アルトゥールはシャビの後継者になり得るか。ペップイズムに注入される「新たな血」
バルセロナが失った「中盤」を取り戻すための解決は、この男に託されたのかもしれない。
アルトゥール・メロ、この夏にバルセロナに加入した選手だ。いわば、新戦力である。
昨季加入したウスマン・デンベレやフィリペ・コウチーニョに比べれば、ネームバリューで劣る。初の欧州移籍。代表歴の浅さ。国際経験の不足。バルセロナでのプレーを時期尚早とする理由は、いくらでも挙げられた。だが彼はいま、そのチームで最も必要な選手になろうとしている。
■獲得の経緯
固定額3100万ユーロ(約40億円)にボーナス900万ユーロ(約12億円)という移籍金でアルトゥールの獲得を決めたバルセロナだが、彼に対する期待値は決して高くなかった。
それは当初、バルセロナがアルトゥールを2019年1月の移籍市場で加入させる予定だったことからも窺える。しかしながら、アンドレス・イニエスタの退団、有望株であるカルレス・アレニャの負傷による長期離脱といった事情が、アルトゥール加入を前倒しさせる追い風となった。
アルトゥールは、14歳でグレミオの下部組織に入団した。18歳でトップデビューを果たしている。彼をデビューさせたのは、かの名将、ルイス・フェリペ・スコラ―リ監督である。
グレミオはロナウジーニョを輩出したクラブだ。だがエメルソン、ルーカス・レイバと、世界へと羽ばたいた出身選手には守備的MFが多い。彼らは戦術理解力に優れ、ハードワークを厭わないタイプの選手たちだ。ロナウジーニョはウィングやトップ下で活躍したが、アルトゥールはその狭間にいる、と言える。
だが偉大な先輩たちと異なり、アルトゥールは苦しんだ。2015年から2016年にかけては、わずか2試合の出場にとどまった。「アルトゥールの特徴は、あの頃のグレミオに合っていなかった」とスコラ―リ監督は回想している。
「けれども、彼は上手くなった。私の想像を遥かに超えてね。ただ、アルトゥールを育てたのは私ではない。私は彼をデビューさせたに過ぎない。彼に規律を植え付け、成長を促したのは、レナト・ガウショ監督だ」
「アルトゥールは、金の卵を産む雌鶏だった」と語るガウショ監督との出会いが、転機となった。2017年に国内リーグ戦で、最優秀守備的MFに選ばれ、新人賞を受賞。その年、1試合平均パス成功率95%という刮目すべき数字を残した。
■シャビとの比較
「アルトゥールは現代的な選手だ。技術に優れ、戦術理解力が高い。柔らかいボールタッチに加えて、命じればマンマークさえできる。試合の雲行きが怪しくなってきた時に、チームに明確性を示すのが彼なんだ」とは、ガウショ監督の言葉だ。
味方に解決策を提示でき、ボールを「隠す」技術に長けている。ボール奪取能力ではなく、ポジショニングに優れる。それゆえに、シャビ・エルナンデスと比較されるのだろう。
それだけではない。イニエスタの不在感を誰かに埋めてほしいという渇求が、現在バルセロニスタの深層心理を支配している。
可能性が示されたのは、チャンピオンズリーグ・グループステージ第2節トッテナム戦だ。この試合ではセルヒオ・ブスケッツ、イバン・ラキティッチ、アルトゥールが中盤を形成。ブスケッツ(パス成功率100%)、ラキティッチ(パス成功率94%)、アルトゥール(パス成功率91%)というパスの正確性で、チームの勝利に大きく貢献した。
また、リーガエスパニョーラ第8節バレンシア戦で、バルセロナはポゼッション率76%、パス本数991本、パス成功率90%を記録した。これは今季のリーガで最多のパス本数となり、このバレンシア戦で一番パス本数が多かったのはアルトゥール(134本)だった。
「新加入の選手たちは、非常に良い。だけど、アルトゥールには驚かされた。彼はシャビを思い起こさせるプレーヤーだ」、リオネル・メッシはそう言った。
カンテラーノではないが、ラ・マシアを象徴する選手ーークライフ主義とペップイズムが息づくバルセロナが新たな血を受け入れようとしている。