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SMの女王様から毒母、父想いの娘まで。新たな役は「ぶっちゃけ、役者を諦めた彼女の気持ちが分かります」

水上賢治映画ライター
『ワタシの中の彼女』で主演を務めた菜 葉 菜  筆者撮影(2021年撮影)

 いったい彼女は、どれだけの顔をもっているのだろうか?

 こちらにそう思わせるほど、ここのところさまざまな顔を見せてくれているのが女優の菜 葉 菜だ。

 2022年の幕が開けて少しした2月公開の「夕方のおともだち」ではSMの女王様を演じ、続く出演作「ホテル・アイリス」では毒母がちょっと含まれたホテルの女主人、北京冬季オリンピックの期間中に流れたクボタのCMでの父想いの娘役は大きな反響を呼んだ。つい先日まで放送されていたNHK連続ドラマ「つまらない住宅地のすべての家」では物語の鍵を握る脱獄囚を演じていた。

 そして、新たな主演映画「ワタシの中の彼女」では、新たな4つのまったく違う顔を見せてくれる。

 新たにどんな顔を見せてくれているのか?菜 葉 菜に訊く。(全六回)

ほんとうはがっつり対面してのお芝居をしたかった

 前回(第一回はこちら)は、主に4章からなるオムニバス映画である本作の全体について訊いたが、ここからは各章についての話へと入る。

 はじめは、今回の「ワタシの中の彼女」の出発点となった一編である第一章の「4人のあいだで」の話から。

 本作に登場するのは、菜 葉 菜が演じるナナエ、占部房子が演じるフサエ、草野康太が演じるコウジという大学時代の演劇サークル仲間である40代の男女3名。

 コロナ禍で20年ぶりに連絡を取り合い、リモート飲み会をすることになった彼らの会話劇になっている。

 まず、ひとりの役者として、占部と草野との共演が楽しみだったと明かす。

「草野さんも占部さんも、わたしが尊敬する俳優さんで。

 お二人ともちょっとだけ先輩なんですけど、ほぼ同年代。草野さんはご一緒したことがあったのですが、占部さんは初めてで。

 がっつり絡んでお芝居したことはない。まず、お二人ときちんと共演できることが楽しみでした。

 草野さんも『菜 葉 菜さんと占部さんだから、面白いと思った』とおっしゃってくれてました。

 だから、ほんとうはがっつり対面してのお芝居をしたかったんです。

 でも、設定はリモート飲み会。しかも撮影時は、コロナ禍が始まったころで、役者同士が向き合っての芝居が難しい時期だった。

 で、なるべく接触しないでの撮影を模索しなくてはいけない上で、どんな作品ができるかという試みでもあった。

 だから、がっつり絡むことは残念ながら無理だったんですけど、そこは頭を切り替えたといいますか。

 リモート飲み会という設定で、直接対面でのお芝居ではなくて、言葉と言葉だけのお芝居というのも、それはそれでめったにないこと。

 どんなことになるのか、予想できずちょっとスリリングでもあって、楽しもうと思いました」

『ワタシの中の彼女』の一編『4人のあいだで』より
『ワタシの中の彼女』の一編『4人のあいだで』より

リモート飲み会シーンのユニークな撮影法とは?

 作品上では、ナナエ、フサエ、コウジが別々の場所でスマホごしに会話を繰り広げている。

 でも、ちょっと舞台裏を明かすと、実際の撮影では、同じ公園で各人がちょっと離れたところに位置して撮影されていったという。

「同じ公園で1人ずつ撮っていく形だったんです。

 映っていないですけど、共演者がすぐ近くにいて、スマホを通して話しかけるみたいな形でのお芝居でした。

 基本的には一人芝居だと思うんですけど、言葉だけは絡み合う。

 だから、一人芝居ともちょっと違う。

 冷静にみるとなにをやっているんだろうという感じで、演じているこちらも不思議でした。

 声だけなのに、なんか本人を目の前に話しているようにも感じられる。

 実際に役者同士で向き合ってのお芝居とは、ちょっと違う感覚を刺激されるところがありましたね」

 あまりないスタイルでの芝居だったようだが、ここで菜 葉 菜が演じたのは、役者を諦めて専業主婦となったナナエ。

 この役には素直に入ることができたという。

 作品は、そのナナエと、事務職をしながらパートナーと暮らすフサエと、なんとか役者を続けているコウジとリモートでとりとめもない話を始める。

 学生時代のこと、近況などざっくばらんに話しているうちに、同じ演劇サークルで女優として成功を収めたサヨコの話題に。

ぶっちゃけて言うと、役者の道を諦めたナナエの気持ちがわかるところがある

 そこから意外な事実が判明して三人の対話も波乱含みへとなっていく。

「私自身は専業主婦ではないんですけど(笑)、ナナエとは重なるところがあるんですよね。

 わたしもいまは役者としてやってますけど、社会人も経験している。

 だから、なにかひとつでも噛み合わなかったら、役者を諦めて普通に働いていたかもしれないという思いがいまでもある。

 あと、ナナエは、女優として売れた上、サークルでも随一の美女だったサヨコに対して、ちょっとやっかみがある。

 とりたてて美人でもない自分は役者としての道を早々に諦めて、いまは平凡な主婦をやっている。

 随分、サヨコと差がついたなと思うと、ちょっとモヤモヤして気が晴れない。

 ぶっちゃけて言うと、その気持ちがわたしもわかるところがある。

 いまはもう自分らしい道を歩めればいいかなという気持ちですけど、やっぱり売れっ子になりたいと思ったことはありましたから(笑)。

 だから、ナナエは役として考えなかったというか。ある意味、自分と地続きに思えて、わたしのままで演じれればいいのかなと思いました。

 いい意味であまり考えすぎない、無理なく演じられたところがあります」

(※第三回に続く)

【菜 葉 菜インタビュー第一回はこちら】

オムニバス映画『ワタシの中の彼女』ポスタービジュアル
オムニバス映画『ワタシの中の彼女』ポスタービジュアル

オムニバス映画『ワタシの中の彼女』

監督・脚本 中村真夕

『4人のあいだで』 

出演:菜葉菜 占部房子 草野康太

『ワタシを見ている誰か』

出演:菜葉菜 好井まさお

『ゴーストさん』

出演:菜葉菜 浅田美代子

『だましてください、やさしいことばで』

出演:菜葉菜 上村侑

ユーロスペースほか全国順次公開中

公式サイト http://watakano4.com/

場面写真はすべて(C)T-Artist

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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