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本当は、覚えていない? 立川理道、ワールドカップ証言録【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
「ワールドカップを経験して、勝つことの難しさがわかった」(写真:アフロ)

4年に1度のワールドカップで過去24年間も未勝利だった日本代表。今秋の同イングランド大会では、史上初の1大会複数白星となる計3勝を挙げた。目標としてきた準々決勝進出は果たせないなか、ファンを沸かせた。3勝しながら予選突破が叶わなかった例は今回が初だった。

大会期間中に力を示した選手に、立川理道が挙げられる。エディー・ジョーンズヘッドコーチ率いる現体制下にあって、スタンドオフやインサイドセンターとして攻撃のかじ取り役を務めてきた25歳だ。奈良県天理市で生まれ育ち、相手を自分の目の前まで引きつけて味方に渡す「フラットパス」を上達させてきた。自身初出場のワールドカップでは4試合に先発し、鋭利なゲインライン(攻防の境界線)への仕掛けやタックルを重ねた。

10月3日のサモア代表戦(ミルトンキーンズ・スタジアムmk/26―5で勝利)の際は、キックオフ早々に相手の巨漢ウイングであるアレサナ・ツイランギと衝突。その際に脳震盪を起こし、以後の記憶はほとんどなかったのではと推測される。もっともそう診断されたわけではなく、その件に関して本人は言葉を濁している。

以下、大会期間中の一問一答の一部。

<9月19日、ブライトンコミュニティースタジアム。過去優勝2回の南アフリカ代表に34-32で勝利した直後>

――いかがですか。

「そう、ですねぇ。歴史、変えたんじゃないですかね。とりあえず。前半からジャパンがジャパンの仕事をしていればイケると思っていて。簡単にトライを取られる部分はありましたけど、それでももう1回、ジャパンの形でエリアを取ったり、タックルしたり。離される気はなかったですし。まだチャンスはある、まだチャンスはある、と。それが最後(ノーサイド直前の逆転トライという結果)に出て、よかったです」

――(当方質問)ジャパンはずっとタックルをし続けられた。なぜでしょうか。

「理由は色々とあると思いますけど、気持ちの入ったタックルができた。フィットネスに自信があったし、向こうもこちらの低いタックルを嫌がっていた。相手は(足元にタックルされながら、近くの仲間に)ボールを繋いできたりもしましたけど、それなら、とこっちは2人がかりで止めて、リロード(倒れた後にすぐ起き上がる動き)して…。それを繰り返せば、簡単にトライは取られないとわかっていた。いままでやってきたしんどい合宿(4月から宮崎で1日最大4部練習を実施)を自信にできたのはよかった」

――(当方質問)力強さが世界屈指と謳われた南アフリカ代表が相手でも、ぶつかり合った感触には手応えがあったのですね。

「そうですね。僕は相手の10番(パトリック・ランビー)にランを仕掛ける役割を持ってたんですけど、向こうは本当に嫌がってましたし、ここである程度ゲインラインを切れるのはわかった。ディフェンスは低くいかないといけなかった。ただ、それはわかっていた。数で(接点での数的優位を保って)止めて、フィットネスで勝っていける、と」

――(当方質問)23日はスコットランド代表戦(グロスター・キングスホルムスタジアム、結局10-45で敗戦)。

「いまのいままで、南アフリカ代表に勝つことだけを考えていた。スコットランド代表に対する大まかなプランは頭にはあるんですけど…。まぁ、時間もない。それにスコットランド代表にとっては次が1戦目。しっかり先制攻撃ができるようにしたい」

<10月8日、ウォリックスクールでの練習後。サモア代表戦の述懐とアメリカ代表戦柄の展望など>

――(当方質問)サモア代表戦。正直、覚えていないのでは。

「(自身の周りに記者が集まってきたのを見て)…あ。全然、大丈夫です」

――(当方質問)…サモア代表戦はいかがでしたか。

「自分たちのやりたいことをやり続けた80分間続けた試合だと思います」

――(当方質問)11日はアメリカ代表戦です。

「向こうも最後。勝ちに来ると思いますし。ジャパンも(準々決勝進出の可否は)周りの結果次第というところではありますけど、そのなかでも、自分たちのやることに集中したい。向こうはフィジカルで戦ってくると思いますので、サモア代表戦同様にセットプレーを安定させながら、ジャパンのアタックができたらいいと思います」

