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不慮の事故死から40年。25歳で逝った天才ギタリストの知られざる顔と死の真相を求めて

水上賢治映画ライター
「ランディ・ローズ」を完成させたアンドレ・レリス監督 筆者撮影

 タイトルとなっている「ランディ・ローズ」という名を聞いてもあまりピンとこない人も多いかもしれない。

 少しだけ触れると、彼は1980年代に活躍し、あのエディ・バン・ヘイレンと並ぶ脚光を浴びたスーパー・ギタリスト。

 しかし、まさにこれからスター街道を歩もうとしたその矢先に不慮の事故により25歳の若さでこの世を去った。

 その死から40年という節目の年に届けられたのが、本作「ランディ・ローズ」だ。

 もはや伝説の存在といっていい早世のギタリストの軌跡をたどったアンドレ・レリス監督に訊く。(全四回)

「ランディ・ローズ」より
「ランディ・ローズ」より

いままで霧がかかってみることができないできた

ランディの実像がようやく浮かびあがってきた

 全四回の最終回となる今回も作品の話を。

ドキュメンタリー映画「ランディ・ローズ」は、25歳の若さで他界した天才ギタリスト、ランディ・ローズの人生を辿る。

 自身が結成したバンド「クワイエット・ライオット」ではプロデビューは日本のみで全米デビューは果たせなかったこと、その後「オジー・オズボーン・バンド」のギタリストに抜てきされて一躍注目のギタリストとなったこと、そして、人気絶頂、まさにこれからというとき、突然の悲劇でこの世を去ったこと。

 その短いながらも駆け抜けた人生を振り返る。

 「クワイエット・ライオット」でのライブ映像、残されていた本人の肉声のインタビュー、これまで出たことのなかったプライベートショットなど貴重な映像や音源が満載。同時代に活躍して世間からはライバルとされていたエディ・バン・ヘイレンや、ランディの家族のインタビューも収録し、ギタリストとしてはもとよりランディ・ローズという人物そのものに迫ろうとしている。

「とにかく僕自身もランディ・ローズがどのようなギタリストで、どのような人間だったのかを知りたかった。

 どんな家族のもとに生まれて、どんな子ども時代を過ごしていて、いつギターに目覚めたのか、そういったことをひとつひとつ知りたかった。

 だから、構成はシンプルに彼の生涯を時系列でたどるものにしました。

 作品を通して、僕自身も発見の連続でした。

 家族の話や『クワイエット・ライオット』のメンバーの話などから、いままで霧がかかってみることができないできたランディの実像がようやく浮かびあがってきた。

 あと、エディ・バン・ヘイレンがライバル心をもっていながらも、ランディを天才ギタリストとして認めていたこともわかりました。

 あのオジー・オズボーンがランディ・ローズの死でどれだけ失意のどん底に落ちたのかもわかりました」

「ランディ・ローズ」より
「ランディ・ローズ」より

この事故は未然に防げた可能性はあった

 作品では、ランディ・ローズの最期となった1982年3月19日、オジー・オズボーン・バンドの全米ツアー(Diary of a madman tour)中に起きた遊覧飛行での墜落事故も時系列で詳細が語られる。

「この事故もいままであまり詳細が語られてこなかった。

 僕自身もどのような経緯で起きたのかはわからなかった。

 なので改めてきちんと、どのような形で起きてしまったのかを、悲しいことではありますけどきちんと調べて伝えようと思いました。

 ほんとうにランディがこれからスターへとかけのぼっていくことが確実で、誰もが期待して、次にどんなギタープレイをみせてくれるのかを楽しみにしていた矢先の事故で。

 正直なことを言えば、この事故は未然に防げた可能性はあった。だから、やりきれない気持ちになりましたね」

ランディ・ローズはもちろんスーパー・ギタリスト。

同時にギターの匠でマスター(師匠)でもあった

 作品内では、ランディ・ローズの知られざる素顔がいろいろと語られている。

 その中でもとりわけ驚かされたのが、彼がずっと子どもたちにギターを教え続けていたこと。スターとなった後も、変わらずに続けていたことだ。

 当時のヘヴィメタルやロック系のアーティストというのはとにかくハチャメチャなイメージ。実際、ドラッグや酒におぼれるミュージシャンも珍しくはなかった。

 その中にあって、子どもたちにギターをずっと教え続けていて、しかも練習の鬼で努力を積み重ねていたランディ・ローズはある意味、異色といってもいい。

「そうなんです。僕もそこはひじょうに驚きました。

 前にお話したように、そもそも僕自身、ヘヴィメタルにはまったのは、親が信者だったカルト教団への反抗心から。

 当時のヘヴィメタルのミュージシャンは、既存の体制や社会をぶっこわすみたいな反抗精神の塊みたいなところがあった。

 僕にとってランディ・ローズはロックの神様だったから、てっきりそういう人物かと思っていた。究極のロックスターに違いないと。

 でも、内情を知ったらまったく違った。

 ある意味、それ以上の存在だったことが今回わかりました。

 彼はひじょうに技巧を大事にするミュージシャンで、日々の練習を欠かさない、努力を重ねることを怠らない人物であることがわかりました。

 また、すごいと思ったのがまさに、ギターを子どもや若者に教えていたことで。スターになってからも続けていた。

 で、おそらくスターになったから講習代を引き上げてなんてことは絶対していなくて、ふつうに教えていた。

 しかも自分の技術や経験を惜しみなく学びにきた若者たちに注いでいた。

 これはすごいこと。

「ランディ・ローズ」より
「ランディ・ローズ」より

 というのも、当時のミュージシャンには、自分の指使いとか弾き方を企業秘密じゃないけど、極力みせない人がけっこういた。真似されないように。

 でも、ランディは全然違って。ライブ映像をみればわかるんだけど、ほんとうにこれでもかっていうぐらい指使いを観客に見せている。

おそらく自分がどう弾いているのか包み隠さず伝える人だった。

 ランディ・ローズはもちろんスーパー・ギタリストではある。でも、同時にギターの匠でマスター(師匠)でもあった。

 調べれば調べるほど、彼は単なるギタリストではない、正真正銘のミュージシャン、音楽の匠であったことがわかりました。

 その死から40年が過ぎてしまいましたけど、この映画をきっかけに改めてランディ・ローズというすばらしいギタリストがいたことを知ってもらえたらうれしいです」

【「ランディ・ローズ」アンドレ・レリス監督インタビュー第一回はこちら】

【「ランディ・ローズ」アンドレ・レリス監督インタビュー第二回はこちら】

【「ランディ・ローズ」アンドレ・レリス監督インタビュー第三回はこちら】

「ランディ・ローズ」より
「ランディ・ローズ」より

「ランディ・ローズ」

監督:アンドレ・レリス 

脚本・編集:マイケル・ブルーイニン

ナレーション:トレイシー・ガンズ 

出演:ランディ・ローズ、オジー・オズボーン、エディ・ヴァン・ヘイレン、ルディ・サーゾ、フランキー・バネリ、ジョージ・リンチ、ゲイリー・ムーア、ダグ・アルドリッチ、ジョエル・ホークストラ、ブルース・キューリック、ドゥイージル・ザッパ

全国順次公開中

筆者撮影以外の写真はすべて(C)RANDY RHOADS: LEGEND, LLC 2022

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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