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来春センバツ21世紀枠 地区候補決定! 

森本栄浩毎日放送アナウンサー
今春、松山東(愛媛)は82年ぶりの甲子園でセンバツ初勝利。笑顔で勝利の報告に

21世紀枠は「センバツらしさ」を体現する特別枠として創設され、すっかり定着した。2001年の導入以降、数々の話題を提供してきたが、今回の9候補校も古豪あり、進学校あり、離島チームありと多彩で、どこが大舞台の切符を手にするか今から楽しみだ。高野連からリリースされた資料をもとに、9校を紹介し、各地区の候補一本化に至る過程にも触れたい。

札幌清田(北海道)

国公立大に多くの合格者を出す進学校ながら、多くの体育クラブが全国大会に出場している。野球部は昭和50年創部と比較的新しく、甲子園出場はない。昨秋の全道大会では、公立(札幌市立)で唯一4強に勝ち残り、準決勝で北海道栄に2-7で敗退した。エース實松雄貴(2年)は、投手経験が浅いにもかかわらず、秋の公式戦は7試合全てで完投。野球部のモットーは、「笑顔で全力疾走」で、はつらつとしたプレーが印象的な好チームである。選出過程であるが、強豪ひしめく札幌地区での好成績と学業も含めた模範的行動が決め手となった。

釜石(東北=岩手)

岩手沿岸部の進学拠点校として、理数科を併設するスーパーサイエンススクール。野球部は釜石南時代に1度センバツ出場(平成8年)し、7年前に釜石北と合併して現校名となった。秋は県大会で準優勝し、東北大会では初戦となった2回戦で東北(宮城)に2-3で惜敗。大震災の被災地にある同校の生徒は、およそ3分の1が被災者であり、仮説住宅から通う生徒も少なくない。困難な条件の下、文武両道を実践する野球部の活躍は地元の人たちに元気を与えている。東北は、東北大会に進んだ秋田と震災からの復興に努める石巻(宮城)が二次選考に残り、被災地域の復興の希望として釜石に決定した。

上尾(関東・東京=埼玉)

多くの有名プロ選手が輩出し甲子園に春夏計7回出場したかつての強豪も、昭和59年夏以来、大舞台から遠ざかっている。近年は進学実績も良好で、部活動が非常に盛ん。秋は埼玉の準々決勝で花咲徳栄に敗退し、関東大会出場を逃した。プロアマ問わず指導者として活躍している野球部のOBが多く、地元での人気は健在だ。関東は同校と日立一(茨城)の2校に絞られ、最終的には近年の安定した戦績と、商業科に在籍する部員の多くが積極的に簿記1級や情報処理1級の資格試験に挑戦するなど、野球以外での意欲的な取り組みも評価された。

宇治山田(東海=三重)

100年前の夏の第1回大会に出場し、それが唯一のひのき舞台となっている。伝統校らしく、多くの生徒が国公立や難関私大に進む。このような学校にありがちな入学難や、限られた練習時間とグラウンドで、創意工夫を凝らした練習をしている。秋は、昨年夏の全国準優勝校・三重に準々決勝で4-5と肉薄した。地元ファンや卒業生は101年ぶりの甲子園を待ち望んでいる。東海は、同校が満場一致で推薦を受けた。文武両道の徹底や地域からの信頼、強豪と互角に渡り合った実績が高く評価されたようである。

長野(北信越=長野)

春夏2度ずつの甲子園出場を誇る名門進学校。東大の現役投手として六大学リーグで投げている卒業生もいる。県内での戦績もすばらしく、8年前には夏の甲子園まであと一歩に迫った。今秋は、長野大会の準決勝、3位決定戦で敗れて北信越大会出場はならなかったが、部員23人の小所帯で奮闘した。同校の最終甲子園出場は昭和60年春で、久々の大舞台と甲子園初勝利を願う地元ファンの期待は大きい。北信越は、選出に当たって各理事長が意識統一し、学業と部活の両立、練習での創意工夫、上位進出の頻度、地域からの期待で同校が全会一致を見た。

長田(近畿=兵庫)

大正13年創立の同校は、現在、兵庫の県立校としてはトップの進学成績を誇る。兵庫の伝統校の多くが甲子園を経験する中、長田は甲子園出場機会には恵まれていない。この秋は、速球派のエース・園田涼輔(2年)の力投で8強に進出し、準々決勝では強豪の神港学園をあと一歩(2-3)まで追い詰めた。夏の県大会でも平成17年から3度の8強入りと安定した成績を残している。近畿は長浜(滋賀)と長田に絞られ、阪神淡路大震災の被災地にある伝統校で、投手を中心にした粘り強い試合運びが高校生らしいとの評価を得た。

出雲(中国=島根)

創立95年を誇る伝統校で、かつて21世紀枠で出場した松江北と並ぶ県下有数の進学校。近年、野球部の成績が良く、県での秋、春の優勝はあるが、甲子園出場はない。島根3位で出場した中国大会では、広島1位の広島国際学院に9回2死から逆転勝ちするなど粘り強い。生徒は文武両道を実践し、模範的高校生として地元から期待されている。中国はプレゼンテーションの段階で大きな差異がなく、同地区の従来に倣って競技力を最終判断材料とした。その結果、中国大会での8強入りが決め手となって出雲に決まったが、全国最多となる島根4校目の21世紀枠校なるか、注目したい。

小豆島(四国=香川)

