Yahoo!ニュース

巨大ゴミ捨て場で暮らすシングルマザーと娘に焦点を当てて。主演女優は同じ境遇の現地少女を抜擢

水上賢治映画ライター
「マリア 怒りの娘」のローラ・バウマイスター監督  筆者撮影

 カナダのトロント国際映画祭を皮切りに、サン・セバスティアン国際映画祭、釜山国際映画祭など、世界各国の映画祭を巡り、大きな反響を呼んだ映画「マリア 怒りの娘」は、中米のニカラグアから届いた一作。

 「ニカラグアの映画?」と聞いてピンとくる人はほとんどいないことだろう。

 それもそのはず、ニカラグアでこれまで製作された長編映画はわずか数本しかない。

 しかも本作は、同国において、ニカラグア出身の女性監督による初めての長編映画になる。

 映画産業がほぼないといえる逆境をはねのけ、同国でいつ以来になるか定かではない長編映画を作り上げたのは、ローラ・バウマイスター監督。

 ニカラグアに実際にある巨大なゴミ集積場を舞台に、ゴミ収集を糧にして生きる母と娘の姿をリアルに描出した物語は、自国の社会の闇に斬り込むことにとどまらない。

 児童労働、環境破壊、労働者搾取、貧困といったいま世界にある危機的な問題に言及する鮮烈なデビュー作となった。

 社会の底辺で生きる母と娘から何を映し出そうとしたのか?

 ローラ・バウマイスター監督に訊く。全六回。

「マリア 怒りの娘」のローラ・バウマイスター監督  筆者撮影
「マリア 怒りの娘」のローラ・バウマイスター監督  筆者撮影

児童労働の問題に言及するととともに、

あのような子どもたちが実際にいることを知ってほしかった

 前回(第四回はこちら)、作品内で描かれている暴動の内幕について明かしてくれたローラ・バウマイスター監督。

 作品内でもうひとつ気になったのは、母のリリベスが娘のマリアをしばらく預かってもらう場所のこと。

 小さなリサイクル工場を経営する夫妻にマリアは預けられる。

 このリサイクル施設では、身寄りのない子どもたちがいて、彼らは仕事をしていてマリアもいやいやながら一緒に働くことになる。

 このような施設も実際にあるのだろうか?

「あのようなリサイクル工場は、リアルにはありません。

 ただ、あのように警察の目から逃れ、身寄りのない子どもたちを集めて、なにかしらの仕事をさせている場所というのはあります。

 あの工場で働いている子どもたちのように、親がどこかにいってしまって頼れる親族もおらず、あのような場所で働きながら生きている子どもたちは残念ながらニカラグアには多くいます。

 親に捨てられて、自らの力で生きなければならない子どもたちがいっぱいいる。

 児童労働の問題に言及するととともに、あのような子どもたちが実際にいることを知ってほしくて、あのようなシチュエーションの場所を設定しました。

 なかなかその存在が知られることのない、親のいない子どもたちのリアルを伝えたいと思いました」

「マリア 怒りの娘」より
「マリア 怒りの娘」より

主演のマリア役の女の子はエキストラだった?

 作品で、なにより強い印象を残すのは、マリアを演じたアラ・アレハンドラ・メダルにほかならない。

 訊くと、当初、彼女はエキストラの一人として参加する予定だったという。

「実は当初、別の女の子をマリア役に考えていました。

 ところがコロナ禍の影響でプロジェクトが遅れてしまい、当初の予定よりも撮影が後ろに倒れてしまいした。

 このぐらいの年ごろの子どもの成長というのは早くて。

 その間に、当初予定していた女の子が大きく成長してしまって、マリア役にはちょっと似合わなくなってしまったんです。

 そこで、わたしたちは再びマリア役を探すことになりました。

 その地域に住む200人ぐらいの子どもたちを対象にキャスト候補をリストアップしていたのですが、アラはその一人で。

 当初はゴミ集積場で伝道師が話すシーンがあるのですが、その話に耳を傾ける子どもたちの一人としてオーディションに参加していました。

 そのオーディションのとき、彼女の存在がひじょうにわたしの印象に残りました。

 わたしだけではなく撮影監督のカメラマンも『監督が求めている少女は彼女ではないか』とアラを推しました。

 そこで、急遽、母親役の女優と数シーン演じてもらったのですが、これがほんとうにすばらしかった。

 また、アラは育った環境もマリアとほぼ同じでした。そのとき、アラこそがマリアのキャラクターに真実味を与えてくれると確信しました。

 演技指導とトレーニングを重ねて、彼女は見事にマリアになってくれました。

 彼女はすばらしかったです」

(※第六回に続く)

【「マリア 怒りの娘」ローラ・バウマイスター監督インタビュー第一回】

【「マリア 怒りの娘」ローラ・バウマイスター監督インタビュー第二回】

【「マリア 怒りの娘」ローラ・バウマイスター監督インタビュー第三回】

【「マリア 怒りの娘」ローラ・バウマイスター監督インタビュー第四回】

「マリア 怒りの娘」ポスタービジュアル
「マリア 怒りの娘」ポスタービジュアル

「マリア 怒りの娘」

監督︓ローラ・バウマイスター

出演︓アラ・アレハンドラ・メダル、バージニア・セビリア、

カルロス・グティエレス、ノエ・エルナンデス、ダイアナ・セダノ

全国順次公開中

筆者撮影以外の写真はすべて(C)Felipa S.A. - Mart Films S.A. de C.V. - Halal Scripted B.V. -Heimatfilm GmbH + CO KG - Promenades Films SARL - Dag Hoel Filmprooduksjonas - Cardon Pictures LLC - Nephilim Producciones S.L. - 2022

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

水上賢治の最近の記事