春の2戦で7トライ 帝京大学、注目ルーキー竹山晃暉が勝負強すぎる(?)件【ラグビー雑記帳】
くりっとした瞳で相手守備の位置関係を見定める。
甲高い声で指示を出す。
ところかまわずパスをもらいにゆく。
走る。
走る。
走る。
ボールを得たら追いすがる相手をかわし、そのまま、インゴールまで駆け抜ける。
竹山晃暉。大学選手権6連覇中、帝京大学ラグビー部のルーキーだ。
奈良県立御所実業高校では、大阪は近鉄花園ラグビー場(当時)での全国高校ラグビー大会で2度の準優勝を経験している。
特に副将として迎えた前回大会は、浮世離れした風景を描いた。
神奈川の慶応高校を19―14で下した2015年元旦の3回戦。後半ロスタイムに逆転トライを決めるや、空から雪が降った。
「グラウンドではフリーマン。どこでもパスをもらって、どこでもトライを取れる選手を目指して、花園に来ました」
桜の咲くころ、上京。「フリーマン」の竹山は、朱色のジャージィの「11」をまとう。関東大学春季大会では、2試合連続で先発出場中だ。特に実質的な大学デビューを果たした法政大学戦(東京・帝京大学グラウンドで121-0と大勝)、5トライを挙げる。持ち場の左タッチライン際を離れ、あちこちで顔を出した。
新入生には寛大な岩出雅之監督は、質問に質問を返す形でこんな談話を残した。
――竹山選手、どんなところがすごいと思いますか。
「…どんなところがすごいと思いますか」
――ここでパスをもらったら必ずトライか大きな突破ができるだろうという場所にいつもいて、本当にそこでパスをもらったらその通りにするところですか。
「うん。嗅覚がある。スキルもあるね」
続く5月17日の流通経済大学戦(こちらも帝京大学グラウンド)でも、2トライを奪取。考える。動く。仕留める。身体能力に頼らぬ資質を、「175センチ、75キロ」が表現する。
「同じチームにいるいい選手のプレーを、どれだけものにするかが大事だと思います」
「戦うのは自分自身で、相手がどうこうというのは関係ない。焦っていいことはないと思うので、ラグビー以外でも落ち着いて余裕のある人間でいたいです」
「人生の目標である2019年(4年に1度のワールドカップの日本大会への出場)、20年(東京オリンピックでの男子7人制日本代表選出)に向けての近道というわけではないですが、帝京大学で過ごす毎日が、自分の人生を作ってくれている」
齢18歳。マスコミを前に、普遍的な「明るさ」「丁寧さ」「賢さ」を発信する。
ドメスティックなヒーローではない。昨年8月には中国・南京でおこなわれたユースオリンピック2014(14~18歳が対象の世界大会)に、男子7人制日本代表として出場している。
高校や大学で取り組む15人制でも、高校日本代表を飛び越えて20歳以下日本代表候補に名を連ねている。
しかし、ここでは候補止まりだった。本人によれば辞退したようだ。
「合宿で怪我をしてしまって、行っても足を引っ張ってしまうと思ったので。いまは完治して、支障はないのですけど。自分の身体というのは、まだまだ弱いので」
中竹竜二ヘッドコーチが「まぁ、体調が…ということ」と言葉を濁すなか、竹山自身は婉曲的な表現で将来を語るのである。
「ジャパンになりたい」ではなく、「ジャパンに必要とされる人間になりたい」と。
「上からジャパンを見ているというわけでは決してなくて、呼ばれたら喜んで行かせていただくのですが、まだまだ僕は日本を背負える男ではない。いまは土台作りをしっかりして、どんな時でも負けない自分でありたい」
自分には自分なりの自分の捉え方があって、自分には自分なりの世界への視線がある。
普遍的な「明るさ」「丁寧さ」「賢さ」の奥にある、顕在化されぬ真の個性。
それが、氷の勝負強さを象っている。
流通経済大戦後。会場の片づけをする竹山が立ち止まる。声をかけてくる記者と一定の距離感を保ち、問答に応じる。
――注目されていることは、自覚していますね。
「…(だまって頷く)」
――そんな状況を、どう捉えていますか。
「行動を見られているという意識は常にあって。10、いいことをしても、1、悪いことをしたら、悪い風に捉えられてしまうので。正しいことと正しくないことを判断していかなくてはいけない」
――大変ですね。
「いいえ、自分が成功するためなので。最終的に、日本全体に勇気を与えられる、人からリスペクトされる存在になって両親に恩返しをしたいので。そういうことは、忘れないようにしたいと思っています」