Yahoo!ニュース

レアル・マドリーの監督解任回避には「奇跡」が必要か。必要な立て直しと、未来が懸かるクラシコの結果。

森田泰史スポーツライター
ベンゼマとセバジョスに指示を送るロペテギ監督(写真:ロイター/アフロ)

ノーゴールの呪縛からは、解放された。だがレアル・マドリーは出口の見えないトンネルから抜け出せずにいる。

リーガエスパニョーラ第9節、レバンテ戦。本拠地サンティアゴ・ベルナベウの一戦で、マドリーは1-2と敗れた。首位バルセロナに勝ち点4差をつけられ、暫定5位に沈んだ。

それだけではない。リーガ第6節でセビージャに0-3と敗れたのを皮切りに、第7節アトレティコ・マドリー戦(0-0)、チャンピオンズリーグ・グループステージ第2節CSKAモスクワ戦(0-1)、第8節アラベス戦(0-1)と5試合未勝利が続いている。

また、レバンテ戦を前に、マドリーは410分間無得点が続いていた。1984-85シーズンに記録した、494分間無得点というワーストの数字に迫っていた。

71分にマルセロが得点を挙げ、今回の無得点記録は481分で止まった。不名誉なレコードの更新こそ免れたが、ベルナベウでの敗戦でマドリディスタたちの間に悲観的な空気が漂った。

■VARの影響とC・ロナウド不在

レバンテ戦で、マドリーは2度ゴールを取り消された。17分のマルコ・アセンシオのゴールと、88分のマリアーノ・ディアスのゴールだ。そして、12分にはVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)による確認の上、レバンテ側にPKが与えられた。

かつてのリーガにおいては、アンヘル・マリン・ビジャール当時スペインサッカー連盟会長にちなみ、「ビジャラート」と揶揄されるほど、ジャッジは2強に偏っているとみられていた。だがVARの導入で、そういった曖昧な判定は一掃された。

アセンシオのゴールにしても、リプレイを見れば、オフサイドだったのは明らかだ。いくら抗議しても、映像で確認すれば、その判定は覆りようがない。

だがマドリーが不振に喘ぐ原因を、判定だけに限定することはできない。ユヴェントスに移籍したクリスティアーノ・ロナウドが抜けた穴は、大きい。「太陽を指で塞ぐような真似はできない」と、ケイロール・ナバスは語った。眩いばかりの光が去り、対比として訪れた影は余りにも濃く暗い色合いを呈している。

C・ロナウドの後継者として期待され、復帰を果たしたのがマリアーノだ。しかしながら、現時点では、「レアル・マドリーの背番号7」という重荷に耐え切れていないように見える。フアニート、エミリオ・ブトラゲーニョ、ラウール・ゴンサレスといった選手たちが付けてきた番号には特別な意味が宿るのだ。

■機能しないプランBにクラシコの結果

ここまでのリーガで、マドリーの平均ポゼッション率は69,5%だ。「ボールを握るフットボール」を実践するために招聘されたフレン・ロペテギ監督だが、この点に関しては条件をクリアしている。

一方でロペテギ監督の采配には疑問符が付く。最も多いのは、試合途中にダニ・セバジョスを投入するというパターンだ。ロペテギ監督は、この交代策でポゼッションを高め、前線の選手が流動的に動くことによる攻撃の活性化を狙っている。しかしながらマドリーの一番の課題は得点力不足で、彼はそれを解決するための手段をいまだ明示できずにいる。

スペイン『マルカ』のアンケートでは、およそ54%がクラシコ前のロペテギ解任を支持している。投票数10万票を超えたアンケートで、このタイミングでの彼の解任に「ノー」を唱えたのは、46%だった。

マドリーが最後にシーズン中に監督解任を断行したのは、2015-16シーズンだ。フロレンティーノ・ペレス会長は、ラファエル・ベニテスからの指揮官ポスト剥奪と、カスティージャ(Bチーム)を指揮していたジネディーヌ・ジダンの昇任を決断した。

現在、マドリーのカンテラ(下部組織)にはサンティアゴ・ソラーリ、シャビ・アロンソ、ラウール・ゴンサレスといったレジェンドが指導の現場に立っている。だがジダンほどのカリスマ性を備えている者はいない。あるいは経験の圧倒的な不足、資格の有無が足枷となっている。

鍵を握るのは、10月28日のリーガ第10節、バルセロナ戦だ。これがロペテギ監督のラストチャンスになるかもしれない。

なお、バルセロナはリオネル・メッシの負傷欠場が濃厚となっている。しかし、ベニテス解任の引き金となったあのクラシコにおいて、奇しくもマドリーはメッシがスタメンから外れたバルセロナを相手に、0-4と大敗した。

「ロペテギに対しては、全選手が信頼を置いている」とは主将を務めるセルヒオ・ラモスのコメントだ。彼の言葉を信じるのであれば、チーム内で火種は燻っていない。しかしながらクラブの対応は、時として不条理な結果をもたらす。予断を許さない状況で、挽回するにはもはや奇跡が必要なのかーー。マドリディスタの心は揺さぶられている。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

誰かに話したくなるサッカー戦術分析

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

リーガエスパニョーラは「戦術の宝庫」。ここだけ押さえておけば、大丈夫だと言えるほどに。戦術はサッカーにおいて一要素に過ぎないかもしれませんが、選手交代をきっかけに試合が大きく動くことや、監督の采配で劣勢だったチームが逆転することもあります。なぜそうなったのか。そのファクターを分析し、解説するというのが基本コンセプト。これを知れば、日本代表や応援しているチームのサッカー観戦が、100倍楽しくなります。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

森田泰史の最近の記事