Yahoo!ニュース

中国の力づくの統治に市民は沈黙。危機に瀕した香港の未来の行方は?過去の大事件が教えてくれること

水上賢治映画ライター
「Blue Island 憂鬱之島」のチャン・ジーウン監督  筆者撮影

 いま日本において報じられるワールドニュースは、ほぼウクライナ一色になっている(※それでも戦争の長期化で報道の量はかなり減ってきてしまった)。

 ただ、当然のこととはいいたくないが、ほかの国でも武力衝突や紛争がいまも起きている。

 そこで、思い出してほしい。ほんの数年前、日本でもしきりに報じられていたのは香港の民主化デモに関するニュースだった。

 でも、いま香港について報じられるニュースはごくたまにある程度。めっきり少なくなってしまったと言わざるをえない。

 映画「Blue Island 憂鬱之島」は、改めて香港について深く考えるとともに思いを寄せることになる1作だ。

 あれだけ大規模な民衆によるデモがあった香港はいまどうなっていて、人々はどこへ進もうとしているのか?

 そのことを点ではなくこれまでの歴史という線でとらえようと試みている。

 手掛けた香港のチャン・ジーウン監督に訊く。(全四回)

「文化大革命」「六七暴動」「天安門事件」に注目した理由

 前回(第一回はこちら)は、デビュー作「乱世備忘 僕らの雨傘運動」から、本作「Blue Island 憂鬱之島」の制作へと至った経緯について主に訊いた。

 ここからは作品の内容についての話に入る。

 まず、本作の大きなポイントとして香港の社会に大きな影響を与えた過去の歴史を振り返っていることがあげられる。

 その中で、「文化大革命」(1966~1976年)、「六七暴動」(1967年)、「天安門事件」(1989年)をピックアップして、この激動の歴史を乗り越えてきた人々に目を向けた。

 その理由をこう明かす。

「この3つの出来事は、香港の歴史を語る上で欠かせない。

 ただ、1987年生まれのわたしにとってはかなり遠い昔のこと。かなり距離があったんです。

 1989年の天安門事件のときは、生まれてはいますけど、幼過ぎて当然ですけど記憶にない。

 実体験もないので、かなり距離があることだったんです。

 ただ、いまの香港の社会を考えたとき、確実にこの3つの事件は大きな影響を与えている。

 よく言われることですが、過去の歴史というのはいろいろなことを教えてくれます。これからを考えたときに、過去から学ぶことは多々ある。そこで着目しました。

 ただ、当初はどうこの3つの事件と向き合えばいいのかわかりませんでした。

 というのも、いずれも世界的に知られているひじょうに大きな事件で、すでにいろいろと語られている。

 あまりに大きな事件なので、なにから手をつけていいかわからなかったんです(笑)。

 でも、よくよく考えていくとわたしが知りたかったのは、事件の全容や歴史的な意義といったことではない。

 この事件を実際に体験した市井の人々の声だということに気づきました。

 とりわけ若い世代が当時感じたことを知りたかった。

 一個人から大きな事件を見つめることで、なにか見えてくることがあるのではないかと考えました」

「Blue Island 憂鬱之島」より
「Blue Island 憂鬱之島」より

いつの時代も香港の未来を考える若者たちがいた

 作品は、1968年に中国大陸からまさに死と隣り合わせて香港へと逃れて自由を手にした男性、1989年、学生の抗議運動を支援するため北京へと向かった男性らが登場。彼らの証言をもとに再現ドラマを作ることにし、その演者には香港民主化デモに参加した学生などを起用した。

 そこからは香港のたどってきた歴史が紐解かれるとともに、いつの時代にもどんなときにも立ち上がり自由を求めた若者がいたことが浮かびあがる。

「そうなんです。

 今回取り上げた3つの歴史的出来事は、違う時代に起きていて事件の背景も違う。

 政治的な意味合いも違う。たとえば、「六七暴動」(1967年)は、どちらかというと親中派が起こしたものでした。

 当時、香港はイギリスの植民地ですから、大陸の中国が香港を取り戻すということを望んで起こしたものでした。

 一方で、1989年の天安門事件は、逆に香港にいる香港の中国人たちが中国の民主化を望んで、そうなれば香港も中国も良い方向へ進むと思ってかかわっていました。

 ところが、この映画に登場したいまの香港の若者たちは香港について考えるときに中国と離れたほうがいいと考える人が多い。

 このように違うんです。

 でも、それぞれを通してみると、共通点が見えてくる。

 それは、いつの時代も香港の未来を考える若者たちがいたことにほかならない。

 過去においても今においても、こういった運動に参加した若者たちは逮捕されり、裁判を受けたり、あるいは自由を失ったりしている。香港を離れなければならなかった者もいる。

 でも、それでも香港の未来が少しでも良くなるように真剣に考える若者たちがいつの時代にもいた。

 そして、今もその精神は引き継がれて立ち上がる若者たちがここ香港にはいる。このことにわたしは気づかされました。

 それは希望を失ってはいけないことを教えてくれた気がします」

(※第三回に続く)

【チャン・ジーウン監督第一回インタビューはこちら】

「Blue Island 憂鬱之島」より
「Blue Island 憂鬱之島」より

「Blue Island 憂鬱之島」

監督・編集:チャン・ジーウン

プロデューサー:(香港)ピーター・ヤム アンドリュー・チョイ/

(日本)小林三四郎 馬奈木厳太郎 

登場人物:チャン・ハックジー、アンソン・シェム、ティン・シウイェンほか

公式HP:blueisland-movie.com

ユーロスペースほか全国順次公開中

場面写真は(C)2022Blue Island project

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

水上賢治の最近の記事