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主役は本物の漁師!「人物に真実味を宿せるかどうかが重要、そこではプロも素人も関係ない」

水上賢治映画ライター
「ルッツ 海に生きる」より

 映画「ルッツ 海に生きる」は、南ヨーロッパに位置し、地中海に浮かぶ複数の島からなる島国、マルタ共和国から届いたマルタ映画だ。

 「マルタ」ときいてもあまりピンとこない、なんだかあまりなじみのない、遠い国の話を想像してしまうかもしれない。

 ただ、ひとりの漁師を主人公にした本作は、現在の日本の社会とも大差ない、きわめて今日的な物語としてわたしたちの心へ届いてくる。

 手掛けたマルタ系アメリカ人で、現在はマルタ在住のアレックス・カミレーリ監督に訊く。(全四回)

「ルッツ 海に生きる」のアレックス・カミレーリ監督
「ルッツ 海に生きる」のアレックス・カミレーリ監督

プロの俳優ではない本物の漁師を起用した理由

 前回は主にストーリーについて訊いたが、今回はキャスティングの話から。

 主人公のジェスマークと、彼の善き漁師仲間であるキーパーソンのデイヴィッドは、地元で漁をしている本物の漁師。

 これはみてもらえればわかると思うが、本物の漁師だと言われたら、それはそれで「なるほど」と思うが、俳優ではない言われると「え、俳優さんじゃないの」と驚かされるぐらいすばらしい演技をみせている。彼らの演技は、世界の映画祭でも大絶賛の声を集めた。

 プロの俳優ではない彼らをなぜ起用したのだろうか?

「ジェスマークとデイヴィッドにはリサーチをする過程で偶然出会いました。

 それで前にお話しした通り、彼らとしばし行動をともにしました。

 で、実は、二人には会ってすぐに『スクリーンテスト』をしたいと僕の方から申し出たんですよ。

 二人が海で仕事をしているときに、僕はボートに乗って近くにいたんですけど、その場で『スクリーンテスト』をお願いしました。

 二人もおそらく『アメリカから来たフィルムメーカーを名乗る男が何を言ってんだ?』と怪しんだと思うんですよ。

 でも、なんと彼らは『いいよ』と承諾してくれたんです。

 で、その場で、カメラをオンにして設定を提供して即興でシーンを演じてもらったんです。そうしたら、これがすばらしかった。

 もちろん、漁師という設定だったので、二人はおそらくこれまで経験してきたことに基づいてやってくれたんだと思います。

 でも、それにしてもすばらしくてその感情表現に説得力があった。その瞬間、私は『この2人に出てほしい』と思いました。彼らを主人公にして90分の映画が作れるという確信が持てたんです。

 ただ、そのことは彼らに特に伝えることなく、マルタでのリサーチを終えて、一度、ニューヨークに帰国しました。

 帰国後、脚本を書き進め、3~4カ月後に脚本が完成しました。

 そして、マルタに戻り、ジェスマークとデイヴィッドを訪ねて伝えました。『あなたたちがこの映画の主役ですよ』と。

 すると、『いいよ』と言ってくれた。

 幸い、彼らはわたしのことをクレイジーなやつだとは思わなかった。

 もし、ここで『ノー!』と言われたら、またゼロからやり直さなければならない。

 振り返ると、よくこんな賭けのような怖いことをやったなと思うのですが、なぜか当時のわたしは、そういう行動に出たんですね」

「ルッツ 海に生きる」より
「ルッツ 海に生きる」より

マルタのルッツでの漁というものを誰かに知ってほしかったのかもしれない

 なぜ、二人は承諾してくれたのだろうか?

「本人に確認したことはないのですが、おそらく、漁師である彼らの日常や仕事に部外者で関心を持ってくれた人が今までいなかったんじゃないかと思います。

 それが大きかったのではないかと思います。マルタのルッツでの漁というものを誰かに知ってほしかった。そのことでわたしの申し出を引き受けてくれたのかなと思っています」

二人のことは尊敬していますし、誇りに思っています

 彼らには感謝する毎日だという。

「たとえば誰かがいきなりわたしのところにやってきて、『普段やっていることはまったく違う仕事をやってくれ』と言ってきたら、断ると思うんです。『そんなやったことないことできない』と。

