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どんな役も怯むことなく挑む女優、和田光沙。新たに演じたのは、原始人のような自給自足の女性?

水上賢治映画ライター
「映画(窒息)」で主演を務めた和田光沙    筆者撮影

 異例のロングランヒットとなった「岬の兄妹」の自閉症のヒロイン、真理子をはじめ、素人目で見てもそう容易くない、ある意味、賛否を呼ぶような役に、怯むことなく果敢に挑んでいる印象のある女優、和田光沙。

 新たな主演作となる長尾元監督の「映画(窒息)」で臨んだ役もまたチャレンジング。なんと原始人のような恰好をして、人気のない山奥で、自給自足をしながら生きる女性を演じている。

 おおよそ見本のないような特異なヒロインなのだが、和田はここでも一切セリフがない中、表情やしぐさを駆使して、この女性を確かにそこに存在する人物へとして輝かせる。

 24歳で運送業のドライバーから俳優業へと転身し、独自の役者道を歩む和田光沙に訊く。全五回。

「映画(窒息)」で主演を務めた和田光沙    筆者撮影
「映画(窒息)」で主演を務めた和田光沙    筆者撮影

長尾監督とはおそらくどこかですれ違っていたはず??

 まずは出演の経緯から。訊くと、長尾監督からのラブコールを受けたという。

「ラブコールかどうかは長尾監督本人に聞いてみないとわからないんですけど(笑)。

 あるとき、ご連絡をいただいて『こういう企画があるのでお願いできませんか』と。『岬の兄妹』などわたしの出演作品を長尾監督が見てくださっていて。わたしのことを気にとめていてくださっていたみたいで、ありがたいことにオファーをいただいたんです。

 そこで、まず、長尾監督と直接お会いして、お話しすることになりました」

 長尾監督とはそれまでつながりがあったのだろうか?

「いや、それが実ははっきりしないんですけど、会ったことがあったようなないようなといいますか(苦笑)。

 わたしは役者に興味をもって、運送屋を辞めて、この世界に飛び込んだんですけど、最初に受けたのが緒方明監督の俳優のワークショップでした。映画館で見つけたチラシを頼りに参加したんです。

 そこで緒方監督とご縁ができて。その後、緒方監督が講師をされていた日本映画学校のゼミの撮影実習に外部役者として呼んでいただくようになりました。それから何年か、いろいろな実習作品に参加させていただいていたんです。

 で、長尾監督は日本映画学校出身で。緒方ゼミの学生の時期があった。そのことは長尾監督ともお話しして確認しています。

 長尾監督が学生だったときと、わたしが外部役者として撮影実習に参加していた時期はたぶん重なっているので、おそらくどこかですれ違ってはいる。

 だから、わたしは勝手にお会いしたことがあると思っていますけど、実際はどうだったかかなり記憶があいまいです(苦笑)」

 ということは、あまり知らない監督からの突然のオファーということに近いと思うが?

「そうですね。

 それから時間も少し経っていますし、わたしとしては初対面といった感じでした。

 長尾監督はどうだったかわからないんですけど」

監督のこの映画にぶつけたい熱い気持ち心を動かされた

 いわば突然の申し出の中で、やってみようと思った決め手はどこにあったのだろうか?

「まず、一度直接お会いすることなったんですけど、そこで、企画概要というかプロットのようなものがあって。作品のことを説明してくださいました。

 その中で、まずなにより長尾監督のこの作品に対する熱意をひしひしと感じたんです。

 その時点では、脚本はまだありませんでした。

 先ほど言った簡単なプロットのようなものしかなかった。でも、長尾監督の熱意がしっかりと記されていた。

 作品の内容の説明もある程度あった気がするんですけど、それよりもわたしの目に飛び込んできたのは長尾監督の作品に対する思いが書かれたものでした。

 長尾監督がいまの世の中に感じている怒りや不満といったことや、作品を作ることへの意義や情熱といった企画の主旨がかなりの文字数、大ボリュームで書き綴られていた。

 その熱量が半端なくこちらに伝わってくる。それ以外のことの印象が薄れてしまうぐらい、その熱量に圧倒されてしまいました。

 監督のこの映画にぶつけたい熱い気持ちが伝わってきて、その思いに心を動かされたところがありました」

「映画(窒息)」より
「映画(窒息)」より

セリフがない??など、想像がつかないことだらけで、

「これはなかなか巡り合うことのできない作品だな」と思いました

 それからもうひとつやってみたいと思った決め手があったという。

「記憶が曖昧なので正確じゃないと思うんですけど、作品の内容として『セリフがないモノクロ。山で狩猟生活をしている女の話』といった主旨のようなものが、確か書かれていた。

 作品をみていただければわかると思うんですけど、ほんとうに簡単に説明すると、そういう物語なんです。

 ただ、『セリフがない?』『山で獲物をとりながら生活している?』と、いきなり言われても、ちょっとどんな作品になるのか想像がつかないじゃないですか(苦笑)。

 わたしはセリフが一切ない芝居はやったことがないので、自分がどんなことを求められるのかも、どんな芝居になるのかもまったくわからない。

 狩猟生活をしている人物というのも、演じる上でどんなことが求められて、どんなところで撮影するのかもわからない。

 どんなことになるのだろうか?と、想像がつかないことだらけで、『これはなかなか巡り合うことのできない作品だな』と思って。

 どうなるかわからない。けど、だからこそ思い切って飛び込んでみたいと思いました」

(※第二回に続く)

「映画(窒息)」メインビジュアル
「映画(窒息)」メインビジュアル

「映画(窒息)」

監督:長尾元

出演:和田光沙、飛葉大樹、仁科貴、寺田農ほか

11月11日(土)より新宿K's cinemaにて公開、以後全国順次公開予定

公式サイト:http://www.tissoku.com/#home

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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