Yahoo!ニュース

海外監督とのタッグが続く、尚玄。映画流れ者と称す監督と三度目の顔合わせへ

水上賢治映画ライター
「すべて、至るところにある」で主演を務めた尚玄  筆者撮影

 世界各地をさすらいながら映画を作り続け、自らを「シネマドリフター(映画流れ者)」と称するリム・カーワイ監督。

 現在、「ディス・マジック・モーメント」も好評公開中の彼から、早くも届いた一作「すべて、至るところにある」は、2018年の「どこでもない、ここしかない」、2019年の「いつか、どこかで」に続くバルカン半島を舞台にした三部作の完結編。

 かつて「ヨーロッパの火薬庫」と呼ばれ、悲しみの歴史と戦争の爪痕がいまも残る地を舞台に、今回は、姿を消したひとりの映画監督と彼の消息を追う女性の過去と現在、虚構と現実がないまぜになった物語が展開。そこからコロナ禍と新たな戦争の時代に直面したわたしたちの心に生じた虚無感、埋められない孤独、それでもあるかもしれない小さな希望が浮かび上がる。

 リム監督にとって集大成的な意味合いのある一作で、監督自身を投影させた人物ともいえる主人公のひとり、ジェイを演じたのは尚玄。

 いまやリム監督作品には欠かせない俳優であり、近年は海外の監督と積極的にタッグを組んでいる印象のある彼に訊く。全四回。

「すべて、至るところにある」で主演を務めた尚玄  筆者撮影
「すべて、至るところにある」で主演を務めた尚玄  筆者撮影

リム・カーワイ監督との出会い

 作品の話に入る前に、少しリム・カーワイ監督とのことについて訊きたい。

 2020年の「COME & GO カム・アンド・ゴー」、2021年の「あなたの微笑み」に続いてのリム・カーワイ監督作品への出演になるが、彼との出会いをこう振り返る。

「いまから何年か前の東京国際映画祭で、お互い別々の作品で参加していて、人を介してお会いしました。

 そのときになにかあったわけではないのですけれど、直後に『こういう作品の企画があってオーディションがある』という案内をいただきまして。

 それでオーディションにいって、無事出演することになったのが『COME & GO カム・アンド・ゴー』でした。

 それがはじまりで、『あなたの微笑み』、そして今回の『すべて、至るところにある』と、うれしいことにリム監督の作品に出演を重ねることになりました」

シネマドリフターと称するリム・カーワイ監督へのシンパシー

 リム・カーワイ監督にはシンパシーを感じる部分があるという。

「彼は自らを『シネマドリフター(映画流れ者)』と称している。

 どこに属することもなく、見ず知らずの場所にひとり訪れて、そこで現地の人々と出会い、彼らと即興で映画を作る。

 そういった独自の制作スタイルで作品を発表してきた。

 この世界を実際に歩いて、実際に自分の目でみて回るところは自分と重なるところがあります。

 実は、僕自身も長いことバックパッカーをやっているんですね。

 おそらくこれまで60カ国以上、訪ね歩いていると思います。

 家も家具も家電ももたずに、という生活をしていた時期もありました。

 いまはパートナーがいて、子どももいるので、定住生活を送ってますけど(笑)。

 その前までは、すぐに移動できるようなノマド生活を送っていたので、スタイルとしてはすごく似てるものを感じます。

 それから、正直な話、旅をしていると、『こういうところで映画を取ってみたい』と思うことはある。

 僕も旅先で何度も思ったことがあります。『ここでこういう映画を撮れたら最高じゃないか』といったようなことを。

 ただ、実際のところ、事前の準備や資金といったもろもろのことを考えると、ふつうは『無理だよな』で終わる。

 でも、リム・カーワイ監督は違う。実際に実行して映画を撮ってしまう。

 こんな人はなかなかいないと思います。それがリムのすごさ。

 僕はちょっと真似できないなと思っています」

「すべて、至るところにある」より
「すべて、至るところにある」より

リム監督は愛されるキャラクター

 では、リム・カーワイという監督に、どんな印象を抱いただろうか?

「ちょっと言葉は悪いのかもしれないんですけど、人たらしといいますか(苦笑)。

 愛されるキャラクターなんですよね。

 たとえば、今回の『すべて、至るところにある』には、バルカン半島三部作の1作目『どこでもない、ここしかない』の主人公であるトルコ人のフェルディがジェイの友人役として登場する。

 劇中で、彼が『俺の人生にかかわるな、お前の映画にはもう出ない』といったことを言いますけど、あれ、ほんとうに彼が言っていたこと。

 1回目の映画に出たことで、妻とのケンカしてしまったらか、『お前の映画には出ない』といっていたんです。

 でも、実際は、出てくれているじゃないですか。

 それだけではなくて、裏話をすると、フェルディは必要なロケーションやキャストについても手伝ってくれているんです。

 そういう人をひきつける魅力がリム監督にはある。

 そして、彼の人間としての魅力というのは作品の魅力にもなっている。

 彼の創造する物語や作品が映し出すものというのは、たとえば、人の優しさだったり、その人の中にある痛みだったり、ある時に感じる孤独だったり、こちらの心の琴線に触れてくるようなところがある。

 そこにはリム・カーワイ監督の人間性が現れていると、僕は思います」

(※第二回に続く)

「すべて、至るところにある」より
「すべて、至るところにある」より

「すべて、至るところにある」

監督・プロデューサー・脚本・編集:リム・カーワイ

出演:アデラ・ソー、尚玄、イン・ジアンほか

公式サイト:https://balkantrilogy.wixsite.com/etew

1月27日(土)よりイメージフォーラムほか全国順次公開

筆者撮影以外の写真はすべて(C)cinemadrifters

<イメージフォーラムにて公開記念トークイベント決定>

※すべて上映後のトークイベント

1月27日(土)13:30回 リム・カーワイ監督×アデラ・ソー(本作出演)

1月28日(日)13:30回 リム・カーワイ監督×田中泰延(作家)

1月29日(月)13:30回 リム・カーワイ監督×アデラ・ソー(本作出演)

      18:30回 リム・カーワイ監督×舩橋淳(映画監督)

1月30日(火)13:30回 リム・カーワイ監督

1月31日(水)13:30回 リム・カーワイ監督

2月1日(木)18:30回 リム・カーワイ監督×川和田恵真(映画監督)

2月2日(金)13:30回 リム・カーワイ監督

2月3日(土)13:30回 リム・カーワイ監督×星野藍(写真家)

18:30回 リム・カーワイ監督×柘植伊佐夫(人物デザイナー)

2月4日(日)13:30回 リム・カーワイ監督×金平茂紀(ジャーナリスト)

2月5日(月)13:30回 リム・カーワイ監督

2月6日(火)13:30回 リム・カーワイ監督×足立紳(映画監督・脚本家)

2月7日(水)13:30回 リム・カーワイ監督

2月8日(木)13:30回 リム・カーワイ監督

2月17日(土) 尚玄(本作出演)

※2月17日の上映時間は劇場HPにて確認を。

※ゲスト、イベント内容は予告なく変更となる場合あり

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

水上賢治の最近の記事