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負けても強い帝京、前向き早稲田、大らか明治…大学選手権セカンドステージ展望【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
伝統の早明戦で駆ける早稲田大学の藤田慶和。大会で最も華のある選手の1人。(写真:アフロスポーツ)

大学ラグビー界に事件が起きた。

2015年11月29日、東京と八王子市の上柚木陸上競技場。関東大学対抗戦Aの一戦で、帝京大学が筑波大学に敗れたのだ。スコアは17―20だった。

日本代表のウイング福岡堅樹を擁する筑波大学が守備時の肉弾戦で激しい圧力をかけ、帝京大学のボール確保を困難にし、後半ロスタイムに好調のセンター鈴木啓太が逆転トライを決めた。

いくら戦前に今季の対抗戦優勝を決めていたとはいえ、帝京大学は前年度まで6季連続で学生王者となった絶対的覇者である。今季も前年度に続いてのトップリーグ(国内最高峰リーグ)勢撃破を狙い、フィジカルと戦術理解度のベースアップを図ってきたクラブである。岩出雅之監督曰く、「偶然勝つなんて、ありえないから」。

最も勝負を左右する1対1のぶつかり合いには一日の長があり、強いものが星を落とす要因となりがちな難解なレフリングへの対応も得意とする。新人のウイング竹山晃暉は言った。

「(帝京大学が笛を吹かれた場合は)いまのは何が悪いのですか、とレフリーの方とコミュニケーションを取って、対応する。敵に回したら嫌だと思います」

乱暴な表現が許されれば、「チーム内で猛省されるべき試合内容でも、勝負は落とさない」領域のチームだったはずだ。ワンサイドゲームばかりだった関東大学春季大会の結果と内容を鑑みれば、それは明らかである。それでも「王者、学生相手に3季ぶり黒星」は、紛れもない事実だった。

学生日本一を争う大学選手権のセカンドステージが12月13日から始まる。全国上位16強が4つのプールに分かれ、各組で最も勝ち点を集めた1チームずつが1月2日の準決勝(東京は秩父宮ラグビー場)に登場。続く10日に王者が決まる(秩父宮)。

帝京大学の敗北という事件のおかげで観る側の興味は「番狂わせ、続くか」となるが、実相やいかに。以下、各プールの展望。

<プールA:帝京大学=関東大学対抗戦A・1位、中央大学=関東大学リーグ戦1部・3位、関西大学=関西大学Aリーグ・4位、法政大学=関東大学リーグ戦1部・5位およびファーストステージ1位>

結論。帝京大学はもう、簡単に負けることはなくなった。

筑波大学との敗戦の背景には、中心選手の相次ぐミスと筑波大学の肉弾戦防御への対応不備があった。前者については落球を重ねたフルバック森谷圭介が「コンタクトレベルが上がった場面で軽いプレーを選択してしまった。集中すべきところで…」と反省し、後者についてはチームスタッフの1人が興味深い見解を示していた。

「筑波大学はタックルした選手が起き上がってその地点から離れず、その地点からプレッシャーをかけてきた(このようにタックラーが接点から退かずにプレーすると、ノット・ロール・アウェーやハンドなどの反則を取られる)。普段ならそういう選手も省く(引きはがす)ように準備するけど、今週はそのあたりが甘かったから」

森谷が「選手で話し合ったのは、身体を当てることから逃げない、ということ」。肉弾戦での万事に対応しうるイメージを練習で再徹底するなか、岩出監督は語る。

「いちいちレフリーに責任を押し付けていたって、仕方がない。逆に、(負けたことで)気持ちが入るんじゃないですか。(選手権で再戦した場合は)見違えるようになると思う」

フッカー坂手淳史キャプテンもこの調子だ。

――チームが不出来を嘆く内容の試合も、まず、負けることはなかった。なぜ、筑波大学戦に限っては…。

「はい。それでも勝てていたことで、『これだけやっていれば大丈夫だろう』と自分たちで低い意識設定をしてしまっていた。ゲームでは『やってきたことを出そう』で大丈夫だと思いますが、練習では『これだけでは足りない』という意識を持った方がいいと思いました」

――次は絶対に負けない、と、思っていませんか。

「…ラグビーは戦いなので、全員がそういう気持ちでいると思います」

対抗馬の中央大学は組織的守備とモールに活路を見出してきた昨季から一転、今季は常にシェイプ(陣形)を象る攻撃的スタイルを提唱。もっとも、帝京大学の岩出監督の言葉を借りれば、「(チャレンジャーには)破れかぶれのビッグタックルは必要かもしれない」。相手の懐にぶっ刺さった次には別な相手を狙っているフランカーの佐野瑛亮が12月27日の帝京大学戦(秩父宮)にどう挑み、どうぶつかるか。

<プールB:東海大学=関東大学リーグ戦1部・1位、天理大学=関西大学Aリーグ・2位、早稲田大学=関東大学対抗戦A・4位、朝日大学=東海北陸・中国四国代表>

今季開始当初から、帝京大学を倒しうる存在として注目されていたのが東海大学だった。ラグビーに不可避な肉体強化に真正面から取り組み続けたクラブで、1対1のぶつかり合いは王者に引けを取らない。さらに今季はフランカー藤田貴大キャプテンやウイング石井魁など、各ポジションに強さのある名手を揃えているからだ。センターとして期待された目黒学院高卒の新人、アタアタ・モエアキオラは、故障者の関係でナンバーエイトに位置。木村季由監督は「当たってもよし、パスしてもよし、キックしてもよし。何でもできるフォワード」と期待を込めている。

