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許されない性的嗜好を抱えたピエロの男性を演じて。「存在を全否定されるような形にはしたくなった」

水上賢治映画ライター
「雨降って、ジ・エンド。」より

 「東京リベンジャーズ」シリーズをはじめ、数々の人気映像作品の脚本を手掛ける髙橋泉と、見たら二度と忘れない独自の存在感を発揮する気鋭の俳優で映画監督の廣末哲万による映像ユニット<群青いろ>。現在、彼らにとって実に17年ぶりの劇場公開作となる「雨降って、ジ・エンド」と、現段階に<群青いろ>最新作「彼女はなぜ、猿を逃したか? 」が公開中だ。

 2001年のユニット結成から、自主制作・自主上映を基本スタンスとしてきた彼らの作品は、いわゆる「社会派ドラマ」と言われることが多い。それは必ずしも間違いではない。

 ただ、社会に問題提起したり、その事柄を糾弾するといった「怒り」を物語の主体には置かない。むしろ主体に置くのは、この社会の中で報われないでいる人間の「哀しさ」。時代や社会の変貌や問題点に鋭い眼差しを注ぎながら、人知れず生きづらさを抱えた人間たちの心に寄り添おうとする。常にマイノリティのサイドに立つ。

 17年ぶりの劇場公開作「雨降って、ジ・エンド」も、またそうだ。脚光を浴びることでままならない現実を変えたいと切望する日和と、ピエロの姿をして幸せのおすそ分けと50円玉のついた風船を配る雨森を通して、生きづらさを抱えた人間の孤独と哀しみが浮かびあがる。

 そういったことを考え合わせると、彼らの作品というのは、多様性という言葉だけが流通して、一向に実態として浸透しているとは思えないいまの日本にとってひじょうに大切なことを届けてくれている気がする。

 独自の道を歩み続ける<群青いろ>は、時代の社会の何を見て、何を描き、その先に何を見つめるのか?そして、<群青いろ>の二人はどこへ向かうのか?

 <群青いろ>のインタビュー集。二人目は廣末哲万に訊く。全四回

<群青いろ>の廣末哲万  筆者撮影
<群青いろ>の廣末哲万  筆者撮影

「雨降って、ジ・エンド。」のはじまりについて

 「雨降って、ジ・エンド。」において、雨森を演じた廣末。まず、この企画の始動をこう語る。

「三か月に一度ぐらいのペースで髙橋(泉)さんと直接会って、お互いの近況報告のようなことをしているんです。

 その中で、いまどういうことを考えているのか、どういう構想があるのかといったことをお互いにざっくばらんに話し合います。

 そういった対話の中から『雨降って、ジ・エンド。』の構想も出てきて、髙橋さんからおおよそのストーリーの話が出てきました。

 その時点で、こういったケースはどんなことが起きうるのか、こういう人物はどのような状態に陥るのかといった意見をお互いに出し合う。

 その次に会ったときには、脚本ができていた感じでした」

自分の性的嗜好をぐっと我慢して生きていかないというのは……

 では、性的嗜好が題材としてあることについてはどう考えただろうか?

「いや、正直なことを言うと、想像が及ばなかったというか。演じることになる雨森の性的嗜好のことを、自分はわからない。

 ただ、雨森のような性的嗜好をもってしまったら、ひじょうに生きるのがキツいだろうなとは思いました。

 いけないことかもしれないんですけど、自分が演じることもあって、雨森のサイドに立って考えてしまったんです。理解はできないのだけれど、自分の性的嗜好をぐっと我慢して生きていかないというのは、かなり苦しみを伴うよなと」

「雨降って、ジ・エンド。」より
「雨降って、ジ・エンド。」より

理解できるかはともかく存在を全否定されるような形にはしたくなった

 脚本を最初に読んだときも、考えたことは雨森の性的嗜好についてだったという。

「やはり自分が演じることもあって、まずは雨森という人物に目がいきました。

 性的嗜好をひとつのテーマにするということはあらかじめわかっていたことではありました。けど、にしても彼の性的嗜好はなかなか理解されるものではない。これはなにも僕だけじゃなくて、おそらく多くの人が彼の性嗜好については拒絶反応を示すと思うんです。

 ただ、演じるからには雨森の存在を『信じられない。はい終わり』と断絶するのではなくて、きちんと見てくれた人がつながれるようにしたかった。

 もしかしたら自分のそばにいるかもしれないと身近に感じられる存在にしたかったし、理解できるかはともかく存在を全否定されるような形にはしたくなった。

 どうすればそのような人物に感じてもらえるようになるのか、雨森をどう演じるのが正解なのか、いきなり大きな難題を前にしていろいろと悩みました。

 ただ、はじめは複雑な心境でしたけど、よくよく考えると、おそらく誰もが表には決して出せない本性みたいなものがある。そことつなげて考えていけば、なんとか突破口は見つかるのかなと思いました」

ストーリーの印象は?

 ストーリー自体にはどんな感想を抱いただろうか?

「いまお話したように、雨森という役に関してはあれこれ思い悩んでいました。

 ただ、ストーリーといいますか脚本についていうと、文字面じゃなくて『早く映像で見てみたい』と思いました。

 毎回そうなんですけど、髙橋さんの脚本は僕の中では、すぐにイメージが膨らんで湧き出てくるというか。

 『この場面、実際に撮ったら、どんな風になるんだろ』と想像を掻き立てられるところがあって、ワクワクするんですよね。

 今回の『雨降って、ジ・エンド』もそうで、早く撮影してちゃんと映像で見たいと思いました」

(※第二回に続く)

「雨降って、ジ・エンド。」ポスタービジュアル
「雨降って、ジ・エンド。」ポスタービジュアル

「雨降って、ジ・エンド。」

監督・脚本:髙橋泉

出演:古川琴音、廣末哲万、大下美歩、新恵みどり、若林拓也

公式HP :amefuttetheend.com

全国順次公開中

筆者撮影以外の写真はすべて提供:群青いろ

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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