石井隆、瀬々敬久ら、いわゆる鬼才と呼ばれる監督たちのミューズとなってヒロインを務めてきた、佐々木心音。

　近年では「娼年」や「愚か者のブルース」など、バイプレイヤーとしても確かな存在感を放つ彼女だが、今秋公開となる２本の主演映画「道で拾った女」と「クオリア」でみせる姿は、「演技者として新たに覚醒して、次なる領域に入ったのではないか」と思わせる。

　それほど何かを予見させる女優・佐々木心音がそこにいる。

　鮮烈な印象を残した2013年の「フィギュアなあなた」のドール役から本格的に女優のキャリアをスタートさせて約10年。新たな飛躍を予感させる彼女に「道で拾った女」と「クオリア」の両主演作について訊くインタビュー。

　まずはいまおかしんじ監督と初のタッグを組んだ「道で拾った女」について訊く。全七回。

いつからか、いまおか監督は近いけど遠い存在になっていました

　まず冒頭で触れたように、いまおかしんじ監督作品の出演は今回が初めて。これはちょっと意外に思える。というのも、たとえば瀬々敬久監督をはじめ、いまおか監督と親交のある監督作品に、佐々木はこれまで多く出演してきたからだ。

　本人もいまおか監督作品は、「常に意識していた」と明かす。

「そうなんです。わたし、いまおか監督と親しい監督さんの作品にわりと多く出演していることもあって、いまおか監督のお名前は自然とどこかのタイミングで存じ上げていました。

　それ以来、いつかどこかでご一緒できるときが来るだろうと信じていたので、作品もこまめにチェックしていたんです。

　ただ、いつかその日が来ると信じていたんですけど、なかなかその機会が訪れない（苦笑）。だから、いつからかわたしの中で、いまおか監督はものすごい接近するんだけれど、気づくと遠くの方へいってしまっているというか。近いけど遠い存在になっていました。

　だから、今回は念願叶ったというのが正直な気持ち。近いのに遠かったいまおか監督にようやくお目にかかることができました（笑）」

いまおか監督作品に登場するヒロインが好き

　いまおか監督作品にはこんな印象を抱いていたという。

「わたしは、いまおか監督作品に登場するヒロインが好きなんです。

　どのヒロインもある種の痛快さがあるといいますか。

　ちょっと周囲の人間からすると手を焼くタイプですけど、自分勝手でわがままで、自由で破天荒。

　でも、自分に正直で嘘がなくて、チャーミングなところがあって、なんか憎めない。

　それは、ある意味、女性の本質を見事に突いているところがある。

　男性からすると『めんどくさくてやっかいだな』と思うかもしれないけど、女性からするとふだん出せない部分を包み隠さず出して、本心を代弁してくれているところがあるので共有できる。

　で、自分勝手でわがままで、自由で破天荒でというヒロインって、女優っぽいなと思うんです。

　すべての方がそうというわけではないですけど、女優って大胆さや豪快さ奔放さがある。また、それが許されるところがある。たとえば、役の中であれば、どんな狂暴なことをやってもなにも問題ない。

　一般のOLの方などは、そういう自分の中にある、それこそ潜んでいる感情まで出す機会ってほとんどないと思うんです。

　なので、いまおか監督作品のヒロインって、女優みたいと思っていて。女優をやっている身としては、一度チャレンジしてみたかった。

　あと、いまおか監督の演出ですよね。

　いまおか監督ならではの感情の打ち出し方、独自の表現の仕方がある。

　作品をみている方だったらわかると思うんですけど、『なんでこういう動きをするんだろう』とか、『ここの言い回しはなんでこうなるんだろう』といったちょっと突飛にも思えるユニークな演出がいまおか監督にはあって。それが不思議なアクセントになって作品全体をものすごく豊かにする。

　どうすればあのような独自の作品世界を成立させられるのか、とても気になっていました。

　ですから、いまおか監督の現場に立てること、演出を受けられることもとても楽しみにしていました」

絶対やりたい、わたしが絶対に演じたいと思いました

　もうひとつ、今回の脚本にも心を奪われたという。

「今回の作品のあらすじを簡単に説明すると、トラックドライバーの男性と、ホームレスの女性が偶然出会って、いろいろありながら心を通じ合わせて、最後、それぞれの一歩を踏み出すといった形。大恋愛でもなければ行きずりの恋ともちょっと違う。大人の男と女の一瞬すれ違った人生が描かれる。

　こういうさまよえる大人の男と女の出会いと別れみたいな作品がわたしは好きで。

　たとえば、廣木隆一監督の『ヴァイブレータ』が大好きで、寺島しのぶさんが演じられた玲のような役をいつかやってみたいと思っていました。

　いつかそういうチャンスが来ないかと、ずっと心待ちにしていたんです。

　で、このお話をいただいて、脚本を目にしたら、まさにわたしが待ち望んでいた内容の物語で、男と女の人生が一瞬だけ交わって、でも、関係が成就するわけではなく別々の道をいく。

　これは『絶対やりたい、わたしが絶対に演じたい』と思いました」

（※第二回に続く）

「道で拾った女」

脚本・監督：いまおかしんじ

出演：浜田 学　佐々木心音

川上なな実　永井すみれ　東 龍之介　成松 修　川瀬陽太

新宿K’s cinemaほか全国順次公開中

筆者撮影以外の写真はすべて（C）2023レジェンド・ピクチャーズ