 でも、ジェスマークとデイヴィッドは引き受けてくれた。

 そして、わたしのことを信じてくれてずっとついてきてくれた。

 ほんとうに感謝しかないです。

 二人のことは尊敬していますし、誇りに思っています」

キャスティングは、演じる人物に真実味を宿せるかどうかが重要

 二人を通して、キャスティングについてこのようなことも考えたという。

「俳優の価値というのは、たとえば、知名度であったり、演技の力量であったり、ギャランティの高さで計られがちで。

 キャスティングも、そういった名が知れているとか、このギャランティならこの役者が使えるとかで決まっていく側面がある。

 でも、そういうことは二の次というか。そんなことよりも、その演じる人物に真実味を宿せるかどうかが重要で。そこにはプロもノンプロも関係ない。

 その人が真実味をもたすことができるかどうか。

 監督としてはそう思えた人を起用して、その秘めた力を引き出せばいい。

 その期待にジェスマークとデイヴィッドは見事に応えてくれて、与えられたけっして簡単とはいえない役をやってのけてしまった。

 すごいことだと思います。そして、二人はわたしに、キャスティングにおいて大切にしなければいけないことを教えてくれました」

なんだか恥ずかしいようなことを言っていました

 二人はこの映画についてどんな感想をもっているのだろう?

「彼らはまず『この映画はきっとマルタの漁師たちの村やコミュニティで、とても喜んでもらえるものになると思うよ』と言ってくれました。

 この言葉は、わたしにとってとても励みになりました。きちんと漁師の現実をリサーチして、この映画に真摯に取り組んでありのままを描いたという、気持ちがあったので、それが認められてひとつ安堵しました。

 それから、おもしろいエピソードで言うと、二人はよく知った漁師仲間から『君たちはアーティストだよね』とか言われてからかわれているみたいで、なんだか恥ずかしいようなことを言っていました」

「ルッツ 海に生きる」より
「ルッツ 海に生きる」より

私は、マルタをマルタとして描いていきたい

 こうして自身のルーツであるマルタで映画を完成させたアレックス・カミレーリ監督だが、次回もマルタを舞台した作品を構想中だ。

「マルタはこれまでさまざまな作品の舞台になっている。ロケーションとしてはものすごくいろいろ私は、マルタをマルタとして描いていきたいなところでフィーチャーされています。

 けれども、マルタが舞台の作品、真の意味でマルタのことを描いた作品というのは少ないんです。

 ですから、私は、マルタをマルタとして描いていきたいと思っています。

 いわゆる観光地的なものではなくて、マルタの人でもなかなか見たことがない、だけれども、確実にマルタにある日常を描きたい。

 マルタの人々の間には、『マルタが舞台の映画はある、でも、自分たちのようなマルタ人が登場する映画はない』といったような映画への意識があるんです。

 ただ、その中で、ありがたいことに『ルッツ 海に生きる』には、『これはマルタの映画だ』『これはわたしたち(マルタの人々)のことを描いている』といった声をいくつかいただいたんですよ。これはなによりも光栄なことで、これからもマルタの映画を作りたいと思っています。

 いま新作にとりかかっているのですが、ジャンルとしては、『ルッツ 海に生きる』とはかなり違った趣きの作品を考えています。

 ただ、『ルッツ 海に生きる』のノウハウは生かしていて、またプロではない俳優を起用する予定で、現実世界に基づいた物語になります。

 ひとつだけ明かすと、マルタのフォークミュージックというか、トラディショナル音楽、いわゆる伝統音楽を主題にする予定です。

 期待していただければと思います。まあ、でもその前に、まずは『ルッツ 海に生きる』を見ていただければうれしいです。

 <SKIPシティ国際Dシネマ映画祭>のときと同じように、日本のみなさんからまたたくさんの感想が寄せられることを楽しみに待っています」

【アレックス・カミーレリ監督第一回インタビューはこちら】

【アレックス・カミーレリ監督第二回インタビューはこちら】

【アレックス・カミーレリ監督第三回インタビューはこちら】

「ルッツ 海に生きる」より
「ルッツ 海に生きる」より

「ルッツ 海に生きる」

監督:アレックス・カミレーリ 

出演:ジェスマーク・シクルーナ ミケーラ・ファルジア 

デイヴィッド・シクルーナ

全国順次公開中

写真はすべて(C)2021 Luzzu Ltd

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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