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ウィングの生き残る道。スペインのタレントと、アダマ・トラオレの帰還。

森田泰史スポーツライター
ボールをコントロールするブライアン・ヒル(写真:ロイター/アフロ)

飛ぶためには、翼が必要だ。

フットボールにおける「翼」とは、ウィングのことである。だが近年の傾向で、ウィングの役割は変化してきている。

一昔前であれば、快速でサイドを駆け上がるウィングの姿が散見された。あるいは、果敢に仕掛け、ドリブルで突破していくウィング像が主流だった。

ドリブルするブライアン
ドリブルするブライアン写真:ムツ・カワモリ/アフロ

ハーフスペースでの仕事、カットインからのシュート、サイドバックとの連携…。現在、ウィングのタスクは多岐にわたる。

だが、その中で、昔ながらのプレースタイルを維持している選手がいる。ブライアン・ヒルだ。

■スペインのタレント

この夏、トッテナムがブライアンの獲得に動いた。移籍金2500万ユーロ(約31億円)をセビージャに支払い、加えてエリック・ラメラを譲渡するというイペレーションで移籍が決定した。

だがヌーノ・エスピリト前監督、アントニオ・コンテ監督、いずれもブライアンを完全に信頼するには至っていない。現状、トッテナムではカップ戦要員で、プレミアリーグではベンチが定位置となりつつある。この冬の移籍市場では、バレンシア移籍の憶測が流れている。

セビージャ時代のブライアン
セビージャ時代のブライアン写真:ロイター/アフロ

ブライアンはセビージャのカンテラーノ(下部組織出身選手)だ。2011年にカンテラに入り、アレビン(U−11)の世代からセビージャでプレーした。

彼の転機となったのは2020−21シーズンのエイバルへのレンタル移籍だった。ホセ・ルイス・メンディリバル監督(現アラベス)に気に入られ、レギュラーポジションを確保。2021年3月にはスペインA代表デビューを飾っている。

「初めて見た頃から、ブライアンのプレースタイルは変わっていない」と語るのはセビージャのカンテラに従事するパブロ・ブランコである。

「大胆で、エレクトリックで、縦に速い。痩せているが、サイズは意外にあった。ゴルディージョを彷彿とさせる選手だった。攻撃の時に深みを与えてくれる選手だ。ブライアンの足首はゴムのようで、それを使いながら巧みにクロスを上げていた。生まれながらの、生粋の左ウィングだ」

バルセロナに復帰したアダマ
バルセロナに復帰したアダマ写真:ロイター/アフロ

一方、この冬の移籍市場で、ウィングを補強したのがバルセロナだ。

バルセロナはウルヴァーハンプトンからアダマ・トラオレを獲得。バルセロナのカンテラ出身選手であるアダマだが、2015年夏に移籍金1000万ユーロ(約13億円)でアストン・ヴィラに移籍していた。

当時のバルセロナには、リオネル・メッシ、ルイス・スアレス、ネイマールがいた。「MSN」の全盛期で、将来性のあるカンテラーノに与えられる出番は多くなかった。

この度、アダマの獲得を望んだのは、シャビ・エルナンデス監督だ。奇しくも、「MSN」が中心となったバルセロナで、出場機会を失っていった選手の一人がシャビだった。カウンターに傾倒して、攻撃が早くなり、中盤でボールを落ち着かせる役割を担うシャビの存在感は薄れていった。

■3トップのウィング

【4−3−3】と【3−4−3】を使い分けるシャビ監督のバルセロナで、アダマには右ウィングのポジションが与えられるだろう。

(アダマの右ウィング)

アダマの持ち味はスピードと突破力だ。そこを期待して、シャビ監督は彼を獲得した。純粋なスピードで守備者をぶっち切り、攻撃に深みをもたらすというのがアダマに課せられるタスクになる。

■新たなシステム

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スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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