』というものが増えてきて、楽しいです。はい。駆け引きがあるというのは楽しいです」

――ラグビー、授業など大変そうですね。

「苦労と思うことは全くないです。この生き方をすると決めたので。教員という業種、指導者という生き方を選んだので。やって当然。苦労だなと思うことはないですし、時間がないとは思いますが。授業で生徒と向き合うのも、授業を通して何を伝えるかを考えるのも楽しい。それが色々なところで繋がってくる」

――(当方質問)激務を全てこなしきる。時間はどう使っているのですか。

「結構、アバウトです。決めると余計に大変。家に帰って料理をしているとき、突然、『こういう授業の仕方、面白そうだな』とパッと思いついたり、テレビをつけると『こんな伝え方があるんだ』と感じたりと、普段から色々な発見がある。常にアンテナを張っています。一番の情報収集は、本を読むことです。経営者の方の本などです。単純にラグビーの強いチームではなく、強い組織であり続けたい。僕自身、もっと勉強をしないと。僕の同級生には民間で働いている奴も多くいて、彼らは厳しい状況に置かれている。そんななか僕は教員という世界しか知らないなか、本から情報を収集するしかない」

――優勝が決まった後、選手には何と伝えましたか。

「すごい! ありがとう! です。僕にボロクソ言われることもあるなか、乗り越えるのではなく、淡々と向き合ってくれた。かつ、結果も出した。すごい」

――(当方質問)「ボロクソ」。言われるんですか。

「皆さん(マスコミ)がいらっしゃる冬のシーズンは言っていてもしょうがない仕上げの時期ですが、それまでの間は結構、言います」

――(当方質問)「ボロクソ」。厳しい口調の言葉によって、相手の心を震わせるのが目的。話している側は、心のなかでは意外と冷静。違いますか。

「はい。冷静ですけど、がーんと、言っちゃうタイプです。へし折らないと、強くなっていかないので。14番の中(孝祐)君には…。彼が新人戦の決勝戦で最後、1対1の場面をボールをちょこん、と蹴ったんです(抜き合いの勝負をしなかった)。『エースが何かをわかっているのか。情けなすぎるやろ』と、これでもかと言いました。変わってくれました。最後は、中君でしたね(後半に2トライ)」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

すぐ人に話したくなるラグビー余話

税込550円/月初月無料投稿頻度:週1回程度(不定期)

有力選手やコーチのエピソードから、知る人ぞ知るあの人のインタビューまで。「ラグビーが好きでよかった」と思える話を伝えます。仕事や学業に置き換えられる話もある、かもしれません。もちろん、いわゆる「書くべきこと」からも逃げません。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

向風見也の最近の記事