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グアルディオラやクロップはなぜSBを重視するのか?アウベスとロバートソンに見るサイドバック「進化論」

森田泰史スポーツライター
グアルディオラとアウベス(写真:アフロ)

サイドバックは重要なポジションだ。

彼らが大活躍して新聞の一面を飾ることも基本的にはない。だが優秀な監督は確実にこのポジションの選手を評価している。この夏、セルヒオ・レギロンやアクラフ・ハキミに高値が付いたように、それは明らかだ。

■サイドバックの評価

トッテナムのジョゼ・モウリーニョ監督、インテルのアントニオ・コンテ監督がレギロンとアクラフを欲しがった。インテルに関しては、【3-5-2】のシステムでプレーしている。問題はウィング型の選手かサイドバック型の選手のどちらをWBに据えるかだ。コンテが選んだのはサイドバック型のアクラフだった。

バルセロナの黄金時代で、ジョゼップ・グアルディオラ監督はダニ・アウベスを重宝した。2018-19シーズンにチャンピオンズリーグを制したリヴァプールで、ユルゲン・クロップ監督にとってアンドリュー・ロバートソンは欠かせない選手だった。

【4-3-3】で、ボール保持時、サイドバックは高い位置を取る。中盤の選手と化して、ポゼッションに参加するためだ。D・アウベスには技術、ロバートソンにはロングクロスとサイドチェンジという武器がある。そこを起点に、チームの攻撃が展開されていく。

興味深いのは、リオネル・メッシとロベルト・フィルミーノの存在だ。グアルディオラはメッシのファルソ・ヌエベ(偽背番号9)を発明して彼をCF起用した。いわゆるゼロトップで、メッシには自由が与えられ、彼の得点能力は開花した。クロップは3トップの中央にフィルミーノを据えた。フィルミーノはストライカーらしいストライカーではない。中盤に降りてきて、ゲームメイクをしながら、機を見て自らがゴール前に入っていく。

ゼロトップとの連携力でいえば、D・アウベスが高かったと言えるだろう。バルサに在籍した8シーズンで、D・アウベスはメッシに対して23アシストを記録している。また、D・アウベスはグアルディオラのチームで、【3-4-3】では偽ウィングになった。2011年のクラブ・ワールドカップ決勝のサントス戦で、グアルディオラは3-4-3<実質的3-7-0>を使用した。グアルディオラ自身が「あれがバルサ時代のベストゲームだった」と認める試合である。そういった試合で、ウィングの役割を担っていたのがD・アウベスだった。

■数的優位と空間的優位

一昔前と比べ、サイドバックのプレーのバリエーションは増加した。代表的なのはインナーラップとオーバーラップだ。ウィングがボールを保持している時、以前であれば、サイドバックはその外側を走った。オーバーラップである。そうして、数的優位ができる。ただ、いまは、ボールを保持するウィングに対して、内側を走る場面がある。これがインナーラップだ。数的を作れるだけでなく、空間的優位をボールホルダーに与えられる。この「走り分け」が上手いのがフェルラン・メンディ(レアル・マドリー)、ホセ・ルイス・ガヤ(バレンシア)、レギロンといった選手たちだ。

とはいえ、最新の戦術が常に正解というわけではない。アトレティコ・マドリーで、ディエゴ・シメオネ監督はマリオ・エルモソを左サイドバックで使っている。エルモソの適性は左センターバックだ。彼がエスパニョールで評価を高めたのは、左利きでビルドアップ能力が高いセンターバックとしてだった。だが先のバルサ戦でシメオネ監督はエルモソを左SBで使い、それだけではなくヤニック・カラスコを下げて5バックを形成した。

最新型であれ、オールドタイプであれ、問題ではない。重視されるのは結果だ。ただ、そこにサイドバックがどのように携わっているかに注目すると、意外な事実が見えてくるかもしれない。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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