神宮大会優勝の高松商を香川大会決勝で破った過疎の島の希望の星だ。部員17人はもちろん全員が島の出身で、2年後には土庄との統合が決まっている。部員の多くが学級委員や生徒会役員をするなど学校生活でも中心的役割を担う。島民がバス10台で応援に駆けつけた徳島での四国大会では、初戦(準々決勝)で土佐(高知)に1点差の惜敗。それでも同校の活躍は、島民に勇気と元気をもたらしている。四国4校で選出作業に入り、残ったのは生光学園(徳島)と小豆島。生光があと一歩で甲子園を逃している点も評価を集めたが、やはり部員不足や練習環境などの大きなハンディを克服し、部員と指導者が一体となった取り組みが上回る結果となった。

八重山(九州=沖縄)

石垣島唯一の普通科高校で、文武両道がモットー。県大会参加には多額の派遣費、滞在費がかかり、部員は保護者の負担を少しでも減らそうと年末年始にアルバイトもした。その甲斐あって、秋の沖縄大会では興南を破って優勝。九州大会では、鹿児島城西に快勝したが、一般選出ライン突破が懸かった準々決勝で、優勝した秀岳館(熊本)に1-8と完敗を喫した。激戦が予想された九州地区の選考は、予想通り、小倉(福岡)、臼杵(大分)と八重山に絞られた。まず小倉が、困難条件克服でわずかに見劣るとされ、グラウンドをはじめとした困難さや甲子園未経験(臼杵は2回)などが考慮されて八重山に決まった。

3校は特徴をバランスよく

これまでから述べているように、21世紀枠はこの枠だけの14~5人からなる特別選考委員によって決定される。地区大会に出場していない候補もあるため戦力の裏付けは乏しく、選考会当日のプレゼンテーションで全てが決まると言ってもいい。時系列で言えば、一般枠よりも先に終了しているため、21世紀枠が一般枠選考に影響を及ぼしているのでは、と懐疑的になることもあった。今春の選考がこれに当たるので、1月23日の私の記事を参照いただきたい。また今度も、一般選考で2校選出が濃厚な兵庫から21世紀枠も含め3校選出の可能性がある。一般枠での3校選出はルールで認められていないが、21世紀枠と抱き合わせの同一県3校出場は認められている。先に決まる21世紀枠の結果が注目される。

豊橋工は森投手の好投で、大会の準優勝校 東海大四(北海道)を最後まで苦しめた。
豊橋工は森投手の好投で、大会の準優勝校 東海大四(北海道)を最後まで苦しめた。

9校を東(北海道、東北、関東、東海、北信越)と西(近畿以西)に分け、投票によってそれぞれ1校を選ぶ。残りの1校は選に漏れた7校をシャッフルして決める。これまでの傾向を見ると、学校の特徴が同じような3校(例えば進学校ばかり)が揃って選ばれたことはない。前回は豊橋工(愛知)が、「工業高校の特性を生かし、練習道具を作ったり近隣校のバックネットを修理した」という話題が選考委員の心を動かした。伝統進学校の松山東(愛媛)と桐蔭(和歌山)が、極めてよく似たタイプだったのとは対照的だ。前回の場合の3校目は桐蔭だったが、3校目を話し合いで決めるのは、このような調整の余地を残したいという意味合いもあるのだろう。

出場校は全力を尽くして

今センバツの21世紀枠校では、松山東が二松学舎大付(東京)を破る殊勲で、詰め掛けた満員の観衆を熱狂させた。

松山東の勝利に詰め掛けたファンは大歓声で迎える。応援が選手たちを後押しした
松山東の勝利に詰め掛けたファンは大歓声で迎える。応援が選手たちを後押しした

初戦で敗れたとは言え、桐蔭も最後まで食い下がったし、豊橋工の森奎真投手(3年)は、13奪三振と奮闘した。この枠で出場するということは、単に大舞台に招待されるということにとどまらない。逆に、大きな責任を負っているとも言える。

桐蔭も健闘したが今治西(愛媛)に打ち負けた。同校は毎年、しっかりしたチームを作る
桐蔭も健闘したが今治西(愛媛)に打ち負けた。同校は毎年、しっかりしたチームを作る

夏に比べて出場校が少ない中、3校分の「実力枠」を削ってチャンスを与えられるわけだから、勝利をめざして全力を尽くすのは当たり前。その意味では、今春の3校それぞれが持てる力を出し切ったのはよかった。さらに個人的には、チームが力をつけてその後「実力で」甲子園に戻ってくるのが、この枠の最大の意義であると思っている。21世紀枠で初出場後、甲子園にたびたび出場している山形中央や、昨夏の甲子園で活躍した利府(宮城)などは、常に甲子園を狙えるほど県での地位が向上した。

21世紀枠の理想は彦根東

21世紀枠で甲子園を経験したあとに力をつけたチームはまだある。

一昨年の夏に滋賀大会を勝ち抜いた彦根東は、文武両道として全国から注目されている
一昨年の夏に滋賀大会を勝ち抜いた彦根東は、文武両道として全国から注目されている

その中で、6年前のセンバツに出場し、4年後(2013年)に夏の選手権出場を果たした彦根東(滋賀)が、21世紀枠の理想型と考える。同校は藩校由来の進学名門でもあり、21世紀選出以前からも県内では常に上位争いをしていた。当時、新谷直弘主将が、「多くの先輩方ががんばったおかげで僕たちが出られるんだと思います」と話していたのを思い出す。直近の甲子園では、春夏ともに勝利には届いていないが、今春は近畿大会で大阪桐蔭を破る金星も挙げた。部員たちは早朝に登校し、その日の予習をみっちりしてから授業に臨むという。県内での戦いぶりは、むしろ6年前のセンバツ出場時を上回るほどで、入学難や狭いグラウンド、短い練習時間などのハンディは全く感じさせない。これまでの21世紀枠校にはそれぞれに事情があって、彦根東をここで理想型と決めつけるのは適切ではないかもしれないが、少なくとも21世紀枠での出場が同校に力を与えたことだけは間違いないと思う。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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