もう若くはないヒロインの「生」と「性」を表現。監督と意見の分かれたラストシーンについて
突然の夫との死別からまだ立ち直れないでいる淳子と、職人気質といえば聞こえはいいが何事も生真面目すぎて融通のきかない家具職人の裕司。
いまはパートナーが不在。でも、まだ未練がないわけではない。
もう若くはない、でも、枯れるにはまだ早い。
もう人生の折り返し地点は過ぎている。でも、まだまだその先の人生は続く。
いまおかしんじ監督の「あいたくて あいたくて あいたくて」は、そんな大人の男女の運命とまではいわないが、なにかの始まりを予感させるめぐり逢いを見つめている。
メインキャストのひとり淳子を演じているのは、いまおか監督作品に欠かせない女優の丸純子。
これはご本人に失礼に当たるかもしれないが、彼女は、ありふれた日常の中にいる中高年層のヒロインを変に若く見せない、着飾らない、あくまでも普段着で演じることができる数少ないこの年代の女優といっていい。
淳子というヒロインを「性」と「生」を体現してみせた丸に訊く。（全六回）
わたしのドジなところとかが完全にこれでバレてしまった（笑）
引き続き丸が演じた淳子についての話から。
ここまでの話でも少し触れたように、夫の死去でいまはシングルマザーとして娘を育てなくてはならない。その上、夫の残した料理店の切り盛りもしなければならない。
傍から見ると、かなり頑張っている女性でありシングルマザーといっていい。ちょっと多くのモノを背負い過ぎている人物ともいえる。
ゆえにおそらくストレートに演じると、かなりハイスペックな人物になってしまう。
ただ、おもしろいことに、丸が演じることで、ちょっとドジでおちゃめな真逆な人物になっている。
淳子についていまこんな印象を持っているという。
「これまででも少しお話しをしましたけど、いまおか監督に見透かされたといいますか。
淳子という役を通して、普段着のわたしを引き出されてしまったなと（苦笑）。
淳子はものすごい大変な中の渦中に間違いなくいる。
でも、本人があまりわかっていない（笑）。
めっちゃ大変で忙しい、疲れてヘトヘト。
おそらく普通はそこで『なんでこんなことになっているのか？』と深掘りし始めて、悩みが尽きなくなってしまってしんどくなってしまうのだけれど、淳子はそこは悩まないというか。
もう目の前のことをこなすことでいっぱいいっぱいで、悩む暇もない（笑）。ある意味、自分の置かれた状況が大変なことに気付いていない。
わたしもそういうところがある。大真面目に必死にわたしとしてはやっているのに、周りから見ると、なんだかユーモラスにみえる。
わたしのそういうところが前面に引き出されたことで、淳子はああいう感じになった気がします。
そういう意味で、わたしのドジなところとかが完全にこれでバレてしまった（笑）……。
でも、シングルマザーであったり、店の責任者という立場になるとやはり責任感が強い人ほど完璧を求めようとしてしまうところがある気がするんです。
そういう人たちが淳子ぐらいゆるくても、ちょっとドジしても『大丈夫か』と感じてもらえたら、うれしいです。いまおか監督に見透かされた甲斐があります。
まあ、でもこの淳子という役はおそらく演じる人によって変わると思います。
わたしの場合は、こうだったということなのでしょうね（笑）」
演出に口を出してしまった罪悪感が拭えないでいます
撮影の裏話を訊くと、あまり結末に触れるので明かせないがラストシーンに関してはちょっと監督と意見交換があっていまも罪悪感が拭えないのだとか。
「わたしは作品は監督のものと思っているので、演出やシーンのことに基本的には口をはさむことはないんです。
もちろん、わからないことや疑問に思ったことは監督に訊いて、アドバイスを受けることはあるし自分の意見を言うことはある。
でも、自分の意見をなにがなんでも押し通すことはない。
ただ、今回のラストシーンに関しては、当初、いまおか監督が想定していたものに、演じていく中で違和感が出てきた。
どうしてもその違和感が拭えないので、差し出がましいんですけど、いまおか監督に伝えたんです。『ちょっと違う気がする』と。
といったものの、内心ではあまり変わるとは思ってなかったんですよ。
たいていの監督さんはやはり自分の意見を貫きますから。まあ、それぐらい揺るぎないビジョンをもっているのが監督でもありますし。
でも、いまおか監督は『じゃあ、丸さんの考える方でやってみようよ』となってしまった。もうびっくりで。
いまおか監督に何度も確認しました。『ほんとうにいいの？』と。そうしたら、『いいの、いいの』と。
それでいまのラストになったんです。
『あのラストいいですよね』とおっしゃってくれる方もいて、それはわたしとしてはひと安心なんですけど……。
でも、いまも演出に口を出してしまった罪悪感が拭えないでいます。
ごめんなさいの気持ちがすっごくあって、いまおか監督にお会いすると、『ラスト、ごめんね』といってしまいます。
監督は『まだ言ってんの。もうできちゃったんだから、もう一回撮れないでしょう、これでいいんだよ。俺がいいって言ったんだから』と言ってくださるんですけど」
何十年と女優をしてきましたけど、その中でもお気に入りのシーンです
そのラストシーンはほんとうに違和感のない、この作品のトーンにぴったりのエンディングとなっていると思う。
「そういっていただけるとありがたいです。
なにかわたしはあそこは安易に白黒つけてはいけないと思ったんです。グレーゾーンでいいんじゃないかなと。
答えを100％出すようなシーンでなくていい。何気ないやりとりから始まっているから、何気なくつながる感じぐらいでいいんじゃないかなと思ったんです。
どうなるかは見ている方に委ねていいんじゃないかなと。
わたしも何十年と女優をしてきましたけど、その中でもとても思い出深いシーンで、お気に入りのシーンです」
（※第六回に続く）
「あいたくて あいたくて あいたくて」
監督：いまおかしんじ
出演：丸 純子 浜田 学
川上なな実 柴田明良 青山フォール勝ち 山本愛香
足立 英 青木将彦 松浦祐也 川瀬陽太
広島・横川シネマにて12/24（土）から公開
場面写真およびポスタービジュアルは（C）2022レジェンド・ピクチャーズ
