復調するデンベレと、不振に喘ぐコウチーニョ。バルベルデが陥る「個」と「コレクティブ」の狭間。
アイデンティティを取り戻さなければいけない。エルネスト・バルベルデ監督に、大きなミッションが課せられている。
バルセロナで就任2年目を迎えているバルベルデ監督だが、ビッグクラブで指揮を執るのは初めてだ。人心掌握術に長けた指揮官は選手たちを巧みにマネジメントしながら、周囲の喧騒を結果で鎮めてきた。
■戦術の揺れ
ただ、チングリ(バルベルデ監督の愛称)は就任当初から、ある種の歪みを抱えてきた。
バルセロナは、ルイス・エンリケ監督(現スペイン代表)の下で、リオネル・メッシ、ルイス・スアレス、ネイマールの「MSN」を中心にチームを構築した。ジョゼップ・グアルディオラ監督(現マンチェスター・シティ)が固執したポゼッション・フットボールからの脱却を目指すかのように、ルイス・エンリケ監督はカウンターへと傾倒していった。
しかしチングリの就任から数カ月でネイマールが退団する。2億2200万ユーロという契約解除金を準備したパリ・サンジェルマンに抗う術はなく、バルセロナはあっさりとネイマールを放出した。「MSN」とカウンター。2つの刃が、一気に失われた。
すると、チングリはシステム変更を決断する。伝統の4-3-3を捨て、4-4-2を採用した。それは、チングリ政権での最初の大きな変化だった。
チングリの戦術で幹となったのはジョルディ・アルバの偽ウィングだ。ネイマールの退団で、彼の抜けた穴を埋めるべく、実質ジョルディ・アルバに左ウィングの役割が与えられた。メッシとスアレスの2トップが中央から右側に流れ、空いた左のスペースにアルバが走り込んでくる。それがバルセロナの最大の武器になり、2017-18シーズンにはリーガエスパニョーラとコパ・デル・レイを制して2冠を達成した。
■オプション化
リオネル・メッシ、ルイス・スアレス、フィリペ・コウチーニョ、ウスマン・デンベレ。「四人の暗殺者」を共存させる。それがチングリの就任2年目の任務であった。
デンベレは一時期規律の不履行が問題視されたが、そこから復調してバルセロナでの地位を確固たるものにしようとしている。いまでは、デンベレのスピードはバルセロナの攻撃深度を上げる重要な手段だ。一方で、コウチーニョは苦戦している。インサイドハーフとウィングの間でポジションが定まらない。決定力(得点数)においても、決定機の演出(アシスト数)においても、物足りない印象が残る。
新たな可能性が示されたのは、リーガ第25節セビージャ戦だ。スコアを先行され、チングリは4-2-3-1を施行した。トップ下に配置されたメッシが、前線のデンベレ、スアレス、コウチーニョを操る。その構図が明確になり、四人の共存が実現した。
だが、この布陣は中盤と守備陣の負担が大きい。セルヒオ・ブスケッツとイバン・ラキティッチは広大なスペースをカバーするために奔走しなければならず、場合によっては攻撃の4人と守備の6人が分断される状況に陥る。
セビージャ戦ではチングリの采配が奏功して逆転勝利を手にした。しかし、あの4-2-3-1と選手配置は速く攻めるための手法であり、遅攻には向かない。ゆえに、これは応急処置であり、オプションである。結果から言えば、現時点、指揮官の試みは結実していない。バルセロナは、個とコレクティブの狭間で揺れている。
■システム論とカンテラーノ
システム論が噴出するのには、理由がある。
4-3-3はバルセロナの伝統のシステムだ。故ヨハン・クライフが提唱したもので、ポゼッションを高めながら「美しく勝つ」ために多くの選手がプレーしてきた。
また、バルセロナのカンテラーノは、この布陣での動き方を叩き込まれる。それはフィジカルに劣る、あるいは経験不足な選手たちをトップレベルに引き上げる際に大きなメリットになる。プレーシステムとメカニズムを理解しているという下地が、助けになるのだ。
逆に言えば、4-3-3の放棄は、カンテラーノの登用を困難にする。現に、今季トップチームに定着しているのはカルロス・アレニャのみだ。プレシーズンで期待値を上げたリキ・プッチや、左サイドバックのフアン・ミランダ、センターバックのチュミ、そういった選手に十分な出場機会は与えられていない。
これまではタイトルの獲得が免罪符として働いていた。だが、人の欲求には際限がない。高い要求度を満たすために、チングリは再び賽(さい)を振る。