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大阪桐蔭の独走優勝を左右した試合とは?  夏の甲子園総括

森本栄浩毎日放送アナウンサー
金足農の健闘で盛り上がった甲子園。最後は大阪桐蔭の強さが際立っていた(筆者撮影)

 「やはり」と言うべきか。しばらく涼しい日が続いていたが、決勝当日は猛暑がぶり返し、疲れがピークに達した「北国のエース」に容赦なく襲いかかる。金足農(秋田)の吉田輝星(3年)が5回、大阪桐蔭(北大阪)打線に連打を浴び、ついに力尽きた。秋田大会から一度もマウンドを譲ることのなかった真のエースがライトの守備位置に走ると、満員のスタンドは嵐のような拍手に包まれた。今大会のフィナーレが、この瞬間だった。

どのチームも桐蔭にぶつかって散った

 大阪桐蔭の主将・中川卓也(3年)が、「どの試合も大きな壁」と話すように、対戦相手は「負けてもともと」のような、楽な気持ちで向かってくる。初出場の沖学園(南福岡)は2回戦で4-10と大差をつけられたが、鬼塚佳幸監督(37)が、「(桐蔭は)負ける気はしていないと思ったので、どんどん仕掛けていった」と話し、中川が、「立ち上がりは相手の方が落ち着いていた」と振り返ったのとは対照的だった。3回戦で敗れた高岡商(富山)の左腕・山田龍聖(3年)は、「投げていて楽しかった」と笑顔を見せ、敗者と思えないようなすがすがしさだった。どのチームも大阪桐蔭に思い切ってぶつかって、すがすがしく散っていった。今大会は、その表現が一番しっくりくる。それほど、大阪桐蔭の強さは群を抜いていた。

金足農にふるさと実感

 今大会前、筆者は「ふるさとを実感できるチームに巡り合いたい」と書いた(6月19日付)。金足農こそ、まさにふるさとの匂いがするチームだった。「地方大会から一人で投げ続けるエースを全員が盛り立てる」。昭和の甲子園でよく見かけたチームだ。秋田勢103年ぶりの決勝進出に沸く地元の盛り上がりは、強豪私学全盛の昨今の甲子園では貴重なシーンにすら映る。今大会の主役は大阪桐蔭だったが、金足農の頑張りがなければ、ここまで大会が盛り上がったかどうか。地方大会から9人だけで戦い続けた姿は賞賛に値するが、100回の節目が、次の100年にメッセージを贈るとするなら、時代に逆行している部分もあるので、少し触れておきたい。

選手の負担減は急務

 高野連は20年ほど前から「複数投手制」を推奨している。投手の負担軽減、故障防止が目的で、理にかなっている。しかし、少子化で都市部の高校ですら部員を確保するのが難しくなっているのが実情で、有力投手を揃えられる強豪私学がますます有利になっている。したがって、今大会の金足農は稀有な例と言っていい。しかし、控え選手がまったく試合に出場していないのも奇異に思える。地方大会ではベンチ入り選手20人が甲子園では18人に減る。控え選手が多いと負担はそれだけ減るわけで、甲子園でも20人にしてほしいという指導者は少なくない。しかし、控え選手が出場しなければベンチ入りを増やす意味がないわけで、運営側を動かすためにも、指導者には控え選手を多く起用する発想を持ってもらいたいものだ。今回の金足農は吉田というスーパーエースがいて、彼の力で決勝まで勝ち進んだと言っても過言ではない。しかし、彼に次ぐ投手がいたら、当然、負担が減るわけで、決勝でもっといい投球ができていたかもしれない。

タイブレークはまだまだこれから

 今センバツから導入された「タイブレーク」は、初めて2試合で適用された。2試合目の星稜(石川)-済美(愛媛)戦は乱打戦の死闘になり、甲子園の高校野球史上初の逆転サヨナラ満塁本塁打で済美が勝った。満塁本塁打と言っても、2走者はあらかじめ設定されたもので、投手の自責ではない。この本塁打にケチをつけるつもりはないが、素直に「史上初」という事実をことさら強調する気にはなれない。2試合とも、両校が死力を尽くして結末が劇的だったため、ファンの間でタイブレークについての違和感はそれほどでもなかったとは察する。しかしこの制度が、完全な投手戦をあっという間に損なってしまう可能性をはらんでいることを決して忘れてはいけない。

近江が今大会を動かした

 今大会、大阪桐蔭の強さだけが際立ったが、このチームを脅かすライバルがまったく存在しなかったのか?そうは思わない。今大会の優勝争いを大きく左右する試合があった。それは、智弁和歌山と近江(滋賀)の1回戦だ。昨春から智弁和歌山と大阪桐蔭は、甲子園での2試合を含め5度も激突し、すべて桐蔭が勝っている。しかし、いずれの試合も僅差で、実力差は紙一重だ。近江との対戦が決まった時、智弁の高嶋仁監督(72)は、「やりにくい」とこぼしたが、これは社交辞令ではない。タイプの違う投手を複数揃え、攻撃力もある近江の実力を、同じ近畿で戦っている名将が知らないわけがない。試合は智弁が先制したが、主砲・北村恵吾(3年)の同点アーチで近江が勢いづき逆転。4投手のリレーで逃げ切られた。こうして、実力実績で大阪桐蔭に次ぐ力を持つチームが、早々に消えた。つけ加えるなら、智弁戦で実力を証明した近江は、準々決勝で金足農の2ランスクイズに屈し大阪桐蔭との対戦こそ実現しなかったが、チーム状況や勢いを考え合わせると、決勝で王者を苦しめる可能性を最も秘めたチームであったと思う。左腕・林優樹(2年)のチェンジアップは抜群で、桐蔭といえどもコースに投げられたら連打は難しい。有馬諒との2年生バッテリーは、若さが命取りになって金足農戦で勝ちを逃したが、彼らにはまだチャンスがある。来春センバツでの捲土重来に期待している。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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