春から夏にかけて繰り返した帝京大学とのゲーム(練習試合を含む)では、8人一体の重量感を活かすスクラムで成果を示した。右プロップの平野翔平は短く太い首に丸太の体躯、いつだって背中を地面と平行に保ち、相手の姿勢を崩しにかかる。左プロップの三浦昌悟も体幹の人で、日本代表のバックアップメンバーだったプロップ渡邉隆之が「リアクションのところ(に改善の余地あり)」と控えに回される陣容だ。

昨年度の選手権セカンドステージで東海大学に敗れた早稲田大学は、後藤禎和監督がリベンジに燃える。「(組み合わせは)望むところ」。対抗戦では帝京大学に15―92と大敗も、寒さが強まるなかで戦術理解の質を高めてきた。スクラムやモールでも鍛錬の成果を発揮しつつあり、各ゲームの筋書きを綿密に描き、実現させれば、一気に頂点を争う位置へ駆け上がるかもしれない。

中核にいたのは、フルバック藤田慶和。福岡と同じくワールドカップイングランド大会の日本代表として活動し、帰国後は7人制日本代表として来年のオリンピック出場権を獲得。11月にチームへ合流するや、後藤監督に「それまで岡田(一平キャプテン、センター)と(副キャプテンのナンバーエイト佐藤)穣司が引っ張ってきたところへ、違う視点からいい発信をしてくれています」と言わしめた。日本代表の対戦相手の分析方法を「盗ませてもらった」という藤田の話は、聞いているだけで世の中に不可能なことなど何もないかのような感覚に陥るだろう。

以下、帝京大学に大敗した直後の談話。

「いま、ワセダとしてはよくない状態が続いていると思うんですけど、ワールドカップで日本代表は勝てないと思われている相手に勝った。しっかり切り替えて、頭を使って勝っていきたい」

注目株は他に、天理大学のジョシュア・ケレビ。ウイングやセンターをこなす身長188センチ、体重105キロのフィジー人ランナーだ。ゲインラインへ仕掛けまくるチームのアタックパターンにあって、柔らかいストライドでのランを活かす。

<プールC:同志社大学=関西大学Aリーグ・1位、筑波大学=関東大学対抗戦A・3位、大東文化大学=関東大学リーグ戦1部・4位、慶應義塾大学=関東大学対抗戦A・5位>

こちらは混戦必至。

同志社大学は、関西勢にあっては十分な選手補強を成功させてきた。全国高校ラグビー大会では過去10年で優勝5回という東福岡高校のメンバーを中心に実力者が集い、自由闊達な気風を象る。7人制日本代表の美男子として注目されるウイング松井千人は、50メートル走を5秒台で走る。駆け抜けうるスペースが限定される強豪校相手の真剣勝負にあって、自慢のスピードを活かす機会をどう創出するか。例えば、帝京大学を破った筑波大学を相手にその解を示せば、本格的にスターダムの階段を上がるか(12月20日、大阪・花園ラグビー場で激突)。

筑波大学にも、ジャパンの福岡をはじめ実力者が並ぶ。あの日に帝京大学が首を傾げた肉弾戦での圧力も、このクラブの看板であることは間違いはない。その日のレフリーの判定で「クロ」とされれば、相応の対処はするはずだ。大けがで離脱中のスタンドオフ山沢拓也(エディー・ジョーンズヘッドコーチにパススキルや判断力などの「将来性」を認められた)が戦列に戻れば、その周りのランナーはより気持ちよく前進できるだろうが…。

慶応義塾大学は、重心の低いタックルと接点への飛び込みが健在。大東文化大学は好素材の玉手箱で、ウイングであるホセア・サウマキのランとオフロードパス、スクラムハーフ小山大輝のサイドアタックと守備網をカバーするスピードは一見の価値あり。

<プールD:明治大学=関東大学対抗戦A・2位、流通経済大学=関東大学リーグ戦1部・2位、立命館大学=関西大学Aリーグ・3位、京都産業大学=関西大学Aリーグ・5位>

明治大学は12月6日、秩父宮での早稲田大学戦を32―24で制し、帝京大学に並んで対抗戦の優勝を決めた(選手権のレギュレーション上は2位扱い)。

「目標は日本一。必ず。って、毎年、言ってるんですけどね」

フッカーの中村駿太キャプテンは笑う。クラブの文化であるおおらかな強さをにじませる。ポジショニングの妙と相手タックルをかわすロール(回転)という動きで、チームのボール保持率を高める。

対抗戦では帝京大学から32得点を奪うなかでは、フルバック田村煕が相手の盲点をえぐるキックと直線的なランをアピールしてきた。スカウティングでは伝統的に他校を凌駕してきただけに、統一感がなされれば爆発的な力を発揮する。肉弾戦でのプレーが元サントリーの元申騎コーチが妥協なく鍛え上げるなど、丹羽政彦監督が求めてきた現代版「メイジのベーシック」は体系化されつつある。

対抗馬は流通経済大学か。リーグ戦で東海大学と肉弾戦で互角な局面を作ってきた。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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