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日本代表対世界選抜 ブレイクダウンが変わればすべてが変わる?【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
日本代表はワールドカップで着用の新ジャージィで登場。(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

8月15日、東京・秩父宮ラグビー場。ラグビー日本代表は、南半球強豪国の名手を集めた世界選抜に20-45で敗れた。

9月からはイングランドで、4年に1度のワールドカップ(W杯)に挑む。19日のブライトンでおこなわれる初戦では、南半球トップ3の一角、南アフリカ代表とぶつかる。同国代表経験者も揃う世界選抜とのゲームでは、結果以上に「W杯への準備」ができたかどうかが注目点だった。

蹴り込まれたボールを蹴り返さずに、スペースめがけて駆け上がる(果敢かつ準備されたカウンターアタック)。相手が反則をしたら、息つく間もなく攻撃を再開させる(ピック&ゴーの連発)。重さと強さを押し出す南アフリカ代表を走り合いに持ち込むよう心掛けていた。

「W杯への準備としては、素晴らしかったです」

敗れたエディー・ジョーンズヘッドコーチ(HC)は言った。しかし、手ごたえをというより、課題を再確認したという意味合いで、である。

ブレイクダウン(接点)でのせめぎ合いに苦しんだ。

ボール保持者(1人目)が低い姿勢で自立して前進し、その周りでシェイプ(陣形)を作る仲間(2人目)が素早くサポートする…。それがジャパンのテンポの良いボール継続の生命線だったが、しばし、1人目と2人目の間で相手の大男に絡まれた。球出しを遅らされた。

登録選手の総キャップ(国同士の真剣勝負への出場数)が600超という世界選抜の面々は、チームディナーと計3度の短時間練習を経てこの舞台に立っていた急造チームだ。30歳以上のフォワードの選手は、前半10分も過ぎれば腰やひざの上に手を当てていた。

しかし、キャリアと激しさは折り紙付きである。特に要所の接点では持ち味を示した。シニアプレーヤーたちはジャパンのランナーを押し返し、オーストラリア代表15キャップを持つ23歳のフランカー、リアム・ギルら、いきの良い仕事人とともに球へへばりついた。

日本代表は1つの接点に予定より多くの人数をかけざるを得ず、その次の接点への援護が手薄になったりもした。ブレイクダウン周辺を中心に、総反則数は「13」である。

前半は4本のペナルティーゴールを決められ、7―19とリードを許す。20分には自陣22メートル線周辺で、1人目が相手の方向にボールを置いてターンオーバーされた。まもなく、身長194センチ、体重123キロのウイング、タンゲレ・ナイヤラボロのトライを喫した。

敗れたフッカー堀江翔太副将は「1人目がもうひと仕事、ふた仕事しないと」とし、スタンドオフ立川理道は「1人目、2人目の質がまだまだ足りないということが皆、分かったと思う」。一方、勝った世界選抜の主将で南アフリカ代表85キャップのロック、バッキース・ボタはこう言った。

「きょうはターンオーバーからトライを取った場面など、いくつか重要なブレイクダウンがありました。選手たちがお互いをリスペクトして、ブレイクダウンの重要性を知ってプレーできた」

後半はタックルミスをきっかけに点差を離された。前半にトライを挙げたウイングのナイヤラボロがさらに爆発したのである。日本代表でセンターとウイングを務めた松島幸太朗は「(マッチアップした)2回中2回ともテイクダウンする(倒す)のは厳しかった。ただ、それがW杯の点数に繋がる…」。南アフリカ代表を想定した、相手を休ませないゲームプランも「いま思えば、後半に判断してキックを蹴って、しんどくなっている相手にわざとカウンターさせるなりしてもよかったかも」と立川は述懐する。

後半にたくさんトライを取られた試合をざっと見通して、守備が課題という人もいるだろう。事実、リー・ジョーンズコーチの提唱するディフェンスシステムはしばし綻ぶことはあった。

