セクシュアリティーに思い悩む高校生を演じた若杉凩。「尊敬できる同年代の役者に出会えたことに感謝」
大九明子監督らの元で助監督を務めてきた淺雄望監督の長編デビュー作「ミューズは溺れない」は、まだ何者でもない自分に思い悩むすべての高校生に「大丈夫」とそっと手を差しのべてくれるような１作だ。
絵の道へ進む自信を失ってしまい、目標を見失いかけている美術部部員の朔子、同じく美術部員でいつもクールで周囲を寄せ付けない雰囲気がありながら実は他人には明かせない深い悩みを抱えている西原、ちょっと厚かましいけど人一倍友達想いの朔子の親友、栄美ら。「進路」というひとつ答えを出さないといけない時期を前にした彼らの心が揺らぐ「高校三年の夏」が鮮やかに描き出される。
その中で、キーパーソンとして存在するといっていいのが西原だ。
はたから見ると大人びて我が道をいっているようにみえる彼女。だが、実は誰よりも臆病で自分の「性」について深く思い悩んでいる。
表面上では澄ました顔でいながら、内面はぐちゃぐちゃで沈痛な表情を浮かべている、そんな難役の彼女を演じ切っているのが、「アイスと雨音」「MINAMATA―ミナマター」などに出演している新進俳優の若杉凩。俳優としてはもとよりモデル、アーティストとしても活動する彼女に訊く。（全三回）
今回の『ミューズは溺れない』はひじょうにに大きな経験に
第三回となる今回は若杉自身のこと、今回の共演した同年代の俳優たちについての話を。
まずここまでいろいろと話をきいてきたが、今回共演した上原実矩、森田想はほぼ同年代。この共演はどんな印象をもっただろうか？
「やはり刺激を受けます。
森田さんとは過去に１度共演しているんですけど、そのときから年下とは思えないというか。
すごい子だなと感じていて、役者としてすごく尊敬しています。
ちょっとそこは自分も見習わないといけないと思っているんですけど、プロ意識と役者としてのプライドをもっているというか。
ここで自分が成すべきこと、応じなければいけないこと、やるべきことがわかっていて、その求められたことをきちんとやり切ることができる。
極端なことを言うと、納得できないことでも、最後は相手が求めたことに最高の形の答えを返すことができる。
すごい役者だと思います。
今回共演して上原さんにも同じような印象を持ちました。
ちゃんと俯瞰で自分のこの作品の中での立ち位置を多角的に見ることができて、ここはこうあるべき、こう振る舞うべきというのがわかっている。
そして、求められたことにきちんと最高の答えを出す。
わたしは頭でそう考えていても『私にはそういうふうに振る舞えません』となって自分を出し過ぎて怒られたりとかする人なので、まだまだだなと思いました（苦笑）。
そういう意味で、今回の『ミューズは溺れない』はひじょうにに大きな経験になりました。
自分が心から尊敬できる同年代の役者に出会えたことに感謝しています」
絵も演じることも現時点では両方とも大切な創作活動
これまでの話からこれからもっともっと芝居という創作をしていきたい意気込みが伝わってくるが、前回の終わりに少し話に出たように彼女は俳優活動とともに絵のアーティストとしての活動もしている。
どういうスタンスで臨んでいるのだろうか？
「完全に名義を分けてるので、どちらかというともう別人格としてやっているところがあります。
役者は大切な本業の活動です。
絵も同じぐらい大切な活動ではあるけれども幾分かは趣味の領域も入っている。なので、死ぬまで創作として続けていくのは絵を描く方なのかなと思ったりもしています。
ただ、現時点では両方とも大切な創作活動で。
どちらにも共通して言えるのは、作品を発表するとちゃんとレスポンスがあること。
そこで対話が生まれる。
そういう意味で、社会とのつながりを持てるツールとしては、絵を描くこともお芝居することもあまり変わらないという意識が自分の中にはあります。
ただ、お芝居はまだまだというか。まだほんとうに自分がお芝居をきちんとできているのかあまり自信がもてていない。
これからキャリアを重ねてそのあたりが解消されるのかわからないですけど、創作という点では俳優の仕事もおもしろいので続けていけたらと思っています。
でも、単に俳優としてパッと参加して仕事して帰る、というのではなく、作品に深くかかわるような形でできれば参加したい。
監督をはじめキャストやスタッフと一緒に創作している実感を得られるような現場に参加したい。
とにかくいまの自分としては創作活動がしたいです。
なので、俳優のお仕事もお芝居がしたいというよりは、スタッフや共演者と『ものづくりをしたい』という気持ちがあります。
自分の中で、絵を描くことは、完全に自分の世界に入って、自分の考えていることや伝えたいことをひとりで表現している感覚がある。
ひとりでの創作の喜びや楽しさがある。
だから、よけいにお芝居の方は誰かと一緒に創作活動がしたい気持ちがあるというか。
創作という形は一緒なんですけど、向き合い方が違って、どちらも今おもしろいと思っています」
「ミューズは溺れない 」
監督・脚本・編集: 淺雄望
出演：上原実矩 若杉凩 森田想
広澤草 新海ひろ子 渚まな美 桐島コルグ 佐久間祥朗 奥田智美
菊池正和 河野孝則 川瀬 陽太
全国順次公開中
公式サイト → https://www.a-muse-never-drowns.com/
写真はすべて（C）カブフィルム
