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バルサのカンテラーノの人数が減少。宙に浮いたバルセロニスタの帰属意識。

森田泰史スポーツライター
メッシとイニエスタはバルサのカンテラ出身選手(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

手塩に掛けた選手をトップに送り、数多のタイトルを獲得する。ジョゼップ・グアルディオラ監督(現マンチェスター・シティ)の功績は、遠く記憶の彼方に追いやられた。

昨季のリーガエスパニョーラ第33節セルタ戦、バルセロナのスタメンにカンテラーノはいなかった。それは実に、16年ぶりの出来事だった。

この一年で、エリック・ガルシア(マンチェスター・シティ)、ジョルディ・エムボラ(モナコ)、セルヒオ・ゴメス(ボルシア・ドルトムント)と次々に期待の若手が新天地に活躍の場を求めている。加えて、この夏には、ホセ・アルナイス(レガネス)が移籍を決断した。

■カンテラーノの人数

「疑いを持つ者は役に立たない」

故ヨハン・クライフの有名な言葉だ。これは1部で指揮を執る監督の、偽らざる本音だろう。

選手側に疑いがあれば、指揮官としては起用しにくい。チームのために、クラブのために、尽くしてくれる選手が求められている。ここに大きな矛盾が生まれている。

昨季のバルセロナのトップチームのカンテラーノ数は、2002-03シーズン以来、最低の数字となった。

2008-09(トップのカンテラーノ数は8名)、2009-10(カンテラーノ9名)、2010-11(カンテラーノ10名)、2011-12(カンテラーノ12名)、2012-13(カンテラーノ15名)、2013-14(カンテラーノ17名)、2014-15(カンテラーノ12名)、2015-16(カンテラーノ11名)、2016-17(カンテラーノ8名)、2017-18(カンテラーノ6名)。なお、ここでのカンテラーノは育成寮であるラ・マシア出身選手を指す。

就任一年目だったエルネスト・バルベルデ監督を責めるのは酷だ。ただでさえ、彼はネイマールのパリ・サンジェルマン移籍に振り回された。それでも、コパ・デル・レイとリーガエスパニョーラを制して二冠を達成したのだ。

その一方で、クラブ哲学はどうだろうか。「クラブ以上の存在」を謳うバルセロナだからこそ、この問いに真摯に向き合わなければならない。

■売却の理屈

無論、クラブとしては商売を考えなければならないという言い分もある。

バルセロナがこの夏に選手売却で得た額は、およそ1億2400万ユーロ(約155億円)だ。決して「売り上手」ではないバルセロナだが、エリック・アビダルとラモン・プラネスをスポーツ部門の強化部長に迎え、新体制で上々のスタートを切った。

しかし、この10年で放出されたカンテラーノの移籍金トップ3を見ると、選手の育成に疑問を呈したくなる。

2014年夏に移籍金3300万ユーロ(約43億円)でセスク・ファブレガスをチェルシーに、2015年夏に移籍金2700万ユーロ(約35億円)でペドロ・ロドリゲスをチェルシーに、2013年夏にチアゴ・アルカンタラを移籍金2500万ユーロ(約33億円)でバイエルン・ミュンヘンに放出した。

昨季終了時にはアンドレス・イニエスタが退団した。12歳で下部組織に入団したイニエスタは、カンテラーノの象徴のような選手である。その選手がバルセロナを去った意味は大きい。

2012年11月25日に行われたリーガ第13節レバンテ戦では、スタメン全員がカンテラーノだった。指揮を執っていたのはグアルディオラ監督だ。

あれから6年ほどの月日が経ち、状況は大きく変わった。選手を育てたい気持ちはあるが、結果を出せなければ、忽ち業火の如く批判が浴びせられる。このジレンマをうまく消化しない限り、バルセロニスタの帰属意識は宙に浮いたままだ。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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