ただ、失点シーンは組織の崩壊というよりは個々のタックルミス(つまりは「1対1」)がきっかけとなっていたし、攻撃時のブレイクダウンで球を失わなければ(もしくは反則を取られなければ)守備の時間は大幅に減る。ジョーンズHCが謳う「JAPAN WAY」の是は、常に陣形を保って球をキープし続けることだ。その意味でも、真に注視されるは攻撃時のブレイクダウンの質なのである。事実、選手たちの第一声はブレイクダウン周りの反省点であった。

ジョーンズHCはこう振り返るのだった。

「ディフェンスの規律に問題がありました。ブレイクダウンでも、簡単にボール保持者が寝てしまっていた。こういう(プレッシャーの強い)ゲームでは悪い習慣は出る」

W杯の予選プールでは、南アフリカ代表に次いでスコットランド代表、サモア代表、アメリカ代表と順にぶつかる。準々決勝進出を狙うと公言するチームとしては4戦中2勝ないし3勝が必須だろう。可能だろうか。

「1対1、ブレイクダウンの甘さがある。W杯まで修正しないといけない」

フランカーのリーチ マイケル主将の弁だ。取りようによっては、いまのままでは目標は叶わないと示唆しているようでもある。最近の世界のラグビーでは、ブレイクダウンでの技術と激しさが向上し続けている。欧州6ヵ国のスコットランド代表、環太平洋で最強だろうサモア代表も、その隊列に加わっている。

もっとも、いまのまま大会に臨むとは限らない。

「1人目のひと仕事、ふた仕事」や「2人目の質」については、7月のパシフィックネーションズ・カップ(カナダ代表、アメリカ代表、フィジー代表、トンガ代表と戦い1勝3敗)を終えてその重要性を肝に銘じたばかり。W杯クラスの激しい圧力を受けつつチームのブレイクダウンの法則を守り続けるには、「(本番までに)高いクオリティーのゲームをするしかない」と指揮官は観る。

チームは8月下旬にウルグアイ代表と2連戦をこなし、9月は渡欧してグルジア代表とぶつかる。世界選抜と比べたらやや見劣りするが、パワープレーに定評があるグルジア代表との試合が試金石となろう。現在、セレクションで「実験」を重ねる指揮官だが、大会登録メンバー決定後のグルジア代表戦はベストメンバーを組むはずだ。

「どうなるだろうと思っている人はいるかもしれないが、完成までは遠くない。我々の仕事は、選手に勝てると思わせることです。いま、勝とうが負けようが、この先のトレーニングは一緒です」

普段は辛口のキーマン、スクラムハーフ田中史朗も、「もっとコミュニケーションとテクニックを高めないと。まだまだ高められる」。ブレイクダウン周辺での彼我のギャップは明らかかもしれない。ただ、それを田中の言葉通りにリカバリーすればその他の領域の課題は陰に隠れるだろう。返す返すも、球を失わなければ守る時間は減らせるし、相手より速いテンポでの攻めを重ねれば相手の守備の規律に乱れが生じうる。ジョーンズHCは続けた。

「クイックラックを6~7回、重ねれば我々の勝機が見える。(2人目が)高い精度のクリーンアウト(相手の妨害役を引きはがす)を…」

いまのジャパンは一昨季、昨季と、それぞれウェールズ代表とイタリア代表という欧州諸国に勝っているが、その実相を要約すると「ブレイクダウンがほぼ互角で相手がミスを連発。結果、ジャパンの連続攻撃を機能させた」である。

何より。選手が自分たちの(少なくとも競技の技能面における)根本的な課題に本当の意味で気づいたのが、本番中ではなく本番前だった。2大会続けて1分3敗に終わった4年前の前回大会時とは、その辺の状況が明らかに違う。前回の低調ぶりを「記憶から消した」という田中は、こうも続けた。

「W杯で勝たないで終わったらどうなるかはもう、わかっている」

どこまで改善されるかはわからない。ただ、ブレイクダウンの問題がこのまま放置されることはないだろう。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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