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シメオネが待ち望んだ「戦闘機」の到着。本拠地での決勝開催も決まり悲願のCL制覇を2年以内に。

森田泰史スポーツライター
アトレティコ復帰を決めたD・コスタ(写真:ロイター/アフロ)

クラブは指揮官の要望に応え、チームはそれに結果という答えを出す。それが健全な三者の関係だ。

アトレティコ・マドリーは20日、ジエゴ・コスタ獲得でチェルシーと基本合意に達した。この夏ディエゴ・シメオネ監督が強く望んでいたのが、D・コスタとビトロ(ラス・パルマスにレンタル加入中)の獲得である。ヒル・マリンCEOら首脳陣はシメオネ監督を満足させる補強を実現している。

■期限を過ぎての移籍の裏側

移籍市場が閉鎖してからの移籍劇。そこには、ある事情があった。スペインプロリーグ機構は、9月の第4週にアトレティコを含むリーガの全クラブに対して今季の出費可能額を伝達。アトレティコに指定された額は2億3700万ユーロ(約308億円)だ。そこには、先に契約更新を行ったコケ、サウール・ニゲス、アントワーヌ・グリエズマンの新たな年俸も含まれる。

そこでアトレティコは最終的に、買い取り義務を付けた今季終了時までのレンタルという形でD・コスタを獲得することになった。現時点でレンタル料500万ユーロ、そして来夏に完全移籍のため5000万ユーロを支払う。加えて成果報酬額として1000万ユーロが契約に盛り込まれ、合計6500万ユーロ(約84億円)というオペレーションだ。

クラブはD・コスタを引き入れるため、現所属選手を放出する可能性を考慮していた。資金調達を容易にするためだ。だがシメオネ監督の回答は「ノー」であった。フェルナンド・トーレス、アンヘル・コレア、ルシアーノ・ビエット、ケヴィン・ガメイロら“オーバーブッキング”となるFW陣においても、全員の残留を希望したのである。

■コンディションを上げなければならないD・コスタ

いずれにせよFIFAの選手登録禁止処分で1月までプレー不可となるD・コスタだが、スペイン代表として臨んだ6月7日の国際親善試合コロンビア戦以降、試合に出場していない。彼は今後100日でフィジカルトレーナーのオスカル・オルテガ氏と“プレシーズン”を行い、コンディションを上げなければいけない。

順調に行けば、1月3日のコパ・デル・レイ・ベスト16第1戦でアトレティコ再デビューを果たすことになる。その先、少なくとも21試合でシメオネ監督はD・コスタを起用できる。

D・コスタがトップフォームに戻れるならば、前線でグリエズマンの相棒を務めるのは彼になるだろう。D・コスタこそが、シメオネ監督の求める「戦闘機」である。空中戦に強く、頑強な体でポストプレーをこなす。限られたゴール前のスペースをこじ開けるためには、彼のように躊躇わず身を投げ出す覚悟を持ったFWが必要だと指揮官は考えるはずだ。

一方で、ビトロはチスパ(火花)を与える存在である。センターハーフ型の選手が集う中盤で、彼は生粋のサイドアタッカーとしてアクセントになる。昨季のチャンピオンズリーグで、ネイマール(現パリ・サンジェルマン)に次いで攻撃時の突破数が多かったのがビトロだという事実を、知る人は少ないかもしれない。

■シメオネのスタイルは変わらず

CMFタイプの選手を中盤に4人並べる、4-4-2。これがシメオネ監督の代名詞と言える布陣だ。

中盤の選手のなかで、「方向づけ」を行うのはコケだ。相手陣地に入り、押し込んだ展開ではコケが攻撃のベクトルを定める。サイドバックの上がりを促しながら、機を見ては大胆なダイレクトパスを送り、一瞬で決定機を演出する。一方でチアゴ・メンデスが存在感を失って以降(昨季終了時に引退。現在はコーチングスタッフの一員)アトレティコには中盤で構えて相手の攻撃を摘み取るタイプの選手が欠けていた。

シメオネ監督が期待するのは、アウグスト・フェルナンデスの復帰だ。A・フェルナンデスは2016年9月に右ひざの前十字じん帯を断裂。回復して今季プレシーズンに参加したが、開幕直後練習中にハムストリングに肉離れを起こして再び戦線離脱。今月25日に三度トレーニングに戻り、今度こそ本格的に実戦の舞台に上がれそうだ。

■2019年CL決勝は本拠地開催

2014年のチャンピオンズリーグ(CL)決勝、2016年のCL決勝では、ビッグイヤー獲得を目前にして、涙を呑んだ。悲嘆に暮れたアトレティコスの表情は、記憶に新しい。ミラノでの決勝後には、狼狽したシメオネ監督が「続けるか迷っている」と退任をほのめかすほど、その衝撃は大きかった。

先日、2018-19シーズンのCL決勝開催地が発表された。選ばれたのは、今季からアトレティコが新本拠地として構えるワンダ・メトロポリターノである。舞台が整った、とはまさにこのことだ。

スタジアム移行が決定した際にはネーミングへの批判もあったが、今季アトレティコのソシオ数はすでに11万人に達している。これはクラブレコードの数字だ。

だが一方で、歓喜の瞬間を2019年まで待つ必要はあるのかと思えてくる。

今季のアトレティコは好調を維持している。リーガエスパニョーラでは6試合を終えて無敗を維持しており、勝ち点14で2位に位置。6連勝中の首位バルセロナだけが、先を行く。第6節終了時点で、アトレティコが2位に位置していたのは2013-14シーズン以来だ。13-14シーズンは、アトレティコがリーガ制覇を成し遂げた年である。それ以来の好スタートなのだ。

後半戦からD・コスタとビトロが加わる今季も、十分にチャンスがある。シメオネがビッグイヤーを掲げる、その時をアトレティコスは心から願っている。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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