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夏の甲子園の中止が正式決定!  3年生はどうなるのか?

森本栄浩毎日放送アナウンサー
夏の甲子園の中止が決まった。甲子園を奪われた3年生はどうなるのか?(筆者撮影)

 「球児の皆さんに、苦渋の決断をお伝えする悲しい日となりました」。日本高野連の八田英二会長(71)は、穏やかに語りかけた。会見の約2時間前、大会中止に関するリリースが報道各社にあり、テレビも速報を打った。「やはり」と言うべきか。すでに先週、一部スポーツ紙とそれに追随する報道もあり、関係者も覚悟はできていただろうが、すぐに現実を受け止めきれない人も多いと察する。特に、この夏に懸けてきた3年生には、同情を禁じ得ない

軟式大会も中止に

 この日に発表、判明したのは、以下のとおり。

・甲子園の夏の選手権の中止(79年ぶり史上3回目で戦後初。大会が開かれないのは75年ぶり)

・全国49の地方大会(甲子園の予選)の中止

・102回大会は、そのままカウント(期日が決まっていて、運営委員会もあったため。したがって来年は103回大会となる)

・8月26日から開催予定の高校軟式選手権の中止(史上初)

・選手権の地方大会に代わる公式戦は、各都道府県高野連の独自判断に委ねるが、財政支援は検討

もう少し待てなかったか

 全国的にはまだ、多くの都道府県で学校が再開されていない。指導者は選手たちと、実際に顔を合わせることもできない状況で、この非情な決定をどう告げるのだろうか。せめて、学校が再開するまで待てなかったのかという気がしてならない。確かにセンバツ中止決定は、開幕8日前で、変に期待を持たせたという感はぬぐえない。しかし、夏の甲子園の開幕は8月10日である。しかも、中止発表の翌日には大阪、兵庫、京都の緊急事態宣言が解除される見通しになっている。学校再開が全国に広がっているであろう、6月10日(甲子園開幕2か月前)ぐらいを期限にしてもよかったのでは、と思う。

感染リスクだけでない中止理由

 中止の理由は、「選手の健康を守る」という大義だけではない。なぜなら、2か月以上も先のコロナの状況は、誰にもわからないからだ。筆者が15日の記事で指摘したように、2か月にわたる49地方大会の足並みを揃えられないというのが、最も大きい。特に加盟校が多い大都市部で、学校再開が遅れている。試合数が多くなる上、練習不足によるけがや故障の恐れもある。準備期間が短すぎるのだ。またリリース上では、休校に伴う夏休み短縮が、地方大会の開催に支障をきたすことも理由に挙げられた。仮に、49代表を揃えられても、関西までの長時間の移動や宿泊を、団体で行うことによる感染リスクは避けられない。これらの要因を総合的に判断して、早期の中止決定に至ったと考えられる。

各都道府県で独自の公式戦を

 3年生のための公式戦開催を模索する動きもあるようだ。全国的には、コロナの感染状況がまちまちで、八田会長は、「都道府県高野連の自主的な判断に任せる」としたが、ここでも、多くの球場を借りることになる大都市部には影響が大きい。前向きに検討している都道府県高野連が半数以上に上るようだが、個人的には、開催できない県があることは望ましくないと考える。無観客による開催が前提となるため、運営の財源となる入場料収入は断たれるが、会見で夏の選手権を主催する日本高野連と朝日新聞社が、「財政面での支援を検討している」と話した。これは好材料だ。時間的な制約はないのだから、真剣勝負をやれる環境を整えてほしい。また、選手権ではないので、優勝校を決める必要もない。せめて1試合だけでも、3年間の活動の成果を発揮させてやってほしいと願う。

隠れた逸材は埋没か?

 それにしても気になるのは、3年生の行く末だ。戦後初めて、春夏の甲子園を奪われることになる彼らの将来はどうなるのか?まず、プロをめざす選手たちは、スカウトがプレーを目にする機会がなくなったと言っていい。スカウトが自信を持って推せるのは、昨年の春夏甲子園4強に貢献した明石商(兵庫)のエース・中森俊介や主将の来田涼斗。秋の神宮大会で優勝した中京大中京(愛知)のエース・高橋宏斗に、2年生で日本代表になった東海大相模(神奈川)の鵜沼魁斗ら、ほんの一部の選手に限られる。いくら彼らに実力、実績があると言っても、昨秋以降、プレーはできていないわけだから、どれだけ成長しているかわからない。例年なら、夏の甲子園と、それにつながる地方大会で大ブレークしてプロへの道が開ける選手は、10人以上いる。そうした隠れた逸材は、埋もれたままになる可能性が高い

大学進学にも大きな影響

 大学進学をめざす選手にとっても、甲子園中止は大きな痛手になる。1年の夏から甲子園で実績を積んでいる選手は数人で、新チームから全国大会と言えば秋の神宮大会しかない。「全国大会8強以上」などの基準を設けている大学野球部もあり、今年に限っては、そうした慣例を排除しなければ、いい選手は獲得できない。例年なら、夏の大会前に進学先の決まる選手もいると聞くが、それはごく限られた高校の力のある選手だけで、指導者間の信頼関係によるところが大きい。実績なしで進学を希望する選手は、志望する大学の門が、例年よりも狭いものと覚悟して、しっかりと学力もつけてほしい

3年生には皆で難局を乗り越えて

 社会人野球を希望する選手も同じだ。戦後最悪と言われる不況で、採用を控える企業が増えるだろう。しかし、ひとつだけ救いがある。それは、今年の3年生が皆、同じ状況下に置かれていることである。人生にはさまざまな困難がつきまとう。若い彼ら、彼女らには酷なことかもしれないが、高3という人生の節目で遭遇したこの経験は必ず生きるはずだ。まずはコロナ禍というこの難局を、皆で乗り越えようではないか。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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