――それまでと攻撃のシェイプ(陣形)が変わるのでは、という意見もあるみたいですが。

「シェイプは、変わらないですね。ただ、そのなかでどういうオプションを使っていくか。外に振るのが多くなるのか、ダイレクトが多くなるのかは変わってくる。状況を見ながら判断していきたい」

――(当方質問)楽しんでいるようですが。

「置かれている状況を楽しんでいます。自分たちでコントロールできないこと(他の試合の勝敗)があるなか、目の前のことに集中するだけ。他の試合にもいい試合が多いので、それも含めて楽しんでいます」

――(当方質問)他の予選プールの試合も、テレビで観ている。

「はい。こっちに来てやることもないんで。そればかり観ています」

――(当方質問)現地入りして感じた事は。

「(視察のため)4月に来た時とは対応も違います。ウェルカムセレモニーもしてもらえたり。南アフリカに勝ったことへの反響もあって。そういう部分を肌で感じられると、嬉しいですね」

――残り試合。

「とにかく、アメリカ代表戦に向けて、ベストなパフォーマンスをするのが大事。後先考えずに、ベストな状態でいきたいと思います。いま、リーダー陣がしっかりしています。リーチ(マイケルキャプテン)さん、堀江(翔太副キャプテン)さん…。ノンメンバーの人もサポートをしてくれます。選手が主体的に動かしている感じがするので、いい流れがずっときている。そこを崩さずにやっていきたい」

――海外メディアからの評価が高い。

「自分自身、このワールドカップ充実しているとは思います。でも、そのなかでもスコットランド戦に負けました。評価してもらうことは嬉しいですけど、それは外からの目。言ってもらえていることは素直に喜んで、でも、反省をしながら、いまやれることをしっかりやりたいと思います」

<10月11日、アメリカ代表戦を28-18で制した直後>

――(当方質問)どんな大会でしたか。

「初めてだったので、どう自分の気持ちを持って行くかは難しかった。でも、初戦で勝てたのは大きかった。この4試合を通して、自分のプレーに自信を持ってできることができたし、楽しめた。いまは終わってホッとしています。準々決勝へ行けなかったのは残念ですけど…。4年後に向けて、また僕もメンバーに入りたい。いま、そっちの思いの方が強いですね」

――(当方質問)この日は12番(インサイドセンター)に今大会初先発のクレイグ・ウィング選手が入り、ウイングにはこちらも初陣の藤田慶和選手。ご自身は慣れない13番(アウトサイドセンター)。新鮮な組み合わせ、問題はありませんでしたか。

「13番はほとんど経験がなかった。松島(幸太朗)やマレ(サウ)みたいな(突破型の)13番になれないことは、わかっていました。僕ができることはコミュニケーションを取ること。リンクプレーヤーとしてやれることをやりたいと思っていました。ウィンギー(ウィング)がディフェンスでもアタックでもフィジカルに戦ってくれたので、僕は僕のできることをやれました」

――4試合を通して。

「南アフリカ代表に勝って、身体もきついなかでスコットランドと…。これがワールドカップだという現実もわかって、サモア代表戦に臨めた。アメリカ代表戦もジャパンのペースで試合を進められなかったですけど、それでも勝てたのは成長。堀江さん、リーチさんはすごく頼りになるなと思いました」

――(当方質問)アメリカ代表戦。取られても取り返す展開でした。

「このチームはタフになりました。取られてももう1回やることを見つけて、リーダー陣を中心に立て直す…それが大会を通じてできた。きょうもジャパンペースになることは少なかったですけど、しんどい状況のなかでも前に進むことを意識した。1試合を通して成長していけた」

――(当方質問)それにしても、サモア代表戦。本当はあまり…。

「…まぁ」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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