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バルベルデを悩ませるコウチーニョとデンベレの起用法。「四人の暗殺者」共存は不可能なのか。

森田泰史スポーツライター
活躍が期待されるデンベレとコウチーニョ(写真:ロイター/アフロ)

リーガエスパニョーラで首位に立つバルセロナだが、エルネスト・バルベルデ監督はいまだジレンマを抱えている。

今季バルセロナが大一番を迎えたのは、リーガ第10節レアル・マドリー戦だ。第9節セビージャ戦でリオネル・メッシが負傷するというアクシデントに見舞われ、エース抜きという厳しい状況で、5-1という文句のない結果をクラシコで残した。

ただ、メッシが長期離脱を強いられたのは、今回が初めてではない。近年でいえば、2015-16シーズンがそれにあたる。

そのシーズンでは、リーガ第6節のラス・パルマス戦で、メッシが負傷した。右ひざの内側側靭帯を痛めて2カ月の離脱。9試合の欠場を余儀なくされたが、その間、バルセロナは7勝1分け1敗と見事にメッシの不在を乗り越えてみせた。

■四人の暗殺者

そして、今季のバルセロナはメッシの離脱期間に行われた5試合を4勝1分けとした。申し分のない成績で、タイトル獲得への道を邁進している。

だがメッシ不在の状況で、新たな問題が発生した。代役に選ばれたのはウスマン・デンベレではなく、ラフィーニャ・アルカンタラだった。

つまり、根本的なところで、バルセロナの課題は解決を見ていないのだ。

四人の暗殺者ーー。以前、あるスペインメディアはバルセロナのアタッカー陣をそう評していたことがある。メッシ、デンベレ、ルイス・スアレス、フィリペ・コウチーニョ、この4選手を指し示しての表現だ。

攻撃を司る4人のプレーヤーへの期待が俄かに高まっていた。求められていたのは、即ち「MSN」からの脱却である。「MSN」とは、スペインと欧州を席巻したメッシ、スアレス、ネイマールの3トップだ。2014-15シーズン、ルイス・エンリケ監督の率いるチームはチャンピオンズリーグ、リーガエスパニョーラ、コパ・デル・レイを制して3冠を達成した。

しかしネイマールはバルセロナから去っていった。メッシの後継者と目されていた選手が、突如として退団を決めたのだ。バルセロニスタの愛は憎しみに変わり、愛憎劇の反動で「四人の暗殺者」の予測値が潜在的に上がった。

■デンベレとコウチーニョ

ネイマールの穴を埋めるために、まずバルセロナが獲得したのがデンベレだ。その半年後には、コウチーニョを引き入れた。デンベレ獲得には移籍金固定額1億500万ユーロ(約134億円)、コウチーニョ獲得には移籍金固定額1億2000万ユーロ(約153億円)を費やした。ネイマールがパリ・サンジェルマンに移籍して、残していった2億2200万ユーロ(約281億円)という置き土産を、バルセロナはすぐに使ってしまったのだ。

お世辞にも賢いとは言えない補強だが、それはさておくとして、デンベレとコウチーニョには素早い適応が求められた。コウチーニョに影響を及ぼしているのは、ジョルディ・アルバのパフォーマンスだ。ただ、アルバが良ければコウチーニョも良い、という単純な話ではない。むしろ、その逆だ。

アルバが好プレーを見せる。つまり、それはアルバが頻繁にオーバーラップをしているということだ。その際、コウチーニョは左サイドのスペースを空けなければいけない。しかしながら、コウチーニョの突破力と得意とするペナルティーエリア左角からのミドルシュートを考えれば、そのゾーンは彼が最も危険になり得るエリアである。

アルバの「偽ウィング」は、バルセロナの大きな武器だ。メッシとアルバが抜群のコンビネーションを見せている事実も無視できない。その2選手の邪魔をしないように、決定機に関与する。非常に難しいタスクが、コウチーニョには課せられている。

だが深刻なのはデンベレの方だ。デンベレは今季、重要な場面でゴールを決めてきた。スペイン・スーパーカップのセビージャ戦、リーガ第2節バジャドリー戦、第4節レアル・ソシエダ戦、第11節ラージョ・バジェカーノ戦。デンベレの得点がなければ、バルセロナはより苦しい状況に追い込まれていたはずだ。

しかし、彼は断続的な、間欠的な活躍しかできていない。簡単に言えば、プレーにムラがあるのだ。規律のないチームに、栄光は訪れない。それが現代フットボールの常である。先のロシア・ワールドカップを制したフランス代表で、デンベレが定位置を確保できなかった理由もそこにある。まずは組織の駒として機能する。個を発揮するのは、それからだ。この順番を間違えてしまう選手に、居場所はない。加えて、デンベレは、最近ピッチ外での問題が取り沙汰されている。練習の無断欠席や遅刻の頻発。それが彼の立場を危うくしている。

ネイマール退団時、バルベルデ監督が示した解決策は、前線からのプレッシングとトランジションだった。メッシとスアレスを前線に置き、4-4-2へとシステムを変えた。だが現在、バルベルデ監督は中盤にアルトゥーロ・ビダルではなく、アルトゥール・メロを起用している。それはフィジカルではなく、ポゼッションで改善を試みている証だ。そしてアルトゥールの活躍で、デンベレが弾き出されているのが現状である。

確かにバルセロナはネイマールの放出で大金を得た。その軍資金で、デンベレとコウチーニョを獲得した。一方、彼らが適応に苦しむなかで、アルトゥールが台頭した。とはいえ、コウチーニョとデンベレを無碍(むげ)にはできない。矛盾を孕んだ迷宮に、バルセロナが足を踏み入れている。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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