失踪した彼の消息を追うヒロインを演じて。マカオ出身のアデラ・ソー、映画流れ者との出会いはここ日本で

映画ライター

2/17(土) 11:30

　世界各地をさすらいながら映画を作り続け、自らを「シネマドリフター（映画流れ者）」と称するリム・カーワイ監督。

　現在、「ディス・マジック・モーメント」も好評公開中の彼から、早くも届いた一作「すべて、至るところにある」は、2018年の「どこでもない、ここしかない」、2019年の「いつか、どこかで」に続くバルカン半島を舞台にした三部作の完結編だ。

　かつて「ヨーロッパの火薬庫」と呼ばれ、悲しみの歴史と戦争の爪痕がいまも残る地を舞台に、今回は、姿を消したひとりの映画監督と彼の消息を追う女性の過去と現在、虚構と現実がないまぜになった物語が展開。そこからコロナ禍と新たな戦争の時代に直面したわたしたちの心に生じた虚無感、埋められない孤独、それでもあるかもしれない小さな希望が浮かび上がる。

　リム監督にとって集大成的な意味合いのある一作で、ヒロインのエヴァを演じたのはマカオと香港でモデルおよび女優として活躍するアデラ・ソー。

　バルカン半島三部作の第二作となる「いつか、どこかで」でも主演を務めた彼女に訊く。全四回。

リム・カーワイ監督との出会い

　今回の「すべて、至るところにある」の話に入る前に、彼女には三部作の第二作「いつか、どこかで」について訊きたい。

　というのも「いつか、どこかで」は彼女にとって初めて出演した長編映画で、主演も初めてだった。

　リム・カーワイ監督作品に出演することになったきっかけについて彼女はこう振り返る。

「リム・カーワイ監督と出会ったのはたまたまといいますか。

　わたしはマカオ理工大学を卒業した後、日本に留学してデザインと日本語を学んでいて、そのころ、モデルの活動も始めました。

　それで留学していたある日のこと、映画を見にいくことにしました。その映画というのが、リム監督の『Fly Me To Minami 恋するミナミ』でした。

　なぜ、この作品をみようと思ったかというと、理由がちゃんとありまして。留学して学んでいた大学の教授がリム監督と知り合いだったんです。

　その先生から『映画を作った知り合いがいるんだけど』という話をきき、薦められて見に行くことにしたんです。

　そこで、リム監督に初めてお会いしました。2014年のことだったと思います」

マカオのワークショップでの再会

　ただ、そこから連絡を取り合うようなことはなかったという。

「そうですね。

　特に連絡を取り合ったりということはなくて、わたしは留学を終えてマカオに戻りました。

　で、確か2017年ぐらいのことだったと思うんですけど、リム監督がマカオに招かれて俳優のワークショップを開くことになったんです。

　それで、リム監督からお誘いの連絡が来たんです。『マカオでワークショップを開くことになって、女優志望の人たちの参加を募集している。興味はないですか？』といった感じで。

　わたしもちょうど本格的に女優としてのお仕事をしていきたいと考えていたころだったので、ぜひということでワークショップに参加しました。

　そこで数年ぶりにリム監督と再会することになりました」

知人と二人でヨーロッパを１カ月ぐらいかけてめぐったことがありました

　その流れで「いつか、どこかで」への出演を切り出されることになる。

　リム・カーワイ監督は、「いつか、どこかで」の主演に彼女を抜擢した理由について「彼女が女優として本格的に活動していきたいことはわかっていた。その意欲を感じとっていたことがひとつ。それから、この作品では、アジア人でまったく行ったことのない、見ず知らずの土地であるバルカン半島にいって、まったく知らない文化に触れて、なにかが自分の中で変わるといったような人物を想定していました。で、アデラ・ソーさんはバックパッカーの経験があったんです。バックパッカーの旅は、単なる観光とは違って、時には歩きっぱなしになったりもする。そういうことがわかっていないとできないところ。映画を撮るスタイルも、バックパッカー同様に行き当たりばったりで即興で撮ることになりますから、余計にバックパッカーのことがわかっていてくれないとできない役だと思いました。で、考えたとき、バックパッカーの経験もある彼女が適役ではないかと思って、声をかけました」と明かしている。

「そうですね。　そこまでハードなバックパッカーというわけではないんですけど（笑）。

　知人と二人でヨーロッパを１カ月ぐらいかけて7カ国ぐらいだったと思いますけど、めぐったことがありました。

　リム監督がそのことを覚えてくれていて、『いつか、どこかで』の出演につながったのなら、バックパッカーをやっておいてよかったです（笑）」

（※第二回に続く）