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もう若くはない男女の恋物語でヒロインの「生」と「性」を体現。「笑顔の裏側まで伝えられたら」

水上賢治映画ライター
「あいたくて あいたくて あいたくて」の主演を務めた丸純子  筆者撮影

 突然の夫との死別からまだ立ち直れないでいる淳子と、職人気質といえば聞こえはいいが何事も生真面目すぎて融通のきかない家具職人の裕司。

 いまはパートナーが不在。でも、まだ未練がないわけではない。

 もう若くはない、でも、枯れるにはまだ早い。

 もう人生の折り返し地点は過ぎている。でも、まだまだその先の人生は続く。

 いまおかしんじ監督の「あいたくて あいたくて あいたくて」は、そんな大人の男女の運命とまではいわないが、なにかの始まりを予感させるめぐり逢いを見つめている。

 メインキャストのひとり淳子を演じているのは、いまおか監督作品に欠かせない女優の丸純子。

 これはご本人に失礼に当たるかもしれないが、彼女は、ありふれた日常の中にいる中高年層のヒロインを変に若く見せない、着飾らない、あくまでも普段着で演じることができる数少ないこの年代の女優といっていい。

 淳子というヒロインを「性」と「生」を体現してみせた丸に訊く。(全六回)

「あいたくて あいたくて あいたくて」の主演を務めた丸純子  筆者撮影
「あいたくて あいたくて あいたくて」の主演を務めた丸純子  筆者撮影

『これ丸さんだから、そのままやってくれればいい』という監督からの言葉

 前回(第一回はこちら)は、主にいまおかしんじ監督との出会いについて訊いたが、ここからは作品の話に入る。

 まず、今回の脚本の印象についてこう語る。

「はじめに目がいったのは、わたしが演じる役の名前で(苦笑)。  

 『淳子』って、わたしが『じゅんこ』だから、たぶん『あつこ』と読むのだろうと思ったんです。

 まさかいくら、いまおか監督でもそんな役名と俳優の名を一緒にしないだろうと。本人役で登場するわけでもないし。

 そうしたら『じゅんこだ』と返事がきて、『おいっ』と思いました(苦笑)。

 でも、脚本を読んだら、前回お話ししたとおりのいまおか監督らしいじんわりと心が温かくなる物語で、素直に『いい脚本だな』と思いました。

 で、淳子にどんな女性像を望んでいるのかをいまおか監督に聞きました。

 そうしたら、『これ丸さんだから、そのままやってくれればいいから』と。

 そういわれたら、『思う存分、わたしが感じたままやらせてもらいます』といったところで。

 結婚や出産の経験はないですけど、わたしがもしそのような状況に直面したら、なにを考えて、どう行動するのか?

 それを自分なりに考えて表現して演じていこうと思いました。

 わたしの役作りはいつもそうなんですけど、あんまり考えすぎたり、深く分析したりすることをしないようにしています。

 実際に現場に立ったときの空気や、相手とのお芝居の呼吸とかでまったく対応が違ってくる。

 だから、ガチガチに固めて作り込みすぎてしまうと、対応できなくなってしまうんですよね。

 ですから、ある程度、こういう人かなとだけつかんでおいて、あとは共演者の方と作り上げていく。

 今回でしたら、巡り合うことになる裕司役の浜田学さんであったり、娘役の山本愛香さんだったりと向き合って、うまくキャッチボールができればなと考えて臨みました」

「あいたくて あいたくて あいたくて」より
「あいたくて あいたくて あいたくて」より

淳子には自らの人生を拓いていこうとするパワーがある

 淳子には、こんなことを感じていたという。

「彼女は夫に先立たれている。しかも、その夫が経営していた飲食店を受け継いだものの、うまくいっているとはいえない。

 夫の味を求めてきてくれるお客さんに、その味を提供できていない。その味を見つけようとしているのだけれど、まったく手がかりもない。

 となると、切羽詰まった感じで悲壮感がある人物が想像される。

 でも、彼女は前向きさがあって、あまり悲壮感がない。

 夫が亡くなって悲しくもあるし、寂しくもある。悩みもいろいろとある。

 でも、それらをいい意味で『仕方ないこと』と割り切って、前を向いている。

 『生きていればなんとかなる』みたいなポジティブ思考で自らの人生を拓いていこうとするようなパワーがある。

 この自然な前向きさ、明るさは大切にしたいなと思いました。

 女性はこうした身の上だと、『かわいそう』というだけの扱いにされてしまいがちなんですけど、淳子は違う。

 しっかりと夫亡きあとも、自分の人生を歩もうとしている。さすがいまおか監督の視点だなと思いました」

彼女の笑顔の裏側まで伝えられるように演じました

 演じながら、こんなことも考えたという。

「いま、淳子のポジティブさや明るさは大切にしたいといいましたけど……。

 彼女は顔に出しませんけど、実際のところは大変だろうなということも演じながらよくわかりました。

 突然、夫に先立たれて、店を継ぐことになって、娘がいて、彼女はまだ大学生で育てなければならない。

 この状況を考えると、もちろん悲嘆にくれる人もいるとは思いますけど、悲しんでいる暇もないんだろうなと感じました。

 とにかく娘を育てなくてはいけないし、自分も食べていかないといけない。

 目の前のことをまずはやっていってクリアしていかないといけない。

 そのことに追われて必死だったと思います。

 そうなると亡くなった旦那さんにひと言ぐらい愚痴もいいたくなれば、恨みたくもなる(笑)。

 淳子は笑っていることが多くて、おもしろいことをいって相手を和ませたり、楽しませたりします。

 けど、その笑顔の裏には、哀しみがある。そんなことを演じながら感じていました。

 また、彼女の笑顔の裏側まで伝えられるように演じました」

(※第三回に続く)

【丸純子インタビュー第一回はこちら】

「あいたくて あいたくて あいたくて」ポスタービジュアル
「あいたくて あいたくて あいたくて」ポスタービジュアル

「あいたくて あいたくて あいたくて」

監督:いまおかしんじ

出演:丸 純子 浜田 学

川上なな実 柴田明良 青山フォール勝ち 山本愛香

足立 英 青木将彦 松浦祐也 川瀬陽太

栃木・小山シネマロブレにて11/4~、兵庫・元町映画館にて11/5~公開

場面写真およびポスタービジュアルは(C)2022レジェンド・ピクチャーズ

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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