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2022年高校野球総括 大阪桐蔭4冠ならず、東北勢に初の栄冠!

森本栄浩毎日放送アナウンサー
球児たちを見守る甲子園。きたる2023年はどんなドラマが待っているか(筆者撮影)

 今年もあとわずか。先月の神宮大会で幕を下ろした高校野球シーズンは、夏の選手権をもって世代が入れ替わる。したがって、現在の高3世代は厳密に言うと、昨秋の地区大会に始まって、選手権の上位校による国体までがワンシーズン。したがって、23年シーズンはすでに始まっている。振り返ると、昨季は東北勢がついに甲子園で頂点に立った歴史的な1年だった。(文中の学年は現役のみ)

センバツ圧勝の大阪桐蔭、「4冠」へ期待膨らむ

 近年の高校球界を牽引するのが大阪桐蔭であることに、異論を差しはさむ余地はない。全国のチームが大阪桐蔭を目標にし、「打倒!大阪桐蔭」を掲げている。昨秋の神宮大会を制し、センバツでも圧倒的な強さを見せたことから、夏の選手権、国体を含めた「4冠」獲得へ期待が膨らんだ。その快進撃に陰りが見え始めたのが春の近畿大会だった。準決勝で、近江(滋賀)の山田陽翔(西武入団)に苦しめられながらも勝ち抜き、この段階での公式戦連勝は「29」まで伸びていた。

智弁和歌山に敗れ、30連勝逃す

 決勝の相手は智弁和歌山。21年夏の甲子園優勝校で、近畿でも長くライバル関係にある。ただ、近年は大阪桐蔭の軍門に下ることが多く、中谷仁監督(43)は奇襲を仕掛けてきた。下級生左腕を先発させ、目先を変える作戦に出たのだ。しかも、相手エースの前田悠伍(2年=現主将)の立ち上がりを攻めて、先頭打者弾などでいきなり3点を奪う願ってもない滑り出し。左右の投手を次々に繰り出す継投策の前に、大阪桐蔭打線は的を絞れず分断された。智弁和歌山はエース・武元一輝を6回から登板させ、球威で抑えにかかる。結局、初回の3点を挽回できず3-2で逃げ切られ、大阪桐蔭の公式戦30連勝はならなかった。

夏の甲子園では18得点後、尻すぼみ

 ただこれで余計なプレッシャーから解放されたことも事実。夏の大阪大会はライバルの履正社を圧倒するなど危なげなくクリアし、優勝候補の筆頭として甲子園に乗り込んだ。初戦で旭川大高(北北海道)に6-3で逆転勝ちすると、2回戦では聖望学園(埼玉)相手に25安打19得点で圧勝し、勢いづくかと思われた。しかしこの打線爆発が仇になったか、4-0で勝った3回戦の二松学舎大付(東東京)には、川原嗣貴の完封こそあったが、打線は尻すぼみ。準々決勝は下関国際(山口)との対戦となった。

まさかの三重殺で春夏連覇ならず

 最大のライバルと目された智弁和歌山は2回戦(初戦)敗退を喫していて、センバツ準優勝の近江も山田に疲労が色濃く、大阪桐蔭3度目の春夏連覇は濃厚かと思われた。この段階では投手力のいい仙台育英(宮城)が対抗馬の一番手とみていたが、立ちはだかったのは下関国際だった。大阪桐蔭優勢のまま終盤に突入したが、7回、無死1、2塁からバントエンドランに失敗してまさかの三重殺。とどめを刺せずに迎えた9回、前田が逆転打を浴びて4-5で敗れた。

夏の過酷なトーナメント象徴した準決勝

 主役が消えた準決勝では、仙台育英が聖光学院(福島)との東北対決に18得点で圧勝すると、勢いに乗る下関国際も近江の山田を後半に攻略し、初の決勝進出を果たす。決勝は予想外の顔合わせとなったが、準決勝の2試合は、1回戦から登場したチームが消耗から崩れた同じような内容で、改めて夏のトーナメントの過酷さが鮮明になった。決勝では2回戦からの登場チーム同士が顔を合わせた。

決勝は仙台育英が投打に圧倒

 試合は、仙台育英が投打に下関国際を圧倒した。序盤こそ静かに立ち上がったが、4回に4番・斎藤陽(2年)の適時打で先制すると、5回にも上位打線の連打で加点。7回には、ここまで下関国際の快進撃を支えてきた救援の仲井慎から、5番・岩崎生弥が満塁弾を放って試合を決めた。5人の140キロオーバーを擁する自慢の投手陣は揺るぎなく、近畿の2強を倒した下関国際につけ入るスキを与えなかった。

東北勢、13度目の正直で頂点に

 仙台育英は、東北勢13度目の挑戦で初めて甲子園大会の頂点に立った。仙台育英も過去3回、分厚い壁にはね返されてきただけに、試合後の須江航監督(39)の優勝インタビュー第一声は、「宮城の皆さん、東北の皆さん、優勝おめでとうございます」だった。さらに須江監督の「青春って密」は流行語大賞の特別賞にも選ばれるほどで、インタビューではコロナと闘ってきた高校生の頑張りを称え、それに寄り添う指導者の思いを包み隠さず語り続けた。この名言は、東北勢初優勝という高校球史の新たな1ページとともに、永遠に語り継がれるだろう。

大阪桐蔭は国体制し「3冠」達成

 下関国際の健闘も光る。大阪桐蔭、近江というセンバツのワンツーを連破した殊勲は優勝校に匹敵する。また、山田というスーパースターを擁し、昨夏から3大会で通算12勝した近江は、悲願の甲子園初優勝近しを思わせる活躍ぶりだった。選手権優勝という最大のタイトルを逃した大阪桐蔭は、栃木国体初戦で仙台育英を破り、準決勝では下関国際に雪辱。決勝で聖光学院を倒して優勝した。惜しくも4冠はならなかったが、見事な3冠達成だった。

23年シーズンは大阪桐蔭と仙台育英が2強か?

 秋の大会は来年へのプロローグである。大阪桐蔭は神宮大会連覇を果たし、早くも最初のタイトルを手にした。神宮大会では仙台育英との直接対決があり、互角の熱戦だった。センバツでは、この2強を中心に、神宮準優勝の広陵(広島)や、仙台育英を追い詰めた沖縄尚学。さらに報徳学園(兵庫)や智弁和歌山など、近畿でしのぎを削るライバルたちが、激しい優勝争いを繰り広げそうだ。1月27日のセンバツ選考会が待ち遠しい。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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