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インザーギの矜恃と「特異な選手」の存在。ストライカーという個体とあるべき姿。

森田泰史スポーツライター
ゴールを喜ぶインザーギ(写真:Enrico Calderoni/アフロスポーツ)

ストライカーの矜恃というのが、ある。

2006−07シーズン、チャンピオンズリーグ決勝。ミラン対リヴァプールの一戦で、大活躍したのはフィリッポ・インザーギだった。2004−05シーズンのイスタンブールの悲劇のリベンジを果たす格好で、インザーギの2得点でミランがビッグイヤーを獲得した。

インザーギの雄叫び
インザーギの雄叫び写真:ロイター/アフロ

その試合の先制点のシーンでは、アンドレア・ピルロの直接FKがインザーギに当たり、ゴールに吸い込まれた。インザーギの手に触れていたかに見えるゴールシーンは、現在ではVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)判定で取り消されていたかもしれない。

だが、それがインザーギという選手なのだ。

■オフサイドライン際の職人

「インザーギはオフサイドラインで生まれた」とは長くマンチェスター・ユナイテッドで指揮を執ったサー・アレックス・ファーガソン監督の弁である。

ファーガソンの言葉にあるように、インザーギは最終ラインのギリギリから飛び出して、幾度となくゴールを奪った。なかには、副審の見逃しで認められたゴールもある。VARが導入されている昨今においては、これも存在しなかった可能性がある。

テクノロジーとビッグ・データの発展で、特異な選手たちに与えられるスペースは、日に日に減っている。監督、選手、クラブ…。すべてをコントロール下に置くのが「良し」とされる世界で、予測できない事態は削除されるべき問題だ。

シュートを打つインザーギ
シュートを打つインザーギ写真:Maurizio Borsari/アフロ

「私とは、一個の他者である」

これはフランスの詩人、アルチュール・ランボーの言葉だ。

ゴールスコアラーとは、一個の他者で、もっと言えば、一個の個体である。クリスティアーノ・ロナウドやリオネル・メッシにもそれは当て嵌まり、いまならアーリング・ハーランドやキリアン・エムバペといった選手が該当する。

タイプとして、ガブリエウ・バティストゥータやアドリアーノが、ハーランド系だった。エンバペに関しては、マイケル・オーウェンを似たタイプとして挙げられるだろう。

ストライカーには、ある種のエゴが必要だ。

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スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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