Yahoo!ニュース

スーパーラグビーのプレーオフでも対戦? リーチ マイケルと田中史朗、苦言の背景【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
国内公式戦の後に握手を交わすリーチ(左)と田中(右)。(写真:伊藤真吾/アフロスポーツ)

南半球最高峰のスーパーラグビーは、上位6強によるプレーオフに突入する。20日、ニュージーランドのダニーデンでの1回戦では、チーフスとハイランダーズが激突。そのいずれにも、日本人選手がメンバー入りしていることでも注目を集めている。

チーフスの「20番」はリーチ マイケル。日本代表でキャプテンを務める26歳だ。「誰よりも速くグラウンドへ行く」という献身的な姿勢とスピード感が買われてか、加入1年目ながらリーグ戦途中からナンバーエイトのレギュラーを獲得した。国内所属先である東芝の冨岡鉄平監督は「もともと力を認められて入った選手」と、その活躍を予感していた。

ハイランダーズの「21番」は田中史朗。日本人初のスーパーラグビープレーヤーとなって3シーズン目の30歳だ。判断力と負けん気が売りのスクラムハーフとして、ニュージーランド代表のアーロン・スミスとポジションを争ってきた。「衰えてきてる」と口にしてもあまり信じてもらえないところに、かえってジレンマを抱えている。

2人には共通点が、ある。日本ラグビー界、ないしはラグビー日本代表について、かなり突っ込んだ苦言を呈しているところだ(参考 田中の最新インタビュー12リーチの最新インタビュー12)。

――…なるほど。では、ありがとうございました。

「…あの、2019年、大丈夫そうですか」

取材を終えて立ち去ろうとする記者にリーチが問いかけたのは、2季前の東芝のクラブハウスでのことだ。2019年には日本でワールドカップが開かれるが、その認知度が高まっているとは言いがたいと感じていたようだ。

「(ニュージーランドにいる)フミさんともラインで話していたんですけど、そういうの、選手から発信していかないとダメだな、って」

さらに率直なのは、その「フミさん」である。

ハイランダーズとの契約締結後の2012年12月だ。同クラブの合宿に参加した後、日本でのトークイベントに参加。40人ほどのファンの前でマイクを握るや、開口一番こうだった。

「日本はまだまだ甘いと思いました」

「自分も含めて」と前置きしつつ「選手の意識の低さ」を発信し、2019年に関するプロモーションなどに関する体制批判も辞さなかった。司会者が「ツイッターは控えて…」と気遣おうにも、「どんどん、つぶやいてもらっていい」。一事が万事、この調子だった。

そもそも、2011年のワールドカップニュージーランド大会で未勝利に終わったあたりからこの人は「意識」を変えていた。帰国後に開幕したトップリーグの取材現場では、その日の試合の感想と同時に「若い選手の試合経験が足りない」「レフリーの質をもっと上げてほしい。僕らが人生をかけているのに」といった提言を残していった。

国内所属先のパナソニックでプレーするさなか、こう言ったこともある。

「…例えば、ムカイさんが『××はアカン』みたいなこと書いたら、それこそアカンようになるんですよね? でも、メディアもまとまって欲しいです」

月並みではあるが、全ては日本のラグビーを愛するが故の言動である。本ページでアップされたシーズン中の電話取材の成果(前掲)は、反響が大きかった。特に田中のそれは「衝撃的な内容」とされた(もっとも、書かれた内容は実際の発言を大分、そぎ落としたものだ)。掲載後、リーチは代表関係者から「よく考えてから発言するように」と告げられたという。もっとも何も考えずに喋る人ではないだけに、原稿チェックをしたのちに「自由に書いて欲しいです」と返事をしたことがある。

今年はワールドカップのイングランド大会があり、翌年からはスーパーラグビーに日本拠点のチームができる。

前者については、エディー・ジョーンズヘッドコーチのもと周到な準備がなされている。結果はわからない。ただ、予算と関わる人の気迫は十分と言える。

後者については、選手の補償問題について「今月中にはまとまる」と協会関係者が語ったのは6月上旬頃だ。その数週間後、あるトップリーグの関係者は「話は、現場には降りてきていない」と嘆く。

もっとも、あくまで本人の証言ではあるが、リーチのもとに日本拠点チームからのオファーが届いたという。田中のインタビューが掲載されて間もない頃だ。

何か行動を起こせば、何かが変わるかもしれない。

だからこそ、行動を起こす。

発言も、グラウンドでのパフォーマンスも、その原理に基づいたものだ。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

すぐ人に話したくなるラグビー余話

税込550円/月初月無料投稿頻度:週1回程度(不定期)

有力選手やコーチのエピソードから、知る人ぞ知るあの人のインタビューまで。「ラグビーが好きでよかった」と思える話を伝えます。仕事や学業に置き換えられる話もある、かもしれません。もちろん、いわゆる「書くべきこと」からも逃げません。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

向風見也の最近の記事