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もう若くはないヒロインの「生」と「性」を体現。自分の一存で決められないシングルマザーの気苦労を感じて

水上賢治映画ライター
「あいたくて あいたくて あいたくて」の主演を務めた丸純子  筆者撮影

 突然の夫との死別からまだ立ち直れないでいる淳子と、職人気質といえば聞こえはいいが何事も生真面目すぎて融通のきかない家具職人の裕司。

 いまはパートナーが不在。でも、まだ未練がないわけではない。

 もう若くはない、でも、枯れるにはまだ早い。

 もう人生の折り返し地点は過ぎている。でも、まだまだその先の人生は続く。

 いまおかしんじ監督の「あいたくて あいたくて あいたくて」は、そんな大人の男女の運命とまではいわないが、なにかの始まりを予感させるめぐり逢いを見つめている。

 メインキャストのひとり淳子を演じているのは、いまおか監督作品に欠かせない女優の丸純子。

 これはご本人に失礼に当たるかもしれないが、彼女は、ありふれた日常の中にいる中高年層のヒロインを変に若く見せない、着飾らない、あくまでも普段着で演じることができる数少ないこの年代の女優といっていい。

 淳子というヒロインを「性」と「生」を体現してみせた丸に訊く。(全六回)

「あいたくて あいたくて あいたくて」の主演を務めた丸純子  筆者撮影
「あいたくて あいたくて あいたくて」の主演を務めた丸純子  筆者撮影

世の中には淳子のようにシングルマザーがいっぱいいらっしゃる。

みなさんほんとうに気苦労が絶えないんだろうなと感じました

 前回(第二回はこちら)に続き、演じた淳子についての話から入る。

 夫に先立たれ、その夫の遺した店を急遽引き継ぎ、しかも大学生の娘のめんどうも見なくてはいけない。

 でも、悲壮感をみせない、いつも明るい淳子のその笑顔の裏側にあるものまでも演じようとしたと語った丸。

 演じながらとりわけ母親という立場にいる淳子を強く感じていたという。

「現在の淳子にとって大きなウェートを占めるのは母としての自分だと感じていました。

 大学生の娘は、ほぼほぼ手が離れかけている。実際、娘は彼氏と同棲し始めると言って、新生活をスタートさせる。

 ただ、淳子からするとまだまだ子どもで手元に置いておきたい気持ちはあるし、夫亡きあと、唯一の家族でもあるから離れられるのはやはり寂しい。

 でも、娘のことを思うと独り立ちさせないといけないところもあり、見守るべきところは見守らないといけない。

 口も手もだしたいけど、ぐっと押しとどめないといけない。

 こうしたジレンマを抱えながら日々、娘のことを思っている。

 夫の料理のレシピと味も探していますけど、基本的には淳子の中で重要なのは娘のこと。自分のことは二の次なところがあって、娘のことなんですよね。

 淳子は裕司と出会う前に別の男性といい感じになりますけど、最終的には別れを選択する。

 この別れは、彼女の中で『この人はちょっと違うかな』という気持ちも確かにあったはず。

 夫の死をまだ引きずっていて、心がまた落ち着いていないこともあった

 もうひとつ、『娘のことを考えるといまはちょっと……』という気持ちもどこか心の片隅にあったと思う。

 自分の一存で決められないというか。それでの別れでもあった気がします。

 こうした母としての気持ちが、淳子を通してひしひしと伝わってくるんです。

 世の中には淳子のようにシングルマザーで子育てされている方がいっぱいいらっしゃる。みなさんほんとうに気苦労が絶えないんだろうなと感じました。

 ひとりで子どもを育てるってもちろん金銭面も大変でしょうけど、精神的なプレッシャーもそうとうある。すべての責任が自分にかかってきますから。

 ありふれた日常を送れることが実はそう簡単ではないことであったり、シングルマザーの大変さ、子育てをしていくことに伴う覚悟、亡くした人の悲しみを乗りこえるとよく言うけれど、実はそのときには厳しい現実も乗り越えてなくてはいけないこと、そういったことを淳子役を通して、大真面目に感じることができて、いろいろと考えさせられました」

「あいたくて あいたくて あいたくて」より
「あいたくて あいたくて あいたくて」より

淳子は照れ隠しでついふざけちゃう(苦笑)

なにを隠そうわたしがそうなんです

 淳子が直面する現実はひとつひとつをよくみるとけっこうシビア。でも、彼女はそれを持前の明るさで乗り越えていこうとする。

 ただ、この彼女の自然に滲み出てくるポジティブさは、丸の演技によるところも大きい気がするが?

 劇中、ふざけ気味にファイティングポーズをとったりするなど、いくつかユニークなアクションを淳子はみせてくれるのだが、もともとあった設定なのだろうか?

「あのポーズとってちょっとパンチするとかは、わからないですけど、わたしの中から自然に出てきてやったことなんですよね。

 監督によっては『突拍子もないこと』となるんでしょうけど、いまおか監督は受け入れてくださった。

 前回、彼女のポジティブさを大切にしたかったといいましたけど、このポーズのシーンにかんしてはポジティブさというよりも淳子の持って生まれた性格というか。

 見ていただくとわかるんですけど、これらのシーンは淳子の照れ隠しで。

 その場に真面目過ぎる空気が流れていたり、相手に真剣に向かわれてしまうと、彼女はなんとなくこっぱずかしくなってごまかしてその場をやり過ごそうとする。

 それで、あんな感じで『パンチ、パンチ』みたいにちょっとふざけちゃう。もういい歳なのに。

 で、なにを隠そうわたしがそうなんです。照れ隠しでついふざけちゃう(苦笑)。

 だから、淳子の照れ隠しでふざける場面は、わたしの素が出ているといっていいです。

 そのときはあまり意識していなかったんですけど、後で映画を見て思いました。『これわたし自身が照れている』って(笑)。

 大真面目になったり、一瞬シーンとなるときあるじゃないですか。

 ああいうのわたしすごく苦手というか怖くて、そうなると『あはは』とか笑っちゃったりして雰囲気を変えようとするんです。

 で、人によっては『あははじゃないよ』とか怒られるんですけど(苦笑)。

 つまり笑ってごまかそうとする。

 そういうわたし自身が出てしまったシーンで、たぶん褒められたことじゃないと思うんですけど、もうお許しいただければと思っています」

(※第四回に続く)

【丸純子インタビュー第一回はこちら】

【丸純子インタビュー第二回はこちら】

「あいたくて あいたくて あいたくて」ポスタービジュアルより
「あいたくて あいたくて あいたくて」ポスタービジュアルより

「あいたくて あいたくて あいたくて」

監督:いまおかしんじ

出演:丸 純子 浜田 学

川上なな実 柴田明良 青山フォール勝ち 山本愛香

足立 英 青木将彦 松浦祐也 川瀬陽太

栃木・小山シネマロブレにて11/4~、兵庫・元町映画館にて11/5~公開

場面写真およびポスタービジュアルは(C)2022レジェンド・ピクチャーズ

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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