ワールドカップ・アメリカ代表戦、スーパーラグビー…。日本代表の田中史朗が語る【ラグビー旬な一問一答】
ラグビー日本代表は10月11日、ワールドカップイングランド大会の予選プールBの最終戦でアメリカ代表とぶつかる(グロスター・キングスホルムスタジアム)。6日、戦術練習をおこなった合宿地のウォリックでスクラムハーフ田中史朗が取材に応じた。
チームは加盟する予選プールBでのここまでの勝ち点は8。他会場の試合結果を受け、5チーム中暫定3位となった。準々決勝へ進める上位2チーム以内に入るには、まずアメリカ代表戦で勝ち点5(勝利により4とボーナスポイントによる1)を獲得し、13まで積み上げなければならない。暫定1位で勝ち点11の南アフリカ代表と暫定2位で勝ち点10のスコットランド代表の試合結果次第では、それでも目標を果たせないこととなる。予選プールで3勝しながら決勝トーナメントへ進めなかった例は、いまだない。
もっとも、エディー・ジョーンズヘッドコーチやフランカーのリーチ・マイケル主将はらはかねて「まずは勝つことに集中する」とし、勝ち点の計算はあえて考えない方針を貫いている。
自身初出場だった2011年のワールドカップニュージーランド大会で未勝利に終わってから、田中は国内の競技人気やレベルを上げるべく身を捧げてきた。南半球最高峰であるスーパーラグビーの日本人選手第1号となり、グラウンド外では「ラグビーファミリー」なるFacebookページを立ち上げ。イベントや番組出演時は、必ず最後に「日本ラグビーをよろしくお願いします」とあいさつしてきた。今大会の結果に伴う注目度の上昇には、安堵している。
以下、田中の共同取材時の一問一答。
――ベスト8入りへ、勝ち点上は…。
「厳しい状態ですよね。サモア代表戦(10月3日/ミルトンキーンズ・スタジアムmk/26-5で勝利も2トライに終わった)では僕自身、ボーナスポイントも欲しかったですし。でも、勝つことに集中してやっていて、(確実な勝利に繋がるプレー選択をしたのも)リーチが決めたことなんで、文句はないです」
――田中さん自身は。
「ボーナス点は意識しました」
――(当方質問)当然のことですが、今大会に入ってから「キャプテンの意志に従う」を徹底しています。その決意の背景は。
「チームが1つになるにはリーチを中心としてやらないといけない。誰かが違う方向をむけば分裂をする。そういうチームでは勝ち上がってはいけないので。リーチのようないいキャプテンがいてくれるのは、日本としてはありがたいです」
――4年間、ずっとワールドカップでの勝利を目指していて、今大会2勝。肩の荷は下りたか。
「南アフリカ代表戦(9月19日/ブライトン・コミュニティースタジアム/34-32で勝利)の後はそういう思いはありましたけど、いまはやはり欲が出て、3勝したい、と。当初の目標のベスト8が見えてきましたね」
――注目度は増した。
「嬉しいです。ようやく肩の荷を下ろせるというか。日本のためにと色々とやってきたのが、いまは僕が何かをしなくても新しくラグビーを観てくれる方が勝手に増えてくれる状態。安心してます」
――こういう状況では、選手の発言が注目されます。日本ラグビー界への環境改善への思いは。
「そうですね。ワールドカップだけに集中しているので、落ち着けば山ほど出てくるとは思うんですけど、いまはアメリカ戦しか考えられないですね。すみません」
――このブームを継続させるには。
「最初に必要なのは日本協会のオーガナイズ。企業、小学校、県、街にアクションをしていかないといけないですし、僕たちはそれを聞き入れて行動する」
――子どもたちへの普及活動。
「普及は大好きなんですけど、家族の時間が持てていない。(国内所属先のパナソニックには)『家族も連れて行けるのなら行きたい』という話はしています。ただ、僕が行くよりも外国人選手や子どもと年の近い若手選手が行った方がいいとは思います」
――ファンが増えた分、がっかりさせられない。
「それは、次の世代へ…。僕も一生懸命やって代表に入りたいですけど、内田(啓太・スクラムハーフ、パナソニック在籍)のようないい選手もいる。彼らがもっとレベルアップして、さらに日本のレベルを上げて欲しいと思います。その第一歩として、僕たちのベスト8入りも必要かとは思います」
――(当方質問)確認ですが、今後も、日本代表入りは目指すのですよね。
「向上心は持ってます。まずは、これからは、個人のことを優先させたいかなと思います。ラグビーは盛り上がっている。いままでは日本ラグビーのために…とやってきたけど、個人にフォーカスを置いてやっていきたいです。ゆっくりできる部分があるので、もうちょっとレベルアップというか、このレベルを下げないということはできる」
――「個人」。具体的にチャレンジしたいことは。
「…それがあまりないんですよね。何をしていいのかもわからないし。日本のラグビーを盛り上げることを償いというか、生きがいとしてやってきたので。この後は家族と話し合いながらやっていきたい」
――償い。
「前回、申し訳ない結果だったので」
――それはクリアになった。
「いや、それも24年間勝ってこなかった。僕1人の責任ではないですけど、まぁ、ラガーマン、ラガール全体の問題でもあるので。もっとラグビーをやっている人が楽しみながら盛り上げられたらな、とは思います」
――発足が危ぶまれた2016年からの日本拠点チームも、やっと名称が決まった。
「今回のワールドカップの勝ちが引き金になった部分もあると思う。誇りに思います」
――気になりますか?
「気になる、とは? 気になるというか、いまはそんなに。嬉しくは感じていますけど、いまはワールドカップのことだけを考えているので。メディアを避けているように思われるかもしれないですけど、本当にそうなので。終わったらゆっくりする時間があって、そういうことを考えられるのかなと思いますけどね」
――いまのチームについて。南アフリカ代表戦を前に、「チームが見違えるほどよくなった」と言っていた。
「そうですね。南アフリカの時はよかったし、サモア代表戦の直前もよかった。ただ、試合に勝った翌週のきょうみたいな日は、やっぱり、落ちる部分もあるのかなと感じます。それは僕自身だけが感じているだけなのですけど、そこは、日本ラグビーがまだ大きくなれる部分なのかなとも思いますね。余韻なのか、集中していないだけなのか…。僕自身はもうサモア代表戦のことは忘れてますし、それよりラグビーを楽しんで集中する、という風にやっているのですけど」
――(当方質問)何を観て「落ちる部分」を感じますか。
「ミスが多かったり、言っていたことをできなかったり。わからないことがあればコーチに聞けばいいけど、それもなかったり。どのチームにもあることなのかもしれないですけど、世界の上に行こうとするなら、そういう部分はなくしていきたいとは思います。
ただ、試合の前には皆集中してくれる。大丈夫だと思います」
――アメリカ代表戦は。
「あまり考え過ぎると皆が緊張してしまうので、いつもと同じように『この試合にすべてを賭ける』という思いでやっていきたいです。僕もいつも通り。パスを出して味方を(相手の背後のスペースへ)抜けさせたり、裏のスペースを見てキックを蹴る。あとはコミュニケーションをしっかりとるということです。相手の強み、弱みを見極めながらリーチを中心に判断していきたいです。ワールドカップなので何があるかはわからない。気を引き締めていきたいです」
――アメリカ代表は、10月7日の南アフリカ代表戦(ロンドン・オリンピックスタジアム)は控え主体で臨みます。
「僕らは南アフリカ代表戦から100パーセントの状態で戦って、勝ってきている。先を見据えて戦う、というのは…相手には相手の作戦があるので、何とも言えないですけど。こっちのやりたいことをやっていきたいです」