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ウクライナに思いを寄せるチャリティ上映。いまこそ見てほしいウクライナの日常が詰まったウクライナ映画を

水上賢治映画ライター
「この雨は止まない」より  (C)Square Eyes Film

 埼玉県川口市のSKIPシティで現在開催中の<SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022>は、白石和彌監督や上田慎一郎監督ら、現在日本の第一線で活躍する才能を発掘。いまや「若手映像クリエイターの登竜門」として知られる。

 これからの未来を担う世界の映像作家たちが集うメインプログラムの国際及び国内コンペティション部門の賞の行方も気になるところだが、今回の開催ではひとつぜひ心を寄せたい企画がある。それは、<チャリティ上映「ウクライナに寄せて」>だ。

 いまウクライナが大変な状況になっていることはご存知の通り。その中で、「なにかSKIPシティ映画祭としてできないか」ということで急遽組まれたのがこの企画だ。

 また、たとえば昨年のグランプリ作品で現在公開中のマルタ映画「ルッツ 海に生きる」のようなあまりなじみのない国の隠れた秀作を積極的に見出してきた本映画祭だから可能になった企画ともいえ、このチャリティ上映では、過去に入選したウクライナ映画2本が上映される。

 この試みに至った経緯や作品について、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭のプログラミング・ディレクター、長谷川敏行氏に訊く。(全三回)

日常の中に常に戦争の火種があって、

今回のウクライナのようなことがいつなんどき起こる可能性がある

 前回(第一回)に続き、<チャリティ上映「ウクライナに寄せて」>で上映される1作「この雨は止まない」についての話から。

 「いまみると深く考えさせられることがある」という話が出たが、昨年のオンラインでのインタビュー時、アリーナ・ゴルロヴァ監督はこんなことを語っていたという。

「戦争や紛争は繰り返され、終わることがない、常にどこかで起きている、ということを『この雨は止まない』というタイトルが表している、とお話ししましたけど、監督のアリーナ・ゴルロヴァさん自身が、その境地にたっているといいますか。アリーナさんにとって、もう戦争はすぐ隣にあるもの、常に起こりうるものという意識があるのではないかと感じました。

 わたしたちは今回のウクライナのように起きてから、急に平和が当たり前ではないこと、昨日まで普通の日常が送られていた街が戦場と化すといったことに気づく。

 でも、アリーナさんは、もう自分たちが目にするものはごく一部に過ぎない、報じられない戦争や争いが世界の各地で、どこかしらで、常に起こり続けている。人間が地球上に生きていると、必ずそういうことが起きうる。そのことを常に心にとどめておかなければいけない、といった考えをお持ちのようでした。

 なので、今回、ウクライナの現状を見て急に関心をもって心を痛めた自分は、ちょっと恥ずかしいというか。アリーナさんはその先までみて、戦争というものをとらえ、この映画で表現しているのではないかと。

 わたしたちからすると、戦争はイコールで悲劇とイメージ化されると思うんです。ある種、特別視するところがある。ただ、アリーナさんの中では、ちょっと違って、日常の生活の中に潜んでいるもの。だからこそ、ふだんから気をつけないといけない、というとらえ方をしているところがありました。

 今回、改めて作品を前にすると、日常の中に常に戦争の火種があって、今回のウクライナのようなことがいつなんどき起こる可能性があることを示唆していて、ほんとうにハッとさせられます」

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭のプログラミング・ディレクター、長谷川敏行氏 提供:SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022 
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭のプログラミング・ディレクター、長谷川敏行氏 提供:SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022 

いまに続くウクライナとロシアの関係がひじょうに色濃く反映されている 

 話は変わって、もう一本の上映作品「ラブ・ミー」へ。こちらは独身の最後を楽しもうとウクライナ旅行に出たトルコ人のジェマルと、彼とクラブで出会ったウクライナ人のサーシャの関係の行方を見つめた大人のラブ・ストーリーになる。

「親が決めた結婚を控えたトルコ人のジェマルが、クラブで出会ったサーシャに誘われ……。ただ、実は、彼女には別の思惑があって……、というストーリーで、2013年制作ということでかれこれ10年近く前の作品になる。でも、いまに続くウクライナとロシアの関係がひじょうに色濃く反映されていることがわかる作品です。

 ウクライナ人のサーシャは、ロシア人のパトロンがいなければ彼女の家族は生活をしていけない。逆を言えば、家族をたべさせるために彼女はロシア人の愛人(になっている。そういう立ちいかない状況に置かれている。

 ただ、世間の目はすごく冷たい。パトロンの存在で豊かな生活をしているけれども、たとえば駅で中年の女性に『毛皮なんか着て』と、『あんた、そういうロシアの男がいるんでしょう』といったように蔑視されている。

 そういうところからロシアとウクライナの関係がみえてくる。

 このケースに限らず、ウクライナの中にロシアの存在が確実に組み込まれている。つまり、ウクライナの中に、確実にロシアの影響が及んでいて逃れられないことを物語っている。そう考えると、いま起きていることにつながって、この作品も『この雨は止まない』と同様にいろいろと考えさせられる。ロシアとの紛争的なものは一切描かれてはいないんですけど」

「ラブ・ミー」より 提供:提供:SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022
「ラブ・ミー」より 提供:提供:SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022

キーウの街とそこで暮らす人たちの日常が映し出されている

 それから「ラブ・ミー」は、キーウが舞台。その美しい街並みや建物が作品には収められている。

「ほんとうに美しい街であることが映像から感じられる。

 それがいま、原型をとどめているのか、どうなのか、わからない。そのことを想像すると複雑な気分になる。

あと、地下鉄の構内とか出てきますけど、こことかはもしかしたらいま、シェルターとしてウクライナ市民が避難しているのかなとか考えてしまいますね。

 キーウの街とそこで暮らす人たちの日常が映し出されているので、いまどうなっているかわからない、もしかしたらもう二度とみれなくなってしまっているかもしれない。そう考えるとほんとうに心が痛みます」

 そうしたウクライナの現実を感じとれる一方で、そういう背景を抜きに大人のラブストーリーとしても楽しんでもらいたいところがあるという。

「今回、改めて見直したんですけど、やっぱり好きだなと思いました。

 言葉の通じ合わない者同士が、互いを意識して、というのはよくあるラブストーリーの王道パターン。

 ただ、ほんとうによくできていて、二人の心の変遷もきちんと伝わってくるし、いくつも伏線があるんですけどきちんと利いていて最後に回収されていく。

 ジェマルとサーシャの関係を通して、人間のそう簡単には白黒つけられない善と悪の部分や、そう簡単には割り切れない感情が伝わってくる。

 すばらしい大人のラブストーリーに仕上がっているなと思います」

提供:SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022
提供:SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022

<SKIP シティ国際 D シネマ映画祭 2022>

会期:《スクリーン上映》2022年7月16日(土)~7月24日(日)

《オンライン配信》2022 年7月21日(木)10:00 ~7月27日(水)23:00

会場:SKIP シティ 彩の国ビジュアルプラザ 映像ホール、多目的ホール(埼玉県川口市)、メディアセブン(埼玉県川口市)ほか

オンライン配信:特設サイト(Powered by シネマディスカバリーズ)にて配信

<チャリティ上映「ウクライナに寄せて」>

「この雨は止まない」

上映日時:7月22日(金)17:00 多目的ホール

配信日時:7月21日(木)10:00 ~ 7月27日(水)23:00

「ラブ・ミー」

配信日時:7月21日(木)10:00 ~ 7月27日(水)23:00

詳細は公式サイトへ www.skipcity-dcf.jp

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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