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ワールドカップ証言録 パナソニック稲垣啓太、トップリーグ開幕へも意気込み【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
右から3番目が稲垣を含め、写真中の日本代表選手は4人とも13日の秩父宮へ集結。(写真:FAR EAST PRESS/アフロ)

日本最高峰のラグビートップリーグが11月13日から始まる。9、10月のワールドカップイングランド大会で日本代表が3勝を挙げたことにより、発足12年目にして初めて前売り券が完売したゲームが発生。注目度が高まっている。

東京・秩父宮ラグビー場での開幕戦では、2連覇中のパナソニックが3季ぶりに王座を狙うサントリーと激突。パナソニックには田中史朗ら、海外クラブ経験者の代表選手が多く在籍する。

その1人が稲垣啓太。昨季は南半球最高峰であるレベルズでプレーした25歳だ。2013年度のトップリーグでチーム最多のタックル数を記録し、最優秀新人賞を獲得。スクラムの最前列に立つプロップながら、運動量とコンタクトスキルでチームの潤滑油となる。

自身初出場だった今度のワールドカップでは、3試合の先発を含む予選プール全4試合に出場した。特に10月3日のサモア代表戦(ミルトンキーンズ・スタジアムmk/26-5で勝利)では相手の懐へ食い込むタックルを連発しながら、前半21分、敵陣ゴール前左中間でのスクラムでペナルティートライをもぎ取っている。

以下、ワールドカップ期間中および帰国後の一問一答の一部。

<10月4日、ウォリック。サモア代表戦の翌日>

――ペナルティートライを奪ったスクラム、その背景。

「いつもあらかじめ、相手の組み方を分析しています。前回のスコットランド代表戦(9月23日、グロスター・キングスホルムスタジアム。10-45で敗戦)の時は、その分析と違う組み方をされ、その辺のラグを修正するのに2,3本かかりました。今回のサモア代表戦については、研究した通りの組み方をされてきた。相手の1番(左プロップ)ががつがつ上がってくるタイプで、3番(右プロップ)が外に開いて落としてくる。3番を前に出させたら、1番に押し込まれる。相手の1番を要注意して出させないなか、僕が3番を外に開かせない(フッカーの堀江翔太副キャプテンと左プロップの稲垣でしっかりと挟み込む)ように…と。

(ペナルティートライを奪った場面は)もう相手が勝手に、分析通りに相手の3番が外に開いて、(稲垣を引きずり)落としに来てた。ハタケさん(日本代表の右プロップ、畠山健介)がイケそうだったので、ここで落ちちゃうのはもったいなかった。落ちていてもペナルティー(塊を故意に崩すコラプシングの反則)をもらえたんでしょうけど、(上腕で相手を)持ち上げて…うまいこといってくれた。

いままでだったら、『相手が落としてきてくれた。ペナルティーもらおう』だった。でも海外に行って、スクラムを組む時間帯、陣地とかのことを考えるようになった。『ここでもうちょっと行けたら認定(ペナルティートライ)になる…』とか、そういう考えができてきたのかもしれない」

――(当方質問)かねてから、この舞台で通用する自信を持っていたと思います。実際、戦ってみていかがですか。

「雰囲気は初めてでした。自分の能力云々より、この雰囲気を経験できたのは大きいですね。正直、サモア代表には、PNC(7、8月のパシフィック・ネーションズカップ)の時のトンガ代表くらいのコンタクト(の強度)をイメージしていたのですが、それ以上でした。ワールドカップだと別の力が沸くのだと感じました」

――(当方質問)ワールドカップという舞台装置が、1つひとつの接点での踏み込みの強度を変える。

「1つひとつのプレッシャーはすごいものがありました。実際、僕も何回か弾かれましたし。ただ、サモア代表は激しい分ムラッ気のあるチームで、日本代表はそこに付け込めた。いい部分を出させなかった。何度か攻め込まれましたけど、最後まで対応できた。だからこそ…後半のトライはもったいなかった」

――(当方質問)後半24分の失点は、敵陣深い位置の接点でのターンオーバーがきっかけ。稲垣選手は、遠い場所からその接点へ駆け込む最中でした。あと一歩、速ければ…。

「そうですねぇ。あの時は…。(接点からパスを出す)ハーフがいなかったので(自分が代わりにパスを)さばこうと思っていたのですけど、間に合わなかったですね。もう1歩、速めに行けていればというのはあります。ただ、もう終わったことなので。自分のミスだったと受け止めて、それをアメリカ代表戦に活かせればと思います」

<10月11日、グロスター・キングスホルムスタジアム。アメリカ代表に28―18で勝利後>

――ワールドカップのスクラムを総括して。

「いつも僕が意識しているのは80分間を通していいスクラムを組むこと。80分間もあればミスもあるでしょうけど、80分間のなかの一番おいしいところこでいいスクラムを組む、と。そういう観方で4試合を総括すれば、いいスクラムが組めたと思います。ただ、自信はつきましたけど、終わったことなので」

――(当方質問)タックルも刺さりまくっていた。

「このフィジカル(のレベルの戦いでは)フィットネスがきついところがあった。疲れてくるなかで左右に(ステップを)切られると、足が出てこなくなる。そういうところですね。飛んじゃう(遠い間合いの相手に飛びついてしまう)んです。それ(フィジカルの強い相手との試合の終盤にしっかり踏み込んだタックルができるかどうか)は、これからの課題でしょうね」

<11月6日、帰国後初めてパナソニックの練習試合(群馬・パナソニックグラウンドでの宗像サニックス戦)に出場>

――(当方質問)帰国後は。

「忙しいです。昨日は(動物番組の収録で)カンガルーに引っ張られて100メートルダッシュをしました。忙しいといっても、これまでとは違った忙しさです。ラグビーを取り上げてくれるようになってからこその忙しさであって。そこに対して我々プレーヤーはうまく対応していかないといけませんし、プレーでも強い姿を皆さんにお見せできるように練習していかないといけない。個人的にはそのバランスは取れています」

――(当方質問)「ワールドカップはもう過去のこと」と、よく仰っています。いま見据えるのは。

「帰って来てから『ワールドカップ、どうでしたか』と聞かれる。まぁ、終わったことは終わったことなのですが、自分がどの立場にいるのか、考える時間ができました。身の回りを整理するにはいい時間でした。テレビに出ているからといって、我々は芸能人ではありません。おおもとのプレーがぶれてしまったら元も子もない」

――(当方質問)パナソニックの一員として、久々に試合をしましたが。

「まだ頭で考えてプレーしている状態。もちろん考えることは必要なのですが、もう少し落とし込んで、身体にしみつかせていきたい。僕たちはアンストラクチャーの(お互いが崩れた局面での即興性が売りの)チームと言われていますけれど、基本的なきまり事やディシプリンがあってこそのアンストラクチャーなので。アンストラクチャーの時にどう動かなければいけないかを皆がわかっているから、アンストラクチャーにも対応